NO.9 振り出しへ
― 数日後
「この中に裏切り者がいる!」
三十人程の生徒がいる魔高の、
ある教室で行われた魔術の授業のときに教師は言った。
「裏切り者は君だ!」
彼は、『裏切り者』に人差し指を向けてそう言った。
指を向けられた人物は
―予想通り、私だった。
彼の言葉、そして『裏切り者の存在』に誰もが一驚したであろう。
だが、裏切り者だけが違った意味合いで驚いていた。
(へぇ、『鈴菜(わたし)』が裏切り者、ね)
『裏切り者』に自覚はあるとはいえ、
「よく言い当てたものだ」と目を見開いていた。
(……さて推理を聞こうか?)
「え?
なんで急にそんなことを言い出したのですか?
そして、私が、裏切り者……?」
日常的に行っているように事実を隠してみせた。
(……一応はやっておかないと)
ちなみに今は午後三時くらい。
妹は小学校の授業を終え、
いつものように魔高の校長室へと向かっているところだろうか。
一方の魔高の場合も似たように下校するか、クラブ活動へと向かうか、
といった時間ではあるのだが……。
(……はぁ、面倒なことに巻き込まれた)
―この状況下でも私は冷静だった。
「……お、お前は、魔術の専門学校に通っていながら、魔法師だった!
そうだろう!?」
「……はい?
ですから、なぜそのようなことを急に?
そして、なぜ私に?」
怯えた口調で彼は続ける。
「お、お、俺は、み、見たんだ!
お前が、まま魔法を使っていたところを!」
「……その証拠はありますか?
曖昧な意見なら、よしてくださいよ?」
「証拠ならある!」
教師と裏切り者の生徒は、張り詰めた空気のなか会話をした。
そして教師が言うと同時に見せた証拠、
それは、携帯電話で撮られた鈴菜の写真。
その写真は鈴菜が数日前、呪術師と戦っていたときのものだった。
映っている鈴菜は
―魔法を使っている最中であった。
彼女は写真を見て
一秒でそれが示していることを理解し単純に驚き、感心していた。
(……携帯電話にそんな機能があったなんて、知らなかった。不覚……)
―そう、彼女は携帯電話の撮影機能に驚いていたのだ。
「た、しかに証拠、ですね……」
少し青ざめた顔で彼女は続けた。
「はあ……そうです。
先生の推理のまんまですよ。
私は魔法師。
お言葉ですが先生、
魔法師が魔術の専門学校に通ってはいけないという決まりはありません。
そうですよね……?」
少し人の悪い笑みを浮かべながら、
自ら進んで悪役扱いされるような発言をした。
周りの未熟な魔術師から大きなざわつきが起こった。
当然だろう。
この教室には気付かぬうちに異物が混入していたのだから。
あっという間に私には、
嫌悪と怒気に溢れた視線を浴びせられていた。
(あーこわいこわい)
ほんと、面倒なことに巻き込まれた。
「そらみろ、これだから魔法師は!
いつもいつも優越感に浸りやがって!」
と取って代わったように教師は言う。
(今、優越感に浸っているのはアンタの方じゃ……)
「またか」と冷静に聞いていたが、
今の言葉だけは黙って聞き続けることはできなかった。
「……魔法師を軽蔑しない方がいいですよ。
あなたたちは何も知らないのですから」
目の前の『無知な魔術師』に冷めた視線を向けながら言った。
そして、魔術師と魔法師による距離の空いた会話が始まった。
「『おまえら』は、魔術師とは違って魔術を学ばなくても、
魔法を好きなように使えるからいいよな!?」
「魔法も魔術も、使える状況下は同じです」
「魔法師は魔術師の苦労を知らないもんな!
魔術師は魔法師の何倍も苦労して……」
「魔術師は……魔法師の苦労も知らないでベラベラと……!」
声に怒りをのせて鈴菜は反論した。
反論の言葉と同時に彼女の足元から風が吹き荒れた。
周りで不満をぶつけていた者たちは皆、
前とは違った意味でまた驚き、そして黙った。
(こんなにも身の程知らずのヤツがいたなんて……)
「あなたたちは……本当に何も知らない!
私は……私たちは……、
魔法師になりたくて魔法師になったわけじゃない……!」
そう言った彼女の顔は、
彼女に似合わない怒りの色を見せていた。
今までで一番鋭い視線を放つ目元からは、
光を反射した水滴が二粒散っていった。
彼女の言葉で何かを読み取ったのか、
教師は恐怖に満ちた顔をした。
そして、逃げ出したいあまりか、
口をパクパクし、手は恐怖で震えたまま、
机に置いてあった本を用いて魔術を発動した。
(ずいぶんと身勝手なことを……)
そしてその魔術は私へと向かって放たれた。
―だが、それは瞬時に発動した魔法に防がれた。
そう、私が彼より先に発動していたものだ。
「ひぃっ……」
「……」
彼女の周りの風が強さを増す。
教師は腰を抜かし、私は無言を貫いた。
―すると、廊下側から二人分の足音が聞こえてきた。
その足音は急いでこちらに向かっているように聞こえた。
「スズ姉!」
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