第9話

 なんかもやもやした気持ちがあるが、今はそんな事を考えるている場合じゃない。

 何を作るかだ。

 ふと窓から馬車が通ったのが見えた。

 徒歩か馬車が移動手段であり、自動車は存在していない。

 火を操れるなら、蒸気機関で車を走らせることが出来るだろう。

 それなら魔女でも驚くに違いない。

「良し、どうすれば作れるのか想像ができる。

なら後は実行に移すだけだ」

 必要な材料は木材があれば十分だろう。

 そう言えば母からお小遣いを振り込んで貰ったな。

 はぁ、それでも元手より少なくなってる。

 料理の失敗は繰り返さないようにしないと。

 出来るだけ工夫をして出費を抑えたい。


 工具は借りることにして、直ぐに木材を買いに行った。

 古ぼけた店に木材が並べられている。

 店主らしい髭面の男が眠そうに座っていた。

「この木材を円形に加工してくれないか?」

「ちっ面倒な奴が来た」

 男はいやいやそうに木を切り渡してきた。

 輪切りにしだけで歪な円形となっていた。

「ちゃんと削って円形にしてくれよ」

「ああっん、文句があるなら自分でやれ!」

 なんだこの店は、客に対してなんて高圧的なんだ。

「道具を貸してくれるなら自分で切る」

「ほれっ、これを貸してやる」

 ナイフ一本を渡された。

「……無いよりかはマシか」

 仕方なくナイフで少しずつ削る。

 思ったよりも柔らかく深く削りすぎてしまった。

 力加減が意外と難しい。

「もう一個欲しい」

 男は嫌な顔をしつつも切り取って渡してくれた。

 次は失敗しないように削らないとな。

 

 慎重に削ると時間は掛かったもののうまく出来た。

 これなら残りの分も作れそうだ。 

 タイヤの部分と曲軸クランクにも必要か……。

 つまり後4つ。

 一刻もはやく、こんなムカつく奴から離れたいというのに……。

 作り始めると、奴の存在を忘れ夢中になっていた。

 構造を思い出し形を想像していく。

 脳内で立体的な図面が出来上がっていく。

 歯車は強度を考えれば、回転する前に破損するだろう。

 だったら歯車は使えない。

 ベルトを使って回転を車輪に伝える方法にしよう。

 想像シミュレーションすることで無駄に素材や時間を浪費せずに済む。

 

 素材を集め館に戻ると、アンズが出迎えてくれた。

「あら、逃げ出したのかと思っていました。

何か秘策でもあるのですか?」

「勿論、俺にしか出来ない事をするつもりだ」

「それは面白い。

見学しても良いかしら」

 見られるのは気が散るが無下に扱うわけにも行かない。

「後ろで見るなら良い」

 もしアンズが、作ろうとしているものを予測できるなら、この計画は失敗だ。

 この世界にも蒸気機関があり、模倣にすぎない。

 前世の模倣であっても、この世界の者が知らなければ唯一の物になる。

 もし魔女が前世の知識を持っていると知ったらズルいと言うだろうな。

 後ろめたさは感じることはなかった。

 俺の知識を使い、想像して俺らしいものを作り上げているからだ。

 

 組み立ては簡単に出来上がった。

 後は動力部分、……鍋に水を入れて蓋をする。

 加熱石版で鍋を加熱すれば、蒸気がたまり蓋を持ち上げ棒を伝い曲軸を回す筈だ。

 想像では完璧に動く筈だったが、全く動く気配がない。

「んんっ、なんで動かないんだ」

 アンズがクスリと笑う。

「その石版は壊れているわ。

だからあの時反応がなかったのよ」

 俺が原因じゃなくて、石版の方に問題があったのか。

 という事は、加熱出来ないって事だ。

 つまり蒸気が作れない。

 いや薪をくべて火をつければ……。

 駄目だ。

 それは完全に魔法から離れてしまう。

「どうすれば良いんだ……」

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