NO.13 枝を揺らして
「いやー本当に、あの事件はどうなることかと思ったね」
「あの締め方はまずかったかな……」
「もう、スズ姉ったら!
あのとき、すごく心配してたんだよ!」
「ごめんごめん。
二人には感謝でいっぱいです!
ありがとうございました!」
あの事件から数日が経った。
いつもどおり校長室では、
扉に背を向けた方のソファにもたれかかっている鈴菜、その右隣に菖蒲、
背の低いテーブルを挟んで、
姉妹の向かい側のソファ、菖蒲の正面に座る三澤校長がいた。
そして、先ほどの会話は、
鈴菜、校長、菖蒲、再び鈴菜、という順番で話していた。
「アレ以降、授業に参加しにくくなったんだもん、いやはや、参ったなー」
「スズナちゃん……
そもそも前から授業にあんまり参加してなかったでしょ」
「……」
鈴菜は無言を返し、顔を背けた。
それは、「校長、知ってたのか」と思っていたためである。
「あー……え、ええ!確かにそうですよ。
ですが、決して魔術が苦手だから行かないとか
そういう理由じゃありませんからね!
ええ、決して!」
「そこ、開き直らない」
三澤校長は真顔でそう言った。
鈴菜は魔術の成績が悪いのである。
ちなみに勉学の成績も悪い。
そして、会話からして彼女は、 典型的なツンデレでもあった。
(スズ姉……ふふ、わかりやすい)
姉は―妹にそんなことを思われているとも知らず―懸命に反論している。
「だって、魔術が全く起動しないんですよ」
といった幼さの目立つ言葉を口に出している姉を見て、
「ほほえましい」と思っている妹であった。
「『サボっちゃだめ』っていう、決まりはないじゃないですか。
……そうそう、聞こうと思ってたんですけど、
この学校って大学みたいですよね。」
「あー、授業の形式のこと?」
「そうです」
(あ、難しい話を始めちゃった……)
これについては口を挟まないでおこう。
「僕も大学の経営を詳しくは知らないけど、
この学校は、参加したい授業に参加するっていう形式だね。
でも、大学とは違って一時限が四十五分だから高校らしさもあるよ」
「そんな学校は魔高だけでしょうね。」
「君はアレでしょ、授業に参加せず一日中放課なんでしょ」
「……」
大学と高校がどんなかんじなのか分からないけど、
スズ姉にはちゃんと授業に参加してほしいかも。
「気になる授業は参加してますよ!
あと、『委員会』の仕事もあって忙しいんですよ?」
(スズ姉……またムキになって……ふふ)
かわいい。
図星で恥ずかしかったせいか鈴姉は頬と耳をピンクに染めているのだ。
その状態でむくれているところを見ていると、
何かの動物に似ているような気がしてくる。
ワンちゃん?それとも、ネコちゃんかな……?
「そうだったね、『風紀』はどうだい?『委員長さん』?」
「委員長って呼んでからかうのやめてください……」
委員長、それは鈴菜(わたし)のことである。
(風紀委員会の委員が『私しかいない』んだから、
私が委員長なのは当然でしょう?)
そう、風紀委員会の委員は一人、私のみである。
― 魔高の風紀委員会は、代々魔法師が担当することになっている。
数日前も校長が言っていた通り、
魔法師は魔法師自身以外の人も守ることができる。
……ということもあるが、
校長曰く魔法師の生徒達の居場所としてそう決めているらしい。
だが残念ながら、
今期の三学年の中では魔法師であるのは私だけなのだ。
(気苦労が絶えない……)
高一の私が委員長ってどういうこと…。
風紀委員は魔法師であるため、
―風紀委員会は常に活動しているのだが―
委員が誰であるかは生徒も教師でさえも知らない。
風紀委員会の委員だけは校長が決めているのだ。
……校長は、なんでも知っている。
だから、今の魔高には私だけが魔法師であるらしい。
……彼が何かと詳しいがために、
私があまり授業に参加していないこともバレた。
「……風紀は乱れてません。
『魔法師になる』ような生徒もいないでしょう」
「わかった。
何か変化があれば、僕にいち早く教えてね」
「了解です」
「……来年になって『彼』が入学してくれれば、
風紀委員会のメンバーが確実に増えるんだけどねー。
あとスズナちゃん、お友達つくってないでしょ」
なんだったんだ、今の目配せは。
「と、友達は関係ないでしょう……。
まあ、彼はたぶん入学しますよ。
『来年、魔高に入学できるようがんばります!』って言ってたし」
「おお、そうかそうか!
よかったね、スズナちゃん!」
「余計なお世話ですって……」
まったくもう……。
― 委員会についての会話を二人がしている頃、
菖蒲は考え込んでいた。
校長先生は、わたしにとって父のような存在だ。
……わたしの実の父は生きてるってスズ姉が言ってたけど、
わたしは父を見たことがない。
おうちに帰りたいともあまり思わないの。
お母さんは子どものわたしたちに厳しい人だったから、わたしは母が怖い。
だからイヤなの、おうちに帰るのは。
でも今、わたしの信じる人がわたしたちの居場所をくれた。
小二のわたしでもわかる、ありがたいことだね。
ねえ、スズ姉。
もしも、おうちに帰ったら、今のスズ姉じゃなくなっちゃうのかな?
またわたしのために、お母さんに刃向かって自分だけ傷ついて……
スズ姉に似合わない怒った顔をするの?
―いや、もうそんな顔させないよ。
今度はわたしがスズ姉を守るから、このままでいてね。
わたしはいつでも鈴姉の味方だから。
姉に視線を向けた。
数秒後、姉はわたしが姉を見ているのに気づき、
私に向かってほほ笑んだ。
「どうしたの?」とほほ笑みながら言う姉に、
「なんでもないよ」と応える。
もしかしたらスズ姉は気づいたのかもしれない、
わたしが心配していたことを。
「いやいや、そんなまさか」なんて思いながら、
窓の外で元気に咲いている桜を眺めた ―
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