ラブデバッグ

イズミタモツ

第1話 バグ

 コンピュータを創るには様々な試行錯誤が必要で、必ずと言っていい程に「バグ」が生まれてしまう。バグとは英語で「虫」という意味であり、製作者の意図しない不具合を起こしてしまう厄介者だ。製作者はそのバグを見つけ出し修正する「デバッグ」をしなければならない。

 そして僕は今日、彼女を創った。それはまだバグの多い、それこそデバッグが必要な、無機質なただのコンピュータだ。


 ことの発端は一週間前に遡る。クラスに馴染めないでいる僕はいつも通り教室の端っこでIT系の本を読んでいた。というのも、父がITエンジニアでそういう類の本をよく与えてくれる。僕はそれに感謝していて、その影響か父から貰ったパソコンで機械をプログラムしたこともある。

 自分語りはほどほどにしておいて、簡単に言えばボッチだった僕を嘲笑うかのように感じの悪い彼はやってきた。

 彼というのは幼なじみの強太。幼なじみといえど仲が良いわけではなく街中で見かけてもスルーするような微妙な関係だ。理由は中学が別々だったから。そんな彼と高校で再会。小学生の頃はそれなりに仲も良かったが時の流れは人をも変えてしまうようで、強太は僕のイメージからかけ離れたチャラい嫌な奴に成り下がっていた。僕は彼を避けていたがそんなこともいざ知らず彼は話しかけてきた。


「そんなんで人生楽しいの?」


 彼は一人で本を読んでいる僕を見て、ニヤニヤしながら言った。

 余計なお世話だと言ってやりたいがここは堪え無視することにした。


「なんの本、これ」


 彼は本を覗き込んで、文字が多い、つまらないなどとイチャモンをつけた後に言う。


「お前彼女作んねーの?」


 それは彼に彼女がいるような言い草で、僕は思わず目線を本から彼に移してしまった。


「お前彼女いないだろ? 俺はいるよ、このクラスの蛍ちゃん」


 彼は教卓を囲み談笑している女子群に目を向けた。もう七月半ば。周りと関わりが少ない僕でも彼女の名前と顔はすぐに出てくる。平たく言うと、蛍さんは美少女だ。


「昨日告白されたわ。その後一緒にショッピングしたりゲーセン行ったり。お前には一生体験できないことかもしれないけどな」


 彼は幸せそうに、そして僕を蔑むように声を出して笑った。

 その瞬間に僕の中で何かがプツリと切れた。席を勢いよく立ち、柄にもなく僕は言い放つ。


「は? 彼女くらいつくってやんよ!」


 僕は彼に目に物見せてやろうと衝動的に思った。

 立ち上がった勢いで押し付けられた本のページには、AIについて綴られていた。

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