第5話 PCR大明神

▼このコロナ禍のおり「不謹慎だ!」と怒鳴られるかもしれないが…。

 今年の流行語大賞は〈PCR〉になるのではないだろうか。

「なぜPCRを増やさないの?」とか「PCRをしないと不安だ」とか、〈PCR大明神〉の信者があふれる。


▼そもそもPCRとは、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字であり、特定の遺伝子を捕まえて(ポリメラーゼという酵素で)増幅させるという神業(?)のことを言う。

「それじゃ、僕たち〈新コロ〉を見つけるために作られた新しい技術というわけでもないんでしょ?」

「たとえば、がんに特徴的な遺伝子異常が存在するかを調べる際に(採取したDNAが微量であったとしても)PCR増幅で判定が可能になったのだ」


▼PCR検査にも問題点はある。

 新型コロナウイルスの検査では、鼻腔・咽頭拭い液の採取がポイントだ。

「僕たち〈新コロ〉を採取できなければ、いくらPCRで何万倍に増幅しても見つけられないってことですね」

「それを〈偽陰性〉と呼んでいる。だからPCR検査の〈陰性〉とは、採取した検体に〈新コロ〉が見つからなかった意味に過ぎない。PCR検査が〈陽性〉ならば、その検体に〈新コロ〉がいるということだ。いずれにしても、検体の取り違えや汚染などがあってはならない」


▼PCR検査は特別な検査機関でしか行われなかったのに対して、5月13日に〈抗原検査キット〉という簡便な検査が承認された。

 臨床現場で(季節性インフルエンザ検査のように)使われることだろう。

 どちらの検査も〈新コロ〉がいるかどうかを見る検査で、手法が〈遺伝子学的〉か〈免疫学的〉かという違いである。


▼PCR検査や抗原検査キットが〈現在感染しているか〉を見るのに対して〈過去に感染していたか〉を調べるのが抗体検査。

 …ウイルス感染後に血液中で作られる免疫グロブリンの有無を調べる方法で、検査時間は15分程度と簡便である。しかし感染初期には(免疫グロブリンが作られていないので)陽性とはならず、この方法でも〈偽陰性〉が問題になる。

「検査結果から感染をどう判断するか…それが重要だ」

「検査さえすれば感染が診断できる、という簡単な話ではないんですね」と〈新コロ〉に慰められた。


▼PCR検査は(居酒屋へ入るなり「とりあえずナマの大!」とオーダーする類の)安易なものではない。

「うまいこと言いますネ、医師脳先生。座布団三枚!」

「かと言って、医者が必要だと判断してもPCR検査をオーダーできない今の状況は…大問題である」


▼孫子は「爵禄(しゃくろく)百金を愛(おし)みて敵の情を知らざる者は、不仁のいたりなり」と力説する。

「情報の収集に金を出し惜しむな」と言うことだ。ところが世の中には(そのわずかな費用を惜しんで)多数の死傷者を出し国民に苦しみを強いる指導者がいる。

「せっかくPCR検査という情報収集の方法がある現代、この大明神をうまく使わないでどうする!」

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