第8話 俺は、かつて、人だったのではないか。



     〇



 ゴブリンは死体すらも犯す。

 己の性欲を発散させるためだ。

 ゴブリンはその不衛生ふえいせいきわまる存在であるがゆえに、病気になることはない。

 ゆえに、そのような行為もたやすく行える。

 心もないからではあるが。

 今、俺の目の前に女の遺体がある。

 夜目が利くことをこんなに呪った日はないだろう。

 見るだけからして、ヤられてそう時間は経っていない。

 血の赤に混じる雪ではない粘性のある白。

 その痛々しい光景に思わず、目を背けそうになって、ふと気づく。


 死体など、文字通り死ぬほど見てきたのに、と。


 俺は、かつて、人だったのではないか。

 そんな感覚と思いがよぎり、首を振って、否定する。

 決めつけると、後が怖い。

 確実な情報を得られてからこそ、動くべきだ。

 自分のことであるのなら、尚更なおさらそうであるべきだ。

 一度、落ち着こう。

 眼前にある光景からは、多少そらして呼吸をし、後悔する。

 不快な臭い。

 思わずため息をついた。

 こんな死体、言い方はあれだが、履いて捨てるほど存在する。

 森の奥であるここで、幾つもの人間のあるいは亜人の凄惨な姿を見てきた。

 皆、どんな理由があれど、死ねば同じだ。

 放置すればいい。

 それでよかったのに。


 俺は、その遺体に近づいた。

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