第24話 護る者と護られる者

「あなたたちどうしたの…!?」

ママが真っ青な表情で問いかけるのを無視して、ミミはアルをゆっくりと床に降ろした。ミミの着ている服までアルの血で生温かく濡れていた。


リズはアルの手を握って目を瞑った。

「アル…アル…!」

呼びかけてもアルは反応をしない。

それを見たママはハッと息をのみ、バタバタと部屋を出ていった。


しばらくするとママとパウロが戻ってきた。

「アル…!?」

パウロは血だらけのアルに駆け寄った。

リズはパウロのために場所を譲った。

「アル…よかった…無事みたいだね…。」

アルの呼吸はリズの治療によって元に戻っていた。表情も柔らかくなっている。


ミミは、ママとパウロに事情を話した。


「その男たちは何者なの…?」

ママは不安そうに訊いた。

「わかりません。ただのゴロツキのように見えましたが…。」

「リラちゃんは大丈夫かしら…ああ、ベルったらどうしてこんなに大事な時にいないのかしら…!」

ミミは微笑んで言った。

「リラなら大丈夫ですよ。助けは必要だと思いますが、強い子なので…。」

メトもついているのであまり心配はなさそうだが、リラが自力で動ける身体の状態にあるかはわからない。もしも動けないのであれば何かしらの手助けをしてあげる必要がある。


「多分、25日の戴冠式の…生贄ってやつにされちゃってるんだと思う…。」

パウロがポツリと言った。

「生贄…?」

ママが顔色を白くしながら言った。

「ベルが、女の子たちに注意するように言っていたでしょう?」

パウロはママに言ったあと、ミミに向かって言った。

「ベルは、女の子たちには万が一にでも誰にも手を出せないように、魔法をかけて守ってるって言ってた。

だからオレ、言ったんだ、ミミたちも同じ方法で守れないのかって。そしたら、“同じ方法は”無理だって言ってた。だから、リラのことは、ミミが助けてあげないと…。」

ミミは頷いた。

「大丈夫。最初からベルのことはアテにしてないよ。」

そしてママに向かって言った。

「わたしはリラを迎えに行ってきます。アルと、それからリズをしばらくここでお願いできますか?」

ママは何度も頷いて、「もちろん大丈夫よ、二人ともちゃんと守るわ」と言った。


「それでは、頼みます。」

そう言ってミミはテレポートをしようと目を瞑った。


「…待って!わたしも行く…!!」


リズがミミに飛びついた。

ミミはリズの勢いに負けて後退り、部屋の壁に頭をぶつけた。


リズはミミを壁に押し当てたまま、ミミの肩に顔を埋めながら言った。

「リラは、怪我してた。少しだけ治療できたからすぐに死んじゃうことはないと思うけど、でももし…もし何かがあったら、わたしは…!」

ミミはぼんやりと、リズとリラの最後の会話を思い出していた。

リズは「さようなら」をするつもりで「さようなら」を言ったはずなので、もし万が一リラと二度と会えないことがあったとしても問題はなさそうだが、リズがあまりにも必死なので「わかったわかった」と言った。

「ついていってもいいの…?」

リズはおずおず顔をあげてミミを見た。

「もちろん。断る理由はないよ。」

「どうして…?役に立たないかも…足手まといになるかも…」

ミミはそれを聞いて首を横に振った。

「それは違う。役に立たない存在なんてない。そんなものが存在しているのだとしたら、それを使おうとする人間に、それを使う能力がないんだって、そう考えた方が辻褄が合うってわたしは思うよ。

それに、リズは、わかりやすく役に立つよ。わたしは人間の身体の治療は苦手だから、リズがいてくれたら助かる。そして、リズひとり程度ならわたしが守れる範囲内だ。もしリズを守れない状況があるなら、それは多分わたしにとっても危険な状況だよ。その時こそ、リズがいてくれた方が助かる。」

ミミは肩をすくめて言った。

「どんな状況でも、リズがいてくれた方がわたしは助かるってことだね。

リラを助けたいのはわたしの個人的な願望だったから遠慮しちゃったけど。」

リズは力が抜けたように「そう…」と言ったあと、嬉しそうに言った。


「…ありがとう。」


「…何が?」

キョトンとしているミミの様子が、リズは心から嬉しかった。


「じゃあ、早速行こうか。」

ミミが言うとリズは慌てて「待って!」と言った。

「ちょっとだけ待ってもらえるかな…?」

リズは申し訳なさそうに言った。

ミミは黙って頷いた。


リズはミミから離れると、安らかに息をしているアルを見て、それからパウロに向かって言った。


「また…助けられちゃった…アルが目を覚ましたら、いつもありがとうって伝えて…。」パウロは「わかった」と頷いた。


「それから…いつも弟さんを酷い目に合わせてしまってごめんなさい…。」


リズは弱々しい表情で言った。

パウロはいやいや、と手を振っていたが、しばらくして考えながら、真剣な表情で言った。


「アルは、あなたに関することになると無茶をする傾向があるように思う。兄としては、正直なところ、あなたにはこれ以上、弟に関わってほしくない、と思うよ。」


ママはそれを聞いて「パウロ…!」と嗜めようとしたが、パウロは首を振って続けた。


「でも、同じ男としては、オレはあなたを守ろうとするアルを尊敬している。」

パウロは悲しそうに微笑んだ。

「オレは、多分好きな女の子がいたって、その子のために自分を犠牲にすることはできないよ。」

身体もだけど、心もね…とパウロは言った。


「だからオレは、アルの知らない一面が見れたことに関して、あなたに感謝してる。だけど…弟を守る兄として、言うべきことは言わないといけない。」


パウロは改めてリズの方を見て言った。


「これ以上、弟に関わらないでほしい。」


リズはそれを聞いて頷き、微笑んで言った。


「今までありがとう。くれぐれも、お元気で。」


最後にリズはアルの側に跪き、頬にキスをした。


ミミはリズの別れが一通り済んだことを確認し、ママとパウロに向けて言った。


「それでは。あとのことをよろしくお願いします。」

「リラちゃんのいる場所に心当たりはあるの?」

ママは心配そうに言った。

「今のところ、ありません。しかし、知ってそうな人には心当たりがあります。」

ミミはそう言ってリズを見た。

「リズがついてきてくれるならよりやり易い。」


「そう…くれぐれも無茶をしないでね…。」

ママは言った。


「ええ。ありがとうございました。」

と言って、リズと一緒にテレポートをした。

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