第7話

 魔女は儲かる仕事なのだろう、通された部屋には絵画や数々の置物がある。

 中でも木で作られた杯には、何か惹かれる魅力があった。

 木の質感と言うか、掘られた美女の姿がとても美しくまるで生きているかのような動きを感じる姿勢が……。

「どうしてそれを選んだのです」

 気がつけばその杯を手にとって見ていた。

「あっ、すみません。

つい見とれてしまいました」

「そんな安物が欲しいなら、差し上げましょう」

「これが安物なのか。

この芸術的な美女を彫れるのは中々優れた技師だと思ったんだけど……」

 突如、少女が部屋に入って来る。

 歳は今の俺と対して変わらない位だ。

 短く波打つ髪が揺れ動くほどに素早く俺の目の前に顔を近づけた。

 意外と可愛らしい。

「貴方が新しく来た子なのね。

私はアンズ、よろしく」

「どうも俺はユウ」

 アンズは微笑むと、杯を奪い取るとテーブルに置き水を注いだ。

 すると水が人の姿となりお辞儀する。

 これが魔法……、すごい。

「これぐらいの芸は出来るかしら?」

「俺は魔法の知識も何もない。

だから学ぼうと思っている」

 こんなに面白いものが見られるなんて最高だ。

 それが自分でも出来るならなんて素晴らしいんだろうか。

 魔女はアンズを椅子に座らせた。

「娘が大変失礼しました。

すこし悪戯好きで困ったものです」

「お母様、彼に現実を教えてあげたら。

未経験で出来る仕事はないって」

 そう言うとアンズは部屋を出ていった。

 正直、ムカっと来たが大人なんだから少女の戯言ぐらい多めに見ようと笑みを作る。

「俺に出来ることなら何でもやります。

しごいて下さい」

「まずは能力を調べさせてくれるかしら?」


 魔女は能力を調べるために別の部屋と案内した。

 そこには俺と同じぐらいの背丈の巨大水晶玉が置かれていた。

 おそらくこれに触れると能力が解るのだろう。

 手を当てると、水晶玉が輝く。

「触れなくてもいいのよ。

手をかざすだけで計測できたわ」

「あっ、すみません……」

 慌てて手を離すが、指紋がぺったりついてしまっていた。

 ハンカチですぐに拭き取る。

 そうしている間に、水晶に文字が浮かび上がっていた。

 魔女の文字は読むことが出来ないが数字は何となく分かる。

 どれも一桁だ。

「これまで記録を塗り替えたわ」

「そんなに良いんだ」

「逆ワースト記録、魔術の才能が3って……。

今では11が最低だったよ」

 前世は魔法とは無縁だった。

 そして、この世界での経験も全くない。

 つまり低いのは当然。

 こんな所で挫折するのか。

 嫌、それは前世と同じだ。

 点々と転職し何をやっても満足できなかった。

 だってやりたい仕事ではなかった。

 

 アンズが見せてくれた魔法。

 あれにはロマンが感じられた。

 少なくとも今は習得したい。

「俺はそれでも諦めません」

「少し時間を与えましょう。

それで私を納得させられる力を見せなさい」

「直ぐに何か思いついたり出来ない。

二~三日は欲しい」

 焦って口走ってしまったが、一週間は最低でも欲しい。

 魔法について調べるのにどれぐらい時を要すのか解らないからだ。

「それぐらいなら待ちましょう」

 ああっ……、時間が足りない。

 ぐにゃっと世界が歪んだ気がしたが、今動かないと何も得ない。

 絶望を突き破るために一歩を踏み出した。




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