NO.11 魔法の『欠点』

「こっちの方から聞こえる!」


わたしは、走っている校長先生の後ろからそう言った。


「そうだね」


急いだ様子でわたしたちは廊下の角を曲がって、


先ほど光が瞬いた教室へと向かう。


「校長先生、さっきの光は……?」


予想はついていたけど、確認ついでに聞いてみる。


「あれは力のぶつかり合いで生じたものだね。


ここからでは何と何がぶつかったのかまでは分からない」


やっぱり……『魔導』が関係してるみたい。


あ、そこの教室からかな。


「ここ……?」


「……よし、着いたよ」


三澤校長が勢いよく目的の教室の扉を開けた。


わたしは教室の中で対峙している二人の姿のうち、


ある一人の姿を見つけておどろく。


「スズ姉!?」


その場にいた姉の名前を呼ぶと同時に教室内を見た。


「……アヤちゃん?


……校長も一緒か」


そこにはいつもの笑顔は無く、


いい意味ではとれない真剣な表情をした姉がいた。


そして、わたしたちの名前を呼んだあと、


彼女は視線を逸らしてしまった。


「スズ姉……」


正面にいる姉へと向かい、彼女のそばに寄り添う。


「……こ、校長先生!?


な、なぜ、ここ、こちらに……!?」


スズ姉の向かいには尻もちをついた教師がいた。


彼は明らかに動揺している。


スズ姉を、そんな目で見るな……。


「ひぃっ……」


どうやら、わたしの視線に気づいたらしい。


わたしはいつの間にか、


この教師を見下すような目で見ていたみたい。


考え込むように腕を組み、


右手を口元に近づけて校長先生は言った。


「……先程の光は、魔術と魔法のぶつかり合いだったようですね。


『雪谷さん』、何があったのか教えてくれますね?」


「……はい。


この状況を、簡潔かつ詳細にご説明します、校長先生。」


そう言った彼女の顔は、疲労によってか少し青ざめているように見えた。



「……うん、なるほどね。


彼女は魔法師で、この教室内で彼女以外は全員魔術師。


その事実は君たちのプライドを傷つけた。


それで魔術と魔法がぶつかったりしたのか……」


一呼吸置いて、校長先生は続けた。


「うーん……そうだね。


魔高の生徒や先生達はたいてい、魔法師に関して詳しくないから


仕方ないことだったのかもしれないけれど。


実際、いざこざが起こってしまったからには、


ここにいる人達だけにでも


魔法師のことを軽く説明しておかないと、ね」


最後の言葉は鈴菜に投げかけられたもの。


その言葉に鈴菜は、校長とアイコンタクトをしたのち、控えめに頷いた。


「……まず、彼女がみせた『魔法』についてだけど、


まあ魔法は、


街中で魔法師が呪術師と戦っているときに


見たことがある人もいるかもしれないね。


その魔法には、一般的に知られている通り、確かに利点はあるよ。


……けれど、欠点もある。


欠点があるということが、


魔術師にとっては当然のことじゃあなかった、ということでしょうか」


落ち着いた口調でありながら、


冷徹な眼差しである校長先生から問いかけられた、


一般市民の一人であるその教師は、何も返答することができなかった。


「そう、欠点がある。


その欠点は……雪谷さん、答えることができますね?」


三澤校長は返答をしたあと、


自分に視線が集まることを分かっていながらも彼女は答えた。


「……魔法の欠点は、魔法師の体力を使って発動すること、です」

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