NO.7 戦闘
『魔導大図書館』の役員である鈴菜は、
大通りへと続く道の角を急いで曲がる。
靴がズザザザと音をあげた。
音が静まると同時にその場で立ち止まる。
彼女の髪は風に揺れ、
夕日によって濃いオレンジに染まる。
「……ココに来るとは思ってなかった。
なんでココに来たのかな、呪術師さん?」
聞こえていないと分かっていたが、鈴菜はそう問いかけた。
それの返答は奇声だった。
呪術師の見た目はそれぞれ。
いい意味の言葉で表せば、個性のようなものだ。
だが、こいつらの見た目はどう見ても「異形」だ。
そのため、一般人で『化け物』と呼ぶ者も少なくはない。
この呪術師は悪魔みたいな見た目、奇声を発してたし……
と鈴菜は思っていた。
人ひとりいない大きい通りの中央で浮いている呪術師を見上げながら、
「おーけー……そこから引きずり下ろしてやる!」
鈴菜は(妹以外の)誰にも気づかれずに
ズボンの後ろポケットに仕込ませておいた小型銃
―銃弾は入っていない― を取りだした。
手袋をはめた右手に銃をおさめた。
その右手を敵に向け、彼女は表情を真剣なものにかえる。
「……ついでに、その呪いからも引きずり下ろす!」
そう言った後、彼女は前方にいる呪術師の方へ向かっていった。
―銃口から魔術で作りあげた銃弾を放ちながら。
遠くから色んな音が強弱のある風に乗って聞こえてくる。
コンクリートが割れる音、
呪術師の奇声、後ろから聞こえるおびえる人の声。
……スズ姉は、みんなのために命をかけて戦ってるのに。
わたし(アヤメ)はつい、怒りをあらわにしてしまう所だった。
スズ姉が『命をかけて戦っている』のは本当だ。
……心配。
ただでさえスズ姉は……。
やっぱり心配だよ……!
大通りに向かう角へと急いで歩を進めた。
後ろで「そっちに行っちゃダメ!」という一般人の声がしたが、
後ろを向く暇なんてなかった。
……いや、わたしを追いかけてひきとめることもできない臆病者たちの話を
聞きたくなかっただけなのかもしれない。
……スズ姉、約束を破っちゃってごめん!
そう思いながら荷物を両手で抱え、スズ姉のもとへ走り出した ―
「くっ……!」
あと少しで決着がつく……!
それでも今回は、魔術だけでは対抗できない、かな……?
呪術師もそれぞれ強さが違う。
今回も一人で押し切れる敵ではあるけど、
あと一押し決め手となる強い威力をぶつけないと
完全に無力化することは無理だから。
こんな状況でも、意外と冷静に判断することができるものだ。
……初めてこの任務をした日は混乱しっぱなしだったけどね。
「……おっと」
危ない危ない、気づいて避けてよかった。
呪術師もずっと攻撃し続けてる……。
でも、完全に疲弊してきているし、私の方が有利な状況。
……ってことで、久しぶりに使おう。
私は、タイミングをはかると同時に新たな準備を始めた。
「……下準備は完了。」
呪術師が私に向かって攻撃してくるのを確認する。
……行動開始。
呪術師から攻撃を受け、右ななめ前に避けた後、
右手で持ち続けていた小型銃を地面に置く。
それと同時に、
空いている左手で準備していた魔法で呪術師からの残りの攻撃を防いだ。
「よし、上々!」
そして立ちあがり、
足元から発生した風が吹き荒れ、両手がまっすぐ呪術師に向けられた。
風と同時に足元から現れていた光が両の手のひらに集まっていく。
「これでキメる!」
さっきまで使っていた魔術のどれよりも強い威力の魔法を放った。
それはまるでビームのような魔法。
呪術師は為す術もなく正面から魔法を受けた。
最後に呪術師があげた声は「奇声」ではなく、「悲鳴」のようだった。
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