NO.17 少年

「お久しぶりです!」


「うん、久しぶりだね。何ヶ月ぶり?」


「二ヶ月ぶり、でしょうか」


魔導大図書館の中庭―といっても一つの公園ほどの広さがある―


のベンチで二人の若者が話している。


私の目の前には優しそうな顔をした少年。


彼は私の一歳年下、中学三年生である。


「レノ君の二ヶ月間の任務、無事に終了したみたいでよかったよ」


「ええ。あんな長期任務、もうこりごりですよ」


そう言い、彼は苦笑いを浮かべた。



この少年の名は、水内玲音(レノ)。


レノ君は、私と同じ『魔法師』であり、魔導大図書館に属している。


彼の任されている任務は、


私たち姉妹と同じ『呪術師の阻止』と情報集めの任務。


いわゆる『情報屋』の二つである。


彼は『呪術師の阻止』で、私たち姉妹と一緒のチームで戦っている。


「……あ、スズナ先輩」


「うん?」


「魔高の授業、ちゃんと毎日参加できていますか?」


「……」


君にも言われるとは。


(どこからその情報を仕入れたんだい)


レノ君は情報屋だ。


どんなことでも見透かされるらしい。


「は、はは」


乾いた笑いしか出なかった。


「先輩、学べることは学んでおいた方が得ですよ。


どんな状況になっても対応できるように、です」


彼は困った顔をしてそう言った。


戦闘のときは私のフォローをする係に徹してくれている彼に、


戦闘以外でもサポートしてくれるとは……。


ありがたいけど、申し訳ないな。


「それもそうか。それなりにがんばるよ」


(私にも事情があって『絶対参加』という訳にもいかないのだ)


そうだ、あの事件の相談をしよう。


「情報屋のレノ君に依頼をしたいんだけど」


「はいっ、なんでしょうか」


「まず、魔高で私が『魔法師である』ことがバレた話、知ってる?」


「ええ、知ってます。


本当に大事になったそうですね。


お怪我はありませんでしたか?」


「うん、大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう」


「一安心です」


「知ってるなら話が早い。


それで、今日の昼放課にある一人の女子生徒から宣戦布告されたんだ。


『はじめまして、魔法師さん?』ってさ」


「それは穏やかじゃないですね。


もっと悪い方向に行かないといいですけど」


「で、依頼のことなんだけど、その女子のことをちょっと調べてほしい」


「……個人情報、ですか?」


「い、いや、魔高での立場とか、何年生かとか?」


「結局、個人情報じゃありませんか?」


「ははは……どうだろう?」


最後の会話、彼は困ったように眉を寄せて言い、


彼女は冷や汗をかいてそう言った。


「依頼の報酬は何がいい?」


「いえ、結構ですよ。いつもお世話になってますし」


「そういうわけにもいかないよ。


……じゃあ、好きな帽子を一個買ってあげるよ」


「……それじゃあお言葉に甘えて、それで手を打ちましょう」


レノ君はメモ帳を出し、依頼の内容であろうことを書いた。


「個人情報でもなんでもおまかせください!


必ず先輩のお役に立ってみせます」


楽しそうに言う後輩をニコニコしながら眺めながら、


「この少年の情報網はどうなってるんだ」と思っていた。



―なぜ玲音くんは私のことを『先輩』と呼ぶのか。


それを簡単に説明するならば、


彼が魔導大図書館に所属しはじめた頃、


魔導大図書館の説明や任務の説明などをした、


専属の教育係が『私』だったからだ。


(あの頃の玲音くんは今とは違ってたかな)


(なんて言うか、


ほんのちょっとだけツンツンしてたかな……


これがツンデレか?)


―どこからともなく「お前がツンデレだ」


と返ってきそうなことを考えていたが、


鈴菜に言っても仕方がないことであろう―


(……というかあの時は、たまたま居合わせただけで、


もともとは玲音くんの教育係じゃなかったんだけども)


私は玲音くんの教育係を(結果的に)担当したこともあって、


「先輩」と呼ばれるようになった。


そして、一緒に戦うようになった。



「でも、何百人といる高校生の中から一人を当てるのは、


さすがに時間がかかりそうですね……」


「……そういえば彼女は『神坂家』と言っていたよ。


だから、たぶん彼女の名字は『神坂』かな」


「それ、重要な手がかりです!」


レノ君は食いつくように身を乗り出してそう言った。


「しかもその人の名字が『神坂』ですか……」


「レノ君?」


「思ったより早く依頼達成の報告ができそうですよ、先輩」


そんな堅苦しい会話を二人がしていたとき、


不意に警報がけたたましく鳴り、アナウンスが聞こえてきた。


その内容は―



―呪術師の出現に関したものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る