第3話 インストール

 僕はアイとの会話で、彼女はこういうものだ、恋人とはこうするのが普通だ、と教える。AIはそれを学習して概念にしていく。感情を教える。喜怒哀楽を教える。間違っている時や不具合が起きた時には僕が修正を加える。そうやって少しずつアイはより人間らしく、彼女らしくなっていった。

 そしてなんと師匠である電気屋のおじさんの伝手で彼女のアイは実態を持てることになった。つまり動くロボットになるのだ。

 彼女を創っているなんて当然父には言えないので、古くから親しみのある電気屋のおじさんに相談に乗ってもらっていた。師匠は機械関連のことなら大抵知っているすごい人だ。

 師匠は店の裏から大きな箱を台車に乗せ持ってきた。


「師匠、これがそのロボット?」

「そうだ。開けてみな」


 箱を開けると中には僕と同じくらいの背の女の子が入っていた。


「すげーリアルだろ」


 師匠は誇らしげに笑う。

 人間が箱に詰められていると錯覚するほどリアルにできた彼女は、人工的に創られただけあって、有名女優と肩を並べられるほどの美貌だった。

 そして電気屋で師匠の教えも受けながら二日間泊まりがけでやっと彼女は歩けるようになった。膝から崩れ落ちたり、足を動かす速度がズレて暴走してしまったりして、二足歩行の難しさを改めて実感したが何とか家まで歩いて帰れるほどになった。二足歩行が出来る人間とペンギンには尊敬の念を。

 彼女との帰り道はカップルそのものだった。


「その体どう?」

「私にピッタリです。そしてこうやってあなたと歩けるなんて本当に嬉しいです」


 黒髪ロングに季節感あふれるワンピースを身に纏った少女。いくら機械といえど慣れない。機械とは程遠い気さくで親しみ深い性格もそう感じさせる。僕がプログラムしたわけではなく、学び育むなかで勝手にこんな性格になっていった。


「これから何処か遊びに行きませんか?」

「え? こんな時間から?」


 時刻は午後六時。空を赤く染め上げる夕焼けは一日の終わりを告げている。

 寝る間も惜しんでアイをプログラムした僕の疲労を知ってか知らずか、アイの新しい顔は曇りのない笑顔を作り出している。


「ダメならダメでいいです。体を手に入れて少し舞い上がりすぎてしまいました」


 人工的に作られた表情は、今度はしょんぼりとした落ち込みを見せる。


「いいよ。せっかくだしね」


 そんな最先端の技術に感化されたのか、明日は学校だというのに了承してしまった。

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