Episode1 卒業できた!(3)
ちなみに、錬金術大全は時折古本屋で
もちろん、
少なくとも師匠は、古本屋で本物を見たことは無いという。
それでも正規品の値段が値段だけに、時に手を出してしまう錬金術師がいて、泣きを見るらしい。
「しかし、本当に五〇〇万レアを貯めるとはなぁ……」
なんだか師匠が
本気で節約したからなぁ……。
うん、凄いぞ、私!
「それで、買いに行くのは良いんだが、どうやって持ち帰るつもりだ?」
「え? それはこれに入れて」
そう言って私はクルリと回り、背負っているバッグを師匠に見せる。
中に入っているのは、勉強道具と現金を除けば
これが
そう思って自信満々に示したのだが、師匠には不評だったらしく、ため息をつかれてしまった。
「はぁ……。ちょっと奥に来い」
「あ、はい」
少し
たくさんの本が並び、少し
部屋の中央には大きな机があるが、やや雑然と物が置かれ、あまり片付いてはいない。
「ちょっと待ってろ」
そう言われて、
「これが、錬金術大全、三巻から一〇巻だ。一巻と二巻はお前も見たことあるな?」
そう言いながら師匠が机に積み上げたのは、八冊の本。
「……おや? なんかぶ厚くないですか?」
……八冊? これで?
私が師匠の仕事場で読ませてもらっていた錬金術大全の一、二巻は、せいぜい二センチ程度の厚みしか無かった。
だのに、今机に積んである本の高さは全部で五〇センチはある。
「コイツはな、巻が進むにつれ、だんだんとぶ厚くなるんだ。ちょっと持ってみろ」
「あ、はい」
師匠に言われるままその本のタワーを持ち上げる。
「ぐ、ぐぬぬぬ。お、重いです」
「だろう?」
私の
バッグに入れることも……たぶんできる。
だけど、これから私は
そしてその場所は、おそらく王都ではない。
そんな旅行に
「どうだ? やはりウチで働かないか? 大全を買う必要も無く、修業先を探す必要も無いぞ?」
「むむむむっ……そ、それは……いえっ! やっぱり
ニヤリと笑って私を
正直、師匠ほどの腕を持つ錬金術師に
師匠も
だけど、それでも私が首を縦に振らなかったのは、自分の世界がとても
幼い頃に
学校に入っても、やった事と言えばバイトと勉強のみ。
行動
このまま師匠のお店に入ってしまえば、ほぼ確実に世間知らずのまま成長してしまうのでは、という危機感があった。
それを考えると、少なくとも一度は独り立ちをすべきと思うのだ。
「ふむ。やはりそうか。残念ではあるが、まあ、外に出るのも良い経験だろう。そんなお前に卒業祝いだ」
これまでにも何度か断っているだけに、私がそう答えるのは予想通りだったのか、師匠は軽く
私が持っている実用性
街中のちょっとしたお出かけには良さそうだけど、長期の旅行には容量不足だよね。
今回は私のバッグの中で出番待ち、かな?
「ちなみに、それには容量拡大と重量軽減などの効果が
「……えっ!? 本当に? 良いんですか? 凄く高いですよね?」
「買ったらそうだが、私が作った物だから気にするな」
「ありがとうございます!」
オシャレなだけのリュックかと思ったら、どうやら
私の現状において、このリュックはすっごく
というよりも、これが無かったらまず
……マスタークラスの錬金術師が作ったこのリュックが、一体いくらなのかは考えないことにする。
「ああ、あと、
「いえ、そんなことしませんよ! せっかく
私はむふふっと笑って、
「おおぉ~~~」
見た感じは私の背中にちょうど良い大きさなのに、私の腕がすっぽりと入ってしまう。
ついでに持っていたバッグを入れてみても、中にはまだまだ
外から見た大きさだけなら、バッグの方が明らかに大きいんだけどね。
「さすが師匠!
「まぁ、これくらいはな。それよりも買いに行くんだろ? あまり
私が目を
「あ、そうでした。今日中に買って、ついでに修業先も見つけないと! もう
出身の孤児院には、たまに顔を出していたし、卒業の報告にも行くつもりだけど、さすがに『泊めてください』とは言いづらい。
だからしばらくの間は、宿に泊まって就職活動。
でも、王都の宿は結構高いんだよねぇ。
もちろん場所によっては安いところもあるみたいだけど、そんなところに私みたいな女の子が泊まったら危ない……らしい。聞くところによると。
「しばらくウチに泊まっても良いぞ?」
「いえ、ケジメですから!」
一応、今年で成人は
私は師匠を
卒業した直後に
入学当初は知らなかったのだが、錬金術師の道具は基本的には受注生産で、それ専門で成り立つほどお客──つまり錬金術師はいない。
結果的に学校の購買ですべて
「すみませーん」
購買に入って声を掛けると、奥からいつものおばちゃんが出てきた。
「あ、サラサちゃん、卒業おめでとさん」
「ありがとうございます。おかげさまで、無事に卒業できました」
ここでは
私が孤児院出身なのも知っているので、時々、
この学校では、僅か三人の友達と教授たちを除けば、悲しいかな、私の知人はこのおばちゃんと図書館の司書くらいしかいないのだ。
もちろん、お祝いを言ってくれる人も……ね。
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