第5話
仕事を再開した俺は猛烈な勢いで掘り続けていた。
「お金だ、わっしょい」
前世の仕事に比べれば楽なものだ。
精神的なプレッシャーもなければ、陰湿な嫌がらせもない。
いくら頑張っても評価されず、賃金も変わらない。
そんな世界から脱出したんだ。
そう思うだけで、力が漲っていた。
それだけではないのだろう、肉体的にも若返っている事も影響しているのか疲れにくいのだ。
どれぐらい掘ったのだろうか、目の前に光るモノが通り過ぎた。
「うわっ!」
それは光る蝶に見えたが、違った。
手のひら程の小人の背に蝶の羽根が生えているのだ。
ゲームでもよく見る妖精だ。
そうだ、ここは異世界なんだ。
人外の生き物がいるのは当たり前のことだ。
問題はそれが敵なのかである。
「あれって大丈夫なのか?」
「あれって何んだよ」
どうやら先輩には、妖精が見えてないらしい。
そんな不思議なこともあるのも異世界ならではなのか。
困ったな。
前世での呼び名で言っても通じるわけはないしどう伝えれば良いのか。
ここはシンプルに見たままを伝えるしか無い。
「光る蝶みたいなの」
「見えるのかい。
それはフェアリだよ」
「それって良いことなのか?」
「宝石の場所を教えてくれるらしい。
だけど見つけた宝石の一部を切り分けて与えないと、次は魔物の巣へ案内するんだって」
「なるほど俺を使って、宝石を得たいってことか」
神秘的な存在かと思えば、現金なやつだとわかり親しみを感じた。
俺は妖精の後を追いかけた。
妖精が特定の場所でぐるぐる旋回するように飛んで進まなくなった。
おそらくその辺りを掘れば宝石が出てくるのだろう。
勢いよく掘ると、ゴロゴロと原石が出てきた。
掘り方が荒かったのか砕けて割れてしまっていた。
前世なら大きいほど価値が高かった。
ここでもそれは変わらないだろう。
これは失態だ。
それでもこぶし大はある。
小さいものは残し、大きいものだけ持っていくことにした。
俺が少し離れると、それでま一定距離を保ち離れていた妖精が拾いに降りてくる。
「取って食う訳でもないんだけどな」
妖精にしてみれば人間は体の十数倍もある化け物に見えるのだろう。
それに捕まる危険性もある。
「リスクを払う価値がある程の富なんだろうな」
俺はウキウキして親方に原石を見せた。
親方は困ったような顔をする。
「済まないが、それは引き取れない」
「どういう事だ?」
「それがなあぁ……宝石類はこの辺りでは需要がないんだ。
知っていると思うが月の女神様は贅沢は悪として質素な生活を送ることを基本としている」
「宝石は贅沢品ってこと」
「首都に行けば魔術師が高く買い取ってくれるが、
そこまでの護衛等の費用を考えると割に合わない」
「つまりこれは無価値ってことなのか」
「まあ、しょんぼりするな。
旅の商人がそれなりの買い取ってくれる」
「何処に行けば……」
「月の初めにやってくるから、その時まで大切に持っておくことだな」
「はぁ……、なんだか肩透かしだったな」
ゴール直前で、コウメイの罠にかかってゲームオーバーになったようなガッカリ感だ。
俺の時間を返してくれ。
「それより今日の成果はどうなっているんだ?
まさかそれだけって事はないだろうな」
「勿論、昨日の倍は堅い」
俺は確保した鉱石を親方に見せた。
ザクザク掘り当て山ほど取れ皆の3倍近くある。
間違いなく良い仕事をしたと誇れる。
親方は渋い顔をする。
「残念だったな。
これは不純物が多くて鉄の取れる量が少ない」
「嘘だろう……、すごく重いし」
「不純物が重いだけだ。
それに見た目も異様に黒いし違うとは気づかなかったのか?」
ロウソクの明かりしかなく薄暗い中で作業する。
手元が暗くて判別が難しい。
それを言い訳にするのし嫌だった。
「少々、色が黒い気はしたが錆びているのかと思った」
「今度から気をつけるんだな」
「結局、こを精錬したらナイフはどれぐらい作れる?」
「この量だと2~3本は作れるな」
つまり報酬は2~3万ってことか。
親方は俺の顔を見て少し不機嫌になった。
「何笑っているんだ」
「これなら大金が入ると思って」
「そうだな800って所だな」
「えっ。
桁間違ってませんか?」
思わず聞き返してしまった。
慌てて口を塞いだか遅い。
「この原石は精錬所に売却している。
そこが決める価格がそのまま価値となっているんだ」
「はぁ……」
親方と精錬所で取引が行われているのだろう。
仮に俺が直接、精錬所に持って行っても買い叩かれてしまうのが落ちだ。
この価値は不動で、どうこうできるものではない。
原産ではなく、加工業で働かないと利益は出せない。
「考えが甘かった……、母と相談して転職が必要だな」
「転職は最低一ヶ月は働いてからにしてくれ」
こうして俺は新たな働き先を考えながら、鉱夫として働くのだった。
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