Episode2 私のお店は……(1)
そして現在、私は古びたお店の前で立ち
「……はぁ、どうこう言っても仕方ないか。もう来ちゃったんだから、何とかしないと!」
あの時の決意を思い出せ、私!
──いやいや、師匠もこんな
でも、就職じゃなくて、お店を買うことを決めたのも……。
──いやいやいや、師匠のことだもの。きっと私を思ってのことだよ! うん、きっとそうに
「と、とりあえず、状況の
気を取り直した私は、改めてお店の外観を
確かに看板は傾いて今にも落ちそうだけど……よく見ると、家自体はそんなに
「うん! よし! ちょっとやる気出てきた! まずは中に入ってみるかな」
ポケットから
「これって……薬草じゃない?」
扉に続く路地にも大量に
それをよく観察してみると、
そういえば、薬草畑が付いているんだよね、この家。
そこから種が飛んできたのかもしれない。
ほとんどはただの雑草。
でも、薬草を踏まずに歩くのもまた難しい、なんとも
路地以外にも生えているのだから、無視して踏み分けて行っても
「……回収、回収」
家に入るのは少し保留にして、ひとまず路地の薬草回収を始める私。
人一人が歩ける
「
ブツブツと
薬草一本一本は大した額じゃないけど、このまま扉の所まで回収していけば、庶民の一日分の収入ぐらいにはなるかもしれない。
もっとも、すぐに処理しないと価値が落ちるから、錬金術師だからこそ価値があるんだけどね。
そうやって、ひたすら草抜きをすること
「あら、お
扉まで後半分ほどという所まで来た時、不意に後ろから声を掛けられた。
「えっと……」
客観的に私の状況を見ると……空き家の前で、見たことも無い
うん、ちょっと
こういう小さな村って、すこし
「そのお店に用事……とも違うようだけど、そのお店はずっと前に閉店してるよ?」
「いえ! 違うんです! ここ、私の家! です。この家を買って引っ
閉鎖的なコミュニティに入るには、第一印象がとっても大事!
学校なら
おばさんネットワークはバカにできないから、私は慣れない
「よ、よろしくお願いします!」
「買った? ということは、お嬢ちゃんは錬金術師様!?」
「は、はい! まだ新米ですけど、錬金術師です! サラサと言います」
「まぁまぁ。アタシはここの
おばさん──エルズさんは店の左手の方を指さしながら、ニッコリと笑って
よかった、ファーストコンタクトは取りあえず
もちろん、怪しい草抜き場面を見られたことは、頭の
「しかし、またウチの村にも錬金術のお店ができるんだね。ちょっと不便だったから助かるよ!
「はい、ありがとうございます。……ところで、このお店、何で閉店したかご存じですか?」
経営
師匠への素材の
「あぁ、この店は
「そうなんですか?」
小さい村だから、あんまり
そんな私の気持ちが伝わったのか、エルズさんは
「そりゃウチは小さい村だけど、
〝採集者〟とは、大樹海などの各種錬金関連素材が採取できる場所に
そういった場所は
そのため採集者は、錬金術師にとって素材の供給源であると共に
「採集者がいるのはありがたいですが、買い取りについては状況を見て追々でしょうか。買い取っても
「そうなのかい? おばちゃん、そういった錬金術の商売のことは
ここのように産地の近くで安く素材が入手できるのはある意味当然としても、それを安易に買い取っていては早晩
まず、買い取った物を、そのまま保存できることはあまりない。
放置しておけば、
それをするのは当然私なので、処理できる量以上に買い取ってしまっては
──と、
各種素材の王都での販売価格や仕入れ価格の表まで付いていたのだけど、その価格を単純に参考にするだけだとすぐに赤字になるぞ、と注意書きが。
「買い取りはともかく、店の方はいつ開店する予定なんだい?」
「えっと、お掃除して、準備してだから……一週間ぐらい先でしょうか」
中を見てないのではっきりとは言えないけど、まだ商品を作っていないのでそのくらいはかかると思う。
「そうかい、そうかい。何か手伝えることがあったら言っとくれ」
「ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
エルズさんを見送った後、草抜きを再開した私は、
ポケットから取り出した
扉を引けば、予想外にがたつきも無く、スムーズに開く。
「……思ったよりも、
扉を入ってすぐの所は
「そういえば、錬金術師のお店だし、『
通常、
では、錬金釜に入らないような
そのための方法が〝刻印〟である。
ただし、錬金釜を使う場合に比べると手順が複雑になる。
簡単な物なら
例えば家であれば、部屋や
これにより、理論上は都市を丸ごと
まず第一に、効率が悪い。
同等の効果で
また、錬金術師による定期的なメンテナンスや
逆に言えば、錬金術師の店なら十分に使う価値があるんだけどね。
「師匠のお店だと、
コアとは刻印の基点となる物で、最も重要な部分のことだ。
とはいえ、一度作ってしまえば、後は魔力を注ぐ時ぐらいしか使わないので、適度に
取りあえず、各部屋の窓を開けて空気を入れ
店舗スペースの右奥、カウンターの中にある扉から続く廊下の左側には倉庫、工房、空き部屋と階段が並び、
「……あ、ここにコアがある」
階段の下、壁の中に埋め込まれた
一見すると普通の石みたいで何か印があるわけではないが、そこから家全体に魔力が流れているため、錬金術師ならすぐに
「でも、ほとんど切れてるね」
魔晶石から流れ出る魔力は
もう一年もすれば刻印自体が機能停止していたんじゃないかな?
「……取りあえず、めいっぱい注いでおこうっと」
たぶん、師匠が採用してくれた理由の一つはこれ。
コアに
「うん、やっぱり『清掃』が……あれ? それに『防犯』も含まれてる?」
学校の授業で簡単な実習をしただけで、家みたいに大型の刻印を作ったことはないが、習うだけは習っているので読み取ることはできる。
「……う~ん、結構、容量があるね」
私の全魔力、その半分程度を注いだところで、いったん手を離す。
これで一杯にならないとか、魔力量に自信を持っていた私としては、なかなかにショックなんだけど……。
錬金術師としては新米だけど、師匠にちょっと
「……まぁ、いいか。動作に問題は無いし、ぼちぼち追加していけば」
刻印の機能さえ回復するなら無理して満タンにする必要も無いし、魔力を使い切ると、働く気力も無くなってしまう。
最低限、今日
せっかく新しい家に着いたんだから!
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