第二章 転機

第11話 何も変われていないんじゃないんだろうか。



     〇



 あれから季節が八度ほど過ぎた。

 肉体の成長が著しく伸びる時期に鍛錬を続けられたのが功をなした。

 身長も伸び、筋肉も骨も、技術も培うことができた。

 この森で倒せない奴はそういなくなってきた、が。

 時たま、冒険者と名乗る人や亜人たちが、ここにきて襲われることもあった。

 全員、返り討ちにしたか、殺したかのどちらかだ。

 殺した相手の装備は、全部もらい、遺体は燃やして埋めた。

 ずいぶんと前に一度、燃やさずに埋めたら、ゾンビになって甦ったからだ。


 それよりも前の、あの遺体は、姿を消していた。


 恐らく、ゾンビになって、彷徨さまよっているか、焼失しているかどちらかだ。

 結局のところ、俺の行為は全て自己満足にすぎないようだった。

 他の普通のゴブリンとは違うと、息巻いていて、その結果がこれだ。

 ただ鍛え上げているだけの、他者を尊重そんちょうしているフリをして、やっていることは他のゴブリンと同じ強奪ごうだつと何ら変わらない行為。

 確かに、嬉々として襲っていくわけではないし、生きていくために仕方がない……いや、理由なんていくつも後付けできてしまう。


 俺は結局、何も変われていないんじゃないんだろうか。


 あの日、他のゴブリンを醜いと思ってしまった、あの時から。

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