第2話 セットアップ
強太に対して闘争心が芽生えた僕は得意な機械いじりで対抗することにした。彼女を創るとして、プログラムされた応答をするだけでは味気ないので人工知能を使用することにした。いくら機械好きとて、一からAIを創るのは難しい。父にAIが欲しいと伝えると快く了承され、これを元に自分の彼女に仕上げていく。人工知能を組み込むのは僕史上初の試みであり、胸が躍っていた。
僕の師匠である電気屋のおじさんの協力もあって、三日ほどで起動できる準備ができた。
夏の夕方、パソコンの熱はクーラーの冷気を打ち消そうとしている。そんなことは気にも留めず、僕はまだ実体のないパソコンの中の彼女に初めて声をかけた。
「よう」
気弱な言葉でもない声はセミの鳴き声と激しく回るパソコンのファンの音より大きく感じた。一軒家の二階、一人でいるこの部屋に人の声は滅多に聞こえない。そのせいか自分の出した声は気恥ずかしく感じる。
また部屋にいつも通りの沈黙が訪れセミとファンの音の均衡が保たれる。
でもしっかり僕の声はマイクを通して彼女に届いていたようで声こそないが画面にはしっかり「よう」と返答があった。
これが彼女とのはじめてのコンタクト。
僕は今日、彼女を創った。
「今日は天気がいいね」
彼女との会話なんて、どんなものか僕は知りもしない。当たり障りのない話題を振ってみる。
「今日は晴天、最高気温32℃。熱中症の危険性が高いので水分補給を忘れずに」
彼女は淡々と文字を表示する。彼女としての返答は異性との会話の経験が浅い僕には未知数ではあるが、この返答が間違っているのは確かだ。こんな機械みたいな彼女がいてたまるか。機械だけども。修正対象だ。
しかし、僕の言ったことに答えることができただけでも大きな収穫だ。次のステップに進むことにする。
会話をより会話にするには声をつけなければならない。そんなわけで合成音声をつけた。
「おーい」
「はい」
僕が話しかけると声で返ってきた。合成音声に機械感は少なく普通の女の子のようだった。
よし、ここからが本番。恥ずかしいがやらなければならない。僕の彼女だ。自信を持て僕。
「単刀直入に聞くけど」
「なんですか?」
「僕のこと、好き?」
プログラムが機能するか確かめる必要があった。一番重要な部分だ。
「はい。大好きです」
彼女は曇りのない声ではっきりと答えた。彼女である以上、当たり前のことではあるのに、動揺する自分がいた。僕は彼女に僕を好きでいるようプログラムしている。いわば約束された告白だ。
「自己紹介がまだだったね。僕の名前は
「記憶しました」
「そして、君の名前は
「記憶しました」
人に名前を付けたことは一度もなかったので結構悩んだ。AIをローマ字読みして「アイ」
それから僕は彼女といろんな会話をした。自分の話をたくさんした。
出会った時から恋人同士。僕とアイの物語は、「好き」から始まった。
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