NO.14 中庭
― 数日後
鈴菜は魔高の廊下を歩きながらつぶやく。
「今日はがんばってるな、私。
三限分の授業を参加したなんてさ、快挙だよね」
魔術で物を動かす授業、
本―本は魔術を発動しやすい―から魔術を発動させる授業、
あとは基本的な魔術についての授業、という三本だて。
今日の授業のノルマを達成したので、気持ちが軽くなっているのだ。
今は昼放課。
いつも、魔高の中庭で昼食をとっている。
中庭には私以外の人はあまり立ち寄らない。
それはおそらく、『食堂』があるためだ。
私は弁当だし、中庭は静かだからいつもこの時間帯はココに来る。
……食堂とかの人が多い場所に行ったら、「魔法師だ」って避けられそう。
私が魔法師であることは広まっているらしい。
(それはそうだろうな、
「黙秘してほしい」とも何も言わなかったわけだし。)
そんなことを考えながらだったが、ようやく中庭に着いた。
私は廊下と中庭を隔てているガラス扉を左に引いて開ける。
すると、中庭から程よく暖かい風が流れてきた。
その風を受けながら、
中庭に一歩だけ入り、後ろ手でゆっくりと扉を閉める。
後ろ手で閉めたにも関わらず、気になったことがあり、後ろを振り返った。
閉めたガラス扉の奥からは、
教材をもった女子の二人組が談笑を交えながら通り過ぎていった。
たぶん、五限目の分の教材をもって食堂に向かっているんだろうな。
(……私の場合、昼放課以降も放課だけど……)
誰にも見られないように苦笑いを浮かべたあと、
自然の芝生でできた黄緑のカーペットを歩き始めた。
何歩か歩くと、昨日も座っていた場所にたどり着いた。
そのそばには一本の木が植えられている。
私の定位置はその木の日陰の中であるのだが、
木の日陰の広さは、
大きめのレジャーシートを敷いてもまだ少し余裕がある、という程度だ。
私は何も敷かずに、気を背もたれにして地面に腰かける。
足はまっすぐに伸ばされ、その両足の上に弁当を広げた。
(いただきます)
彼女の弁当箱は長方形で二段型。
一段目にはお米がぎっしりと詰まっていて、
二段目には色々なおかずが所狭しと入っている。
(おいしい。弁当作りにも慣れてきたな……)
ちなみに、毎日の弁当は私自身が作っている。
アヤちゃんが小学校の遠足など、行事で弁当が必要なときも私が作る。
……炊事は私が担当だし、当然のことではあるけれど。
(……ごちそうさまでした)
今日は委員会の活動(見回り)をしたのち、
夕方に魔導大図書館に寄るという予定がある。
(今日は頭を使った……。眠……い……)
日陰の中を少し移動し、芝生の上で(仰向けで)寝転がった。
「……ふぁ」
彼女は控えめにあくびをしたあと、眠りの底に沈んでいった。
中庭にまで聞こえてくる(授業開始五分前の)
チャイムの音で目を覚ました。
(……そろそろっ……見回りに行こうかな)
持ってきた物をもって、ガラス扉へ向かう。
ガラス扉の前にたどり着き、右手を伸ばした。
―だが、その手は扉を引くこともなく動きを止めた。
扉の奥、廊下側に人が立っていた。
その人は私を見ていた。
あちらから扉を開ける様子はなかったので、
一瞬止まった手を再始動させて扉を開けた。
私の前に立っている人は一人の女子生徒。
そして、その後ろに二人女子がいた。
(三人組の女子。何の用だろう……)
私が問いかける前に目の前の人は言った。
「はじめまして、魔法師さん?」
……この人、私が魔法師であることを知ってるのか。
といっても、あの事件の場にいた人でもない。
むしろはじめて見る顔だ。
無言を返してからたっぷり一秒。
瞬時に思考をめぐらせ、頭を切り替えた。
「……ええ、はじめまして。魔術師さん」
中庭に陽の光が降りそそぐ。
鈴菜(魔法師)には光が、
女子生徒(魔術師)には影が
顔の輪郭をはっきりさせるように、それぞれの光陰が増した。
草木が揺れる。
彼女たちの髪をそよ風がさらっていく。
―しかし鈴菜の方は、
なぜかズボンの裾も風でなびいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます