第2話 己の欲望に正直で、一切の躊躇がない。



     〇



 ゴブリンは燃費がひどい。

 悪食あくじき暴食ぼうしょく、他者の食べ物も容赦ようしゃなく奪い、ひどい時には癇癪かんしゃくを起こし、殺すまでに至る。

 己の欲望に正直で、一切の躊躇ちゅうちょがない。

 その癖、臆病おくびょうでずる賢く、しぶとい。

 仮にゴブリンにメスでもいればよかったのかもしれないが、存在しない。

 だからこそ増長ぞうちょうし続け、変容へんようすることがない。

 ないなら他人から奪えばいいと考えているからだ。

 自らつちかうことを捨てている生物、それがゴブリン。


 まず、俺は空腹を耐えることに努めた。

 できうる限りの少量の食事、水分補給で済ませるようにし、肉体を変化させていくことにした。

 恐ろしいほどの飢餓きがが幾度も起き、感情の発露はつろが異常になった。

 苛立ちが増し、破壊衝動はかいしょうどうに駆られる。

 もはや、呪いだこれは。


 だからこそ耐え甲斐のある、修練しゅうれんのし甲斐のあることだと、耐えた。

 やがて、空腹が満ちやすくなっていった。

 そのうちわずかな木の実と水だけで、十全じゅうぜん以上に体を動かせるようになった。

 低燃費の肉体を実現できるようになったのはよかった。

 もしかしたら生前の俺はストイックな生き方をしていたのかもしれない。

 真相しんそうはわからないが。

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