裏切者の魔法使い

NO.6 公共施設

―『呪術師』

私はそう言った。

アヤちゃんも私も、それの存在は知っていた。

今でもひったくりや強盗のような、

物騒なことはあるらしいけど……

この騒動は違うな……。

あの悲鳴は数人のものではなくて、大勢の人のものだった。

……『呪術師』で決まりだ。

―『呪術師』

一般人からすれば『未知の怖いモノ』だろう。

もっと簡単に言えば『敵』、か……？

魔法師は呪術師のことを『敵』ではないと思うけど。

呪術師は正気ではないため、人を見つけては襲う。

そんな存在だ。

そして、呪術師が使う『呪術』については、

一番魔導に詳しい魔導大図書館でも

少ししか明らかになっていないそうだ……。

呪術は魔導とは明らかに違う。

―それは見ていれば分かる。

呪術師は空に浮いているのだ。

魔導が主流となってきた今でも、ありえない。

空を飛んだり、身体能力を上げたりする魔術・魔法はまだないからだ。

呪術師を敵として考えれば『強敵』だ。

―そんな『強敵』を前にして

公共機関は黙っているはずもない。

魔導大図書館にはまだ重大な役割が残されていた。

―それは、『呪術師の阻止』

すなわち、呪術師の襲撃を止める、鎮める。

その役割を行うのは、もちろん魔法師と魔術師だ。

魔法師は強力な魔法を扱えるため、向いている。

だが、魔術師は魔法師より強力とはいえない。

それでも魔術師も許可されている。

例え弱くても貴重な人材だ。

呪術師の阻止を行うにあたって条件がある。

それは、魔導大図書館に属していること。

属して制服を貰わなくては、

任務を遂行してはいけないという決まりがある。

そのため、魔法師でも属していない人もそれなりにいる。

魔術師はもっと属していない人がいるだろう……。

―呪術師の阻止は危険も伴う。

それもあり、働いた分の給料も貰える。

呪術師を阻止する際、一般人と見間違えられないようにするため、

属している証拠の制服の何らかを身につけるようにしている。

呪術師……それは、まずい……。

私はカバンをアヤちゃんに預け、

「アヤちゃんは買ったものを持って、安全な所で待ってて！」

そう言い、返事を待たずに大通りへ駆け出した。

走りながら、ズボンのポケットから灰色の礼装用手袋を取りだした。

左手に身につけようとしているその手袋には―

―『魔導大図書館』の紋章が刻まれていた。