第12話

 手製の測定器具が完成するまでに2週間を要した。

 想像以上に時間が掛かったのは魔法の理解が浅かった事と実験を念入りに行なったからだ。

 形状も板状でまな板に見えるほど薄く出来ている。

 完成したそれを持って魔女の元に向かった。

 魔女はお茶をたしなみ、クッキーを食していた。

「あらユウ君、何のようかしら?」

「測定するための器具を統合することに成功しました」

「……ん?」

 魔女は不思議そうに首を傾げた。

 仕事とは無関係に勝手に作ったものだ。

 これは趣味の域でしかない。

 そんな代物を紹介されるのだから戸惑うのも解らくはない。

「計測器具の術式をすべて調べ、重複する式を一つにまとめることで、

小型化し複数の計測を並列マルチタスク処理することが出来るようなったんです」

「……そうなの?」

 口で言っても理解はされないだろう。

 器具を使い魔石の測定を始める。

 板に計測項目と計測値が表示された。

 ボタンを押すと次の項目が表示されていく。

「ワンタッチで次々と計測結果が解るし、戻ることも出来ます」

「随分と計測が早いようね。

本当に正しい計測が行われているのかしら?」

「はい、計測は順序良く効率的に行っています。

それで項目順ではなくなってしまいました」

「質問していいかしら?」

「どうぞ」

 予想される質問の答えは用意してある。

 事前に予測することで、潤滑に答える事ができるのだ。

 魔女の質問は想定内事ばかりで問題なく答えることが出来た。

 前世の記憶がなかったら、ぶっつけ本番で質問に悩みもながら答える事になっただろう。

 こんなチートみたいな状況は最高に気分がいい。

 魔女は微笑み最後の質問をした。

「計測器具はギルドの審査を受ける必要があるわ。

これを審査に出しても良いかしら?」

「勿論です」

 この何気ない質問が大失敗だったと知るのは後々の事だ。

 ギルトの審査が怖いものだと知らなかったからだ。


 

 月日は流れ3ヶ月が過ぎようとしていた。

 仕事も順調であの器具の事が頭から消えていた。

 そんな頃に魔女に呼び出された。

「ギルドの審査が終わりました。

素晴らしい性能で特3等級との評価を受けましたわ」

「それって凄いのか?」

「一億前後の価値があると言う事なの」

「それって凄い、大金持ちになれるじゃないか」

 作ったものがそんなに高く評価されるなんて信じられない。

 前世ならあり得ないことだ。

 俺は感激のあまり涙が溢れていた。

「話はそんなに良くないわ。

だってそんな高い器具を買いたいという人は居ないでしょう?」

「えっ?」

 魔女は何を言っているんだ。

 高ければ安くすれば良いだけだ。

「ギルドが決めた適正価格より安くは売れないの。

そんな事をすれば値崩れして物価が崩壊する」

 談合しているのか。

 いや独占禁止法みたいなのがないんだ。

 だからギルドで決めた価格でしか売れないのだろう。

「売れないのは残念だけど、元々自分で使うために作った物だから」

「審査の手数料は販売価格の10%って決まりがあるの。

つまり一千万を貴方に払って欲しいわ」

「えっ……、そんなこと聞いてない」

「私の見立ててでは、高くても10万程だと思っていたの。

それぐらいなら私のポケットマネーで支払おうと思っていたわ」

 予想外の高級品だったから、費用を払えと言うことなのだろう。

 俺が作ったものが原因で魔女に大損させてしまう事になるのは流石に可愛そうだ。

 でも俺が何か悪いことをした訳でもないのに、借金をするのも滅茶苦茶だ。

「なんとか成らないのですか?」

「代金は私が建て替えておいたから、

利息が増えることはないわ」

「……余計なことをしなければ良かった」

「いいえ、才能を活かせる部所に移動してもらうわ。

今の仕事よりも報酬は良くなるから、直ぐに完済出来ると思う」

「えっええ……?」

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