第3話

 仕事の終わりを知らせるベルの音が鳴り響く。

 確保した鉱石はトロッコに載せ放り込んでいく。

 同僚と対して確保した鉱石の量は変わらないように見えた。

 俺って才能があるのかもしれない。

「思ったよりも成果は出なかったな。

だけど明日はもっと掘って一番になってやる」

「あんまり無理すると体を壊すぞ」

「ありがとう、今は力が漲っているんだ」

 


 鉱山の側に寮がある。

 個室なのは良いのだが、長屋であり薄い壁で区切られているだけだ。

 部屋は狭く、ベットとタンスがあるだけでただ寝る為だけのという印象しかない。

「初めて見るのに、なんか懐かしさを感じるな……」

 急に疲労感と眠気が襲ってきた。

 おもったよりも疲れていたようだ。

 仕事をしている時は手の痛みがあるぐらいで、大して疲れを感じることはなかった。

 いつの間にか終わってしまっていたぐらいだ。

 寝て明日の仕事に備えようか。

 体調管理は俺の得意とすることだ。

 万全な体制で活躍して見せる。


「おーい、食事の時間だぞ」

 先輩が手を降って呼んでくれている。

 なっ……、あまりのしんどさに忘れていたがまだ夕食を取っていない。

 腹の虫が唸っている。

 もしあのまま寝ていたら、虫が腹食い破り激痛に襲われていたに違いない。

 そんな虫は現実には居ないが、空腹時の痛みはそんな化け物が居ると思わせるには十分すぎる痛さだ。

 


 寮の隣りにある食堂に向かうと既に皆は食事を始めている。

 大きいテーブルに何人もが相席し賑わっていた。

 食事は静かに取るものだが、こういうざわざわしたのは懐かしい気がする。

 特におばちゃん連中の無駄話が聞こえていたな。

 それに比べると割と静かなものだ。

 

 空いている隅の席に、すでに食事が準備されていた。

「頂きます……」

 固く冷たいパンを熱々のスープにつけて柔らかくして食す。

 煮詰めた野菜のうまみが溶けあっさりと塩で味付けしてある。

 パンの甘みと相まって普通に食べられる美味しさだ。

 ただ、どうもパンは腹が膨れた感じがしない。

 ご飯と味噌汁が恋しい。

 食事はすぐに終わる。

 もう寝るかと席を立とうすると手を捕まれ止められた。

「座っているんだ」

 席を立つ者はおらず、何かを待っているようだ。

「何かあるのか?」

「一番のお楽しみだよ」

「へぇ、なんか娯楽でもあるのか」

 現場監督……、親方が食堂に入ってくる。

 静寂が訪れる。


「では、報酬の確認を行う」

 親方は名前を呼び、カードを手渡していく。

 そして俺の番となった。

「ユウ君、お疲れ様」

「はい」

 カードには表が書かれており、日付と労働時間、報酬額、サイン、承認印の欄がある。

 いわゆるタイムカードだろう。

「ユウ君は初めてだったな。

内容を確認して間違いがなければサインを書いてくれ」

「解りました」

 日給で支払われるんだな。

 報酬は500……、いや待て。

 フルタイムでたったの500ってあり得ないだろう。

 それは前世の価値観か、物価が違うかもしれない。

 高いのか低いのかまだ判断はできない所だ。

 そんなことより明日のためにどう動くかが大切だろう。

「俺は思うんですよ。

成果に対して報酬を支払うべきだと」

「ほぉ……、確かにその言い分は解るが、

全く鉱石が取れないと報酬が0になる」

「俺はそれでも構いません。

ですから次からは成果によって報酬が変動するようにして欲しい」

「では、取れた鉱石の一割分を報酬にするが良いのか?」

「ええ、頑張り甲斐があります」

 これはギャンブルだ。

 そう思えば明日の仕事は楽しみになる。

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