第6話 イジメの構図

▼未知のウイルスは、人間を不安・恐怖に駆り立て、差別や偏見を生み出し、人間社会の連帯感や信頼感を破壊する。

 この〈負の連鎖〉はドンドン増幅されていく。

「魔女狩りみたいだね、医師脳先生」と、いつの間にか〈新コロ〉が現れた。

「そんな昔のことをよく知ってるね。主にヨーロッパで発生した社会現象(魔女裁判)のことだろう。大規模な集団ヒステリーやモラルパニックの例とされているから、そういう点では確かに同じ心理状態と言えるね」


▼大正12年9月1日、午前11時58分、大激震が関東地方を襲い、建物の倒壊や大火災によって20万の命を奪った。さらに、未曽有の天災は人心の混乱を呼び、様々な流言飛語が飛び交って深刻な社会事件を誘発していく―。

「人心は、すさみきっていた」と、菊池寛賞受賞作『関東大震災』吉村昭(文春文庫)には、その惨状が生々しくつづられている。


▼そして令和の今は、コロナ禍…。

『神奈川県民の皆様へのお願い』として、神奈川県の菊岡正和医師会長は次のように訴えた。

「今この時も医療関係者は新型コロナウイルス感染症と戦っています。自分自身のみならず家族への感染という恐怖のなか、医療職という使命感で…。そのうえ更に、自分の子供が「バイキン」と言われて〈いじめ〉にあう悲しみとも戦っているのです」と。


▼いわゆる〈空気〉に流されやすく、そして〈いじめ〉が支配しがちな日本。

 …と岩田健太郎氏は著書『ぼくが見つけた いじめを克服する方法』で看破する。

「組織全体のパフォーマンスが落ちても自分より得するやつは許さない。…と、皆で一緒に地盤沈下するのが〈同調圧力〉である。誰かが得するくらいなら皆揃って損をしたほうがまし、という非常にねじれた思考プロセスである」という件がある。

 そこへ妙に納得する自分がいて…忸怩たる思いで読み進んだ。


▼感染が拡大すれば、誰もが感染者になりうる。

 そのとき(病気そのものへの苦痛や恐怖に加えて)偏見や差別を受けたらどんなに辛いだろうか。

 しかし、これを止められるのも、私たち人間だけである。

「一口に人間と言っても、さまざまだってことですか、医師脳先生」

「…と言うより、一人の人間が様々な心を持っているのかもしれないね」

「人間って不思議な生き物ですね」と〈新コロ〉は感心しながら消えた。


▼はや五月「ステイホーム!」のつれづれに曝書(ばくしょ)もどきの読書三昧…と、思いがけない本を見つけた。

 マーク・トウェインは言う。

「勇気とは、恐怖に抵抗することであり、恐怖を克服することである。恐怖を抱かないことではない」

「許しとは、スミレの花が(自分を踏みにじった)踵に放つ香り」

「自分を元気づける一番良い方法は、誰か他の人を元気づけてあげることだ」と。

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