第2話
薄暗く狭い人為的な洞窟を歩いている。
先頭に立つ熟練の男は逞しく足取りも慣れたものだ。
彼についていけば迷うことはない。
そんな安心感を与えれくる。
ここがダンジョンなら魔物が徘徊しているのだろう。
だがそこは坑道だ。
「ここだ、さあ時間が来るまで掘り続けるんだ」
俺の手にあるのは剣ではなく、
何処で間違えたんだろうか。
*
母は言った。
「なにか必要な物があれば言いなさい」
冒険に必要な物はなんだろうか。
実を守るための防具を買うのもいいだろう。
回復するための薬草で済ますという手もある。
敵と対峙した時、ちまちまと削り合う戦いがしたいのか?
少しでも強い敵を一気に倒したいに決まっている。
「強力な剣が欲しい」
天使のような微笑みを浮かべていた母が真っ青になり、干からびたミイラのような顔になった。
「ユウ君は、それで何をするつもり?」
「魔物を討伐して、名をあげるに決まってる」
「それって、奴隷戦士みたいな事をしたいってこと?」
奴隷……、聞き慣れない言葉だが、近い言葉を知っている。
社畜。
もしかすると、この世界では冒険者は地位が低いのかもしれない。
だが異世界に来て、今までのような不正まみれの誇りも心も失うような仕事なんかはやりたくない。
それだけは断固拒否だ。
「魔物から人々を守るために戦いたいのです」
命を懸けるなら自分の信念を貫けるそんな仕事が良いに決まっている。
たとえそれで命を落とすことになってもだ。
「ユウ君の覚悟を見せて貰います。
どんな仕事でも投げたしたりはしないと約束ができますか?」
真剣な表情の母は凛々しくかっこよく見える。
目がウルッと来てしまい。
涙が溢れる。
冒険は良いものだ。
絶対に諦めるものか。
「はい、絶対にやり遂げてみせます」
*
そして母の用意した仕事をすることになったのだ。
親戚が管理する鉱山であり、信頼のできる働き口らしい。
「痛くて辛い……」
手を見ると豆が潰れて血が出ていた。
頑張って掘り続けたが非力な体で硬い岩肌を削るのは困難だった。
ごく僅かに鉱石が取れただけだった。
先輩にあたる少年が手招きする。
「君、こっちを掘りなよ」
「うん……」
過酷な場所ほど、同じ現場働く人達は優しい。
これは異世界でも変わらないようだ。
俺は先輩から色々と教わり、それなりに仕事ができるようになっていった。
と言うか、初めから教われば良かったと後悔したほどだ。
ブオオォォン~♪
低い笛の音が響くと、同僚達は手を止め音のする方向へと集まり始めた。
「休憩だよ、……君はどこから来たんだ?」
何故か職場には住所を知りたがる人がいる。
俺が何処から来ているか知っても、なんの意味があるのか解らない。
「近くの街、引っ越してきたばかりで土地勘がない」
「へぇー、僕は少し北にある村から来ているんだ」
当たり障りのないように返事してやり過ごすことにした。
こういう慣れなれしい奴は苦手だった。
どうでもいい話を延々に話しかけてくる。
無意識にため息が出ていたらしい。
彼は首を傾げた。
「冒険に行きたかったな……」
本音がポロリと溢れていた。
やばい、笑われるよな。
恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じる。
「君は変わっているね。
でも夢はきっと叶うよ」
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