NO.16 再会

「ほんと、参ったよ」


「今日のお昼にそんなことが……」


鈴菜は呆れ気味で言い、菖蒲は心配気味でそう言った。


「さっそく、巻き込まれたね」


「はい」


学校長と鈴菜の会話が始まった。


「想定はしていましたが、今後どうなることやら」


今日の昼放課、


女子生徒たちは宣戦布告したあとすぐに去っていった。


おそらく、五限目の授業をする教室へと向かったのだろう。


「私の身の心配は不要ではありますが……困ったな」


「僕からも何か対処した方がいい?」


「あ、いえ、大丈夫です。今のところは自分で何とかします」


「分かったよ。気をつけてねー」


(気の抜けたしゃべり方……)


「……その気の抜けた話し方、


他の人の前ではしてません……よね?」


「スズナちゃん……嫉妬してるのかい?」


『いいえ、してません……ってアヤちゃん!?


/スズ姉はそんなこと思いません』


「からかっただけだよ……アヤメちゃん、怖い」


校長と私の会話の中にアヤちゃんも入ってきていたが、


一応、事情報告は済ませた。


―昼放課に来たあの人、


見るからに目立っていそうな人、女子のリーダーのような人だった。


それでも、私は初めて見た顔だった。


あちらも私のことははじめて見たようだったから、


本当に何の用だって感じだったが。


……まあ、今日は私の数少ない友人に会いに行くつもりだし、


対処法とかを相談してみようかな。



同じ日にちの午後四時半。


今日は魔導大図書館に寄る予定があったので、


いつもよりも早めに魔高を出てきた。


校長に別れの挨拶をしてから、姉妹二人で数分間歩き続けている。


「アヤちゃん、どうしたの?」


「いや、あのね、もしお注射するなら、その、がんばってね」


「うん、私は大丈夫だよ。注射は怖くない、怖くない。」


決して強がりなのではなく、怖くはないのだ。


だが、その一方でアヤちゃんは注射が苦手なようだ。


「私も小学生の頃は注射が嫌いだったなー」


「す、スズ姉もそうだったんだね……」


「そういうものだよ」


アヤちゃんとの会話を続けていたら、


あっという間に目的地に着いた。


姉妹が魔導大図書館のゲートを抜けると、そこには広間があり、


目線を上に上げるとゲートを囲むように高い天井に届きそうなほどにまで、


たくさんの本が本棚を埋めつくしていた。


圧巻。圧倒。


そんな言葉が似合う景色だ。


広い入り口の間を突っ切り、


受付兼案内所の横を通り過ぎ、奥の廊下へと歩を進めた。


―魔導大図書館はとても広い。


そのため、入り口の間も広く、図書館も広く、そして廊下が長い。


廊下が長いということは、部屋もたくさんあるのだ。


今、第二の目的地に着いたが、


迷路なんじゃないかと思ってしまうほどこの廊下は長い。


いつも通るため迷うことなく辿り着いた部屋の前に立ち、


目の前のある一室のドアを開ける。


「こんにちは」と言いながら入ると、一人の女性がいた。


女性は「いらっしゃい」と言い、イスに座るよう促した。


この部屋独特のにおいや内装、ココに来れば誰でも想像がつく。


ここは、『医務室』だ。


規模は小さく、学校の保健室に近い内装をしている。


数分前の会話からして、ココに主な用事があるのは私だ。


「いつものとおり、


アヤメちゃんは奥の部屋を使ってていいわよ」


そう言う女性は、メガネをかけて白衣を羽織っている。


先生ではあるが、私たちと親しい関係である。


なぜなら、私たち姉妹がココの常連だから。


……常連であることはあまりいい意味でとれないが。


「はいっ。お借りします!」


(どこからそんな流暢な敬語を覚えたんだい、アヤちゃん。)


「すごいな、私の妹」と思いながら目で見送ると、


彼女は奥の部屋に入っていった。


ドアが閉まるのを見計らって、先生は私に向き直った。


先生は両手を胸の前で合わせ、


「それでは、検査をしましょうか」


と笑顔で言い、私はその笑顔に引きながらも頷いた。



「検査は終了よ。異常はないわ。でも、気をつけるのよ?」


「はい」


「いつも言っているように、魔法は控えて魔術を使うようにしてね。


ところで魔術は上手く使えるようになった?」


「つ、使えるワザは、ありますよ」


「……苦手なのね」


「そ、そういうわけではない……はず」


「苦手だからと言って、


魔法に頼りすぎるともたないでしょう?


あなたの体が」


……先生は私の体を気遣ってくださる。


「この人が私の母親だったらいいのにな」と


幼い子どものようなことを考えたのち、


私も自身の身を案じてみる。


―私は、魔法に関しては体が弱い。


先生曰く、


私は『魔法性虚弱症候群』と呼ばれる虚弱体質であるらしい。


それは通常の魔法師とは違い、


魔法を使った際に減る体力の量が多く、疲れやすいという体質。


魔法師が二十%の確率でその体質になる可能性がある。


魔法性虚弱症候群の魔法師は、


魔導大図書館の医務室へ定期的に足を運んで、検査してもらうのだ。


先生が「魔法を控え、魔術を使うように」と言うのも、


魔法の使用を避けることによって


虚弱体質を改善するきっかけにもなりうるため。


「はい。分かっているつもりです」


そんな体質が、魔法師になってから足枷になっている。


私はその気持ちも込めて真剣な表情をして言った。


「でも、他に手段がないときは、魔法を使います。


迷惑や心配をかけても、です」


「ええ、あなたの気持ちも分かっているわ」


先生は「でも無茶しちゃだめよ」と付け加えたあと、


話の路線を切り替えた。


「お節介はここまでにして、あなたにお礼を言わなきゃね」


「え、なんのことでしょう?」


「あなたの妹、すっごくいいセンスしてて、助かってるのよ!」


メガネを光で反射させ、ぱあっと明るい表情をした。


この人は医務室の先生であると同時に、


魔導大図書館専用の制服のデザイナーでもあるのだ。


ちなみに、ココの制服は一人ずつデザインが違う。


つまり、その人の制服は世界に一つだけの物なのだ。


「いえ、それはアヤちゃんに伝えてあげてください」


そして、なぜ会話にアヤちゃんの名が出てきたのか。


それは、アヤちゃんが描く絵(服のデザイン)は


先生のインスピレーションを刺激したみたいで、


彼女のイラストが採用されるときもあるほど、


先生にとってはいいセンスなようだ。


今では二人で制服のデザインを行っているらしい。


「私は予定があるので、またあとでアヤちゃんを迎えに来ます」


「ええ、まっかせなさい!」


「け、検査、ありがとうございました」


(テンション高いなー)


心の中でツッコミながら


この部屋を退室してから再び廊下を歩き始めた。


来た道を戻り、入り口の間に到着した。


周りを見回すと、平日にも関わらず、


意外と多くの人々が行き交っていた


―ココの役員も一般人も。


立ち止まって携帯電話を使用している人も少数いる。


(……私が携帯電話を使えれば楽なのになぁ)


残念ながら、私は機械音痴なのだ。


この時代では時代遅れということはないが、


連絡をとることができないので何かと不便だ。


(くっ……嫌なことを思い出した)


現実から目をそらすように、視線を外そうとしたとき、


電話している一般人がふと目に入った。


(そうだ。まさかあの携帯電話に撮影機能があったとは……)


あれは、その、本当に不覚だった。


「……はぁ」


溜めていた息を吐いた。


その時だった―


「こんにちは、先輩」


聞き覚えのある声に振り返ると、


そこには身長と年が私と近そうな若者―



―彼がいた。

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