第10話 俺は、所詮、ゴブリンだ。



     〇



 凍えた体を焚火で暖めていく。

 先ほどの俺は、どうかしていた。

 なぜ、あんなことをしてしまったのだろうか。

 あんな遺体は死ぬほど見てきた。

 俺が狩ってきた命以上に、この森は死に溢れている。

 だから、何も思わないはずなのに。

 あの女の遺体だけは、どうにかしなければならない。

 そんなことさえ思った。

 鹿の肉が焼け、油がはじける音がする。

 俺は、かぶり付く前に、祈った。

 食事の際に欠かさない、所作しょさだ。

 この行動は群れにいた時から変わらず続けていた行為で、別のゴブリンたちからは馬鹿にされていた。

 やはり、俺は変わっているらしい。

 だが、人ではない。

 ゴブリンだ。

 肉を食らう度に感じる。

 欲が満たされていく感覚が。

 どうあがこうとも。

 俺はゴブリンであることを辞められないのだろう。


 ふと、先の女の遺体を思い返した。


 その肢体を拭う光景を思い出し、自分の一物に血が流れ、隆起していく。

 俺はその、どうしようもない種族の呪われた感覚に絶望し、嘆いた。

 あの時は何も思わなかった。

 心の底から、祈りを捧げていたつもりだ。

 どうか御霊が健やかにあれ、と。

 それがどうだ。

 一息つけば、所業が変わる。

 己の中の、どうしようもない本能が、呼び起こされる。 

 自棄になって肉を食らう。

 それすらも、おぞましさを感じて、そうであれと、脳が叩かれる。

 いやだと思っていても、俺は、人などではなかった。

 そんな事実が、現実が容赦なく、ここにいる。

 



 俺は、所詮、ゴブリンだ。

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