カメラで写真を撮る文化って、カメラが発明されてからはもちろんですが、気軽に誰もがたくさん撮れるようになったのは、やはりスマホの存在が大きいですよね。
スマホのカメラ性能も日々更新され、誰もが簡単にカメラマンになれて、毎日のようにSNS上ではフォトコンテストが開催されているような時代です。
写真を撮る動機も、誰かに見てもらいたい。評価してもらいたい、認めてもらいたいと、他者の評価を求めるといったことが主流になっているのかもしれません。
本作の主人公の一人、光希くんは、写真美術部に所属する男子高校生。「自分は何のためにカメラを構えるのだろうか」と今日も日常の風景や人物の刻を切り取ります。
彼を取り巻くとても優しい空気の中で、部活や学校生活を通じ、恋や友情を育んでいきます。
そこには波乱も、事故も、不治の病も、異世界転生もありません。
普遍的な、どこにでもある、こんな青春を送りたいと思わせる情景が広がっています。
作中、なぜ写真を撮るかという問いかけに、ある人物が「心が動いた瞬間を忘れないため」と答えます。
それは感動という、いつだれに訪れるか分からない瞬間。
何気ない日常の中で、たくさんの感動を得られる人はそれだけ人生を有意義に過ごせているはずだ、と思う私にとって、本作は心が動く瞬間がありすぎて、最高の一瞬を上げることはできません。
どのシーンも大切な写りゆく瞬間の連続だからです。
何をしても、何もしなくても移ろう人生の中で、記録を簡単に残せる時代だからこそ、自分が撮る写真の一枚一枚を大切にしたいと思うことができました。
誰にも分かってもらえなくても、誰にも伝わらなくても、それは自分にとって大切な瞬間なのだから。