第10話

 代案が思いつかないまま一日が過ぎていた。

 偉い人の言葉だが、99%の努力に1%の閃き。

 どんなに努力しても1%の閃きがが無ければ無に帰すと言う言葉だ。

 そう今の俺に必要なのは、その閃きだ。

 いやまだ努力が足りていないのか?

 魔法について知ろうとしたか。

 テーブルに置いてある加熱石版を触り始めた。

「壊れているって話だったよな……」

 黒い円盤に刻まれた文字の部分に到達する亀裂が入っている。

 これを修復は出来ないものなのだろうか。

「そもそもこの材質は何だ?」

 手にとって見るが固く薄っぺらい。

 石……、黒曜石みたいなガラスっぽさがあるような。

 爪で弾くと綺麗な音が響いた。

「金属?」

 風鈴を思い出すような、そんな心地よさ。

 何度も叩いて鳴らして前世の夏を思う。

「幼い頃の夏休み、スイカを食べて空に咲く花を見たな……」

 青い火が円盤を覆う。

「うわっ」

 熱くはなかったが反射的に手を離し落としてしまった。

 やばい火事になる!

 踏んで消そうとしたが、直ぐに火が消えて灰となっていた。

「なんだ……」

 床が真っ黒だ。

 掃除しないと怒られる。

 直ぐに手でかき集め拭いた。


「ビックリした。

なんで火がついたんだ……」

 火打ち石は、金属のほうが熱を持ち火花を散らす。

 石同士をぶつけても火花は散らない。

 爪で発火するような代物だったと言うことか?

「いやいや、簡単に燃えるならどうして加熱した時に燃え尽き無いんだ。

何か知らない法則でもあるのか?」

 疑問が次々と浮かんでくるが、解決する答えは皆無だ。

「そう言えば魔法の素質を調べた時3はあったんだ。

もしかすると魔法が使えるのかもしれない」

 0じゃないなら可能性はある。

 魔法は文字に意味があるとしたら、同じような文字を刻めば効果を発揮するのかもしれない。

「試して見る価値はある」

 丁度、削るのに失敗した木の板がある。

「ペンか何か無いのか。

下書きしてから刻みたいんだけどな」

 道具を借りると成果を問われそうな気がした。

 もし何も出来てないと言ったら失望されるかもしれない。

 木は爪でも簡単に傷がつくほど弱い。

 浅く傷を入れれば書く必要はないか。

「良し、実験開始だ」

 残った円盤は2つとも同じ文字が刻まれている。

 全部同じ呪文が書かれていたということだ。

 丁寧に爪で木の板に傷を入れていく。

 文字を書き終えると文字が赤く輝いた。

「んんっ?」

 木の板は青く燃え上がった。

 熱くはなく、今度は手を離さずに持っていた。

 火が消えると、薄い円盤状になっている。

 指で軽く叩くと、文字が反応して赤く光った。

「出来たんだ。

炭化して固くなっていたのか……」

 俺が作った円盤は、元の円盤の倍ぐらいの大きさだ。

 古い円盤の代わりに自作の円盤をはめ込む。

「熱くなれ!」

 念じると文字が輝き熱を発し始めた。

 蒸気機関の完成だった。


 だが気密性が低く、蒸気が漏れ自重で動くことはなかった。

「失敗……、木製だから圧力が足りないんだ。

車を動かすには金属製で圧が出るようにしないと……」

 ベルトを外すと、ピストン構造は動き曲軸によって回転はする。

 機能としては問題ない。

「はぁ……失敗か。

それに蒸気で熱い」

 窓を開けると涼しい風が入ってくる。

 いい風だよな。

「風だ!」

 何も自動車にこだわる必要はない。

 回転を利用すれば扇風機だって作れるはずだ。

 直ぐに加工を始めた。

 

 羽根は不格好で直線的にはめ込んだだけで、曲線美はない。

 むき出しで安全性は皆無だ。

 そんな事を考えていたらいくら時間があっても足りない。

 動かすと弱い風を送り出す事はできた。

「良しっ、これなら行ける」

 俺は直ぐに魔女に見せた。

 魔女は苦笑いする。

「これは何のための装置なのです?」

「風で涼しむ事ができます」

「蒸気で熱くて、それに魔気を消費するから疲れてしまいます」

「……ううっ」

「本当に不思議。

どうして回転するのでしょうね」

 いや俺に言わせれば魔法の方が不思議だ。

 機械を知らない者には俺にとっての魔法と同じぐらい難解なのだろう。

「出来ることを考えた結果です」


 魔女は自作の円盤を手に取り眺めて言った。

「これは貴方が作ったのですか?」

「はい、複製しただけです」

「明日から職場に来れるかしら?」

「はい、喜んで」

 

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