第6話 慈悲ではない。



     〇



 堅い木で出来たこん棒と、同じく堅い石を削り磨いたナイフの殺傷力は、今の俺の筋力だと、ほぼ同じだ。

 この程度では野生の動物に攻撃しても平然とし、そのまま反撃してくる。

 そして、一週間ほど寝込んだのは生物の生命力を侮った結果だ。

 こん棒は反撃により見事に折れてしまい、今はたきぎとしてその役目を終えた。

 だがナイフであったとしても、殺しきれたかは定かではない。

 分厚い毛皮を貫き、肉を切り裂き、致命的な一撃を与えられるかといえば……おそらく無理だろう。

 多少の傷は残せても、複数回繰り返さなければ、仕留められない。

 その間に、俺は、殺される。

 今回は相手が反撃の後に逃げてくれたから、命があった。


 慈悲ではない。


 己の命を優先させた生物としての本能だろう。

 俺も、同じことをしていた、きっと。

 本格的に肉体を鍛え上げていく必要がある。

 石のナイフで殺せるほどの筋力を、こん棒で仕留められるほどの力を。

 武器も、増やしていこう。

 投げ物だけじゃない、弓矢と、手槍も、よさそうだ。

 ここにいる全ての生物を仕留められるだけの、総合的な力を。

 そのために、まずは肉体を休めよう。


 明日から一層厳しく、生きていく。

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