第11話 忍びよる魔
「もう街の中にいる」「見たらわかると思う」と派手な少年がニヤニヤと言っていたので街の中をプラプラと歩いていたら、まだ子どもに見える女の子2人と奴隷の少年の3人組が歩いていたのでギョッとした。女の子の片方は頭にイタチを乗せている。
慌てて周りを確認すると案の定、下品な男達が複数人、3人組を狙っていた。様子を見るに、彼らは同じ集団ではないらしい。互いに牽制し合い、様子を伺っている。
複数のグループに狙われることで結果的に今まで無事だったのだろうが、そうでなければあの3人組は10分もこの街を歩いていられなかっただろう。ベルは「こんなに非常識な輩がいるなんて」と呆れ返りながら、3人組に近づいた。
すると頭にイタチを乗せた女の子がパッとこちらを見た。金髪の女の子も腰のナイフに手を添えつつ、奴隷の少年を後ろに庇う形で移動させた。
構わず近寄ると、今度は強い力で足を掴まれる感覚がして、ベルは動けなくなった。
ベルはイタチを乗せた女の子の方をじっと見た。
これをしているのはあの子に違いない。
ベルはフッと笑って、魔法を解いて女の子に近づいた。
女の子は驚いた表情で後退りした。
代わりにナイフに手を置いた金髪の女の子が前に出ようとしたので、ベルはその子の足を、自分がされたのと同じように縛る魔法をかけて封じた。金髪の女の子は「ミミ…!」と言ってイタチを頭に乗せた女の子の方を向いたが、ミミと呼ばれた女の子は唇を噛んでこちらを睨みつけるだけだった。ベルがミミの頭の中に羊が踊っているイメージを流し込んで一切の魔法を封じたからである。
ベルはミミの前に屈んで目線を合わせながら言った。
「どうだ?羊、可愛いだろ。」
ミミは握りこぶしを作るとベルのおでこ目掛けて勢いよく突き出した。体重移動もつけて。
目の前に星がチラついた一瞬に、様子を伺っていた下品な男たちが一斉に動きだした。
「おっと…。」
ベルはおでこを摩りながら、3人組とイタチ、自分を馬車の中のアルの部屋までテレポートさせた。
*
長身の男に絡まれたと思ったら急にテレポートの魔法をかけられてミミは驚いた。
周りを見るとリラやパウロ、メトもきちんと一緒に移動している。
対象に触れもせずにこの人数を移動させるなんて、ミミには到底できないことだった。
「どうだ、すごいか?」
声の方を見ると、垂れ目の間抜けな顔をした男がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
殴ったおでこは、赤くすらなっていなかった。
「…。」
ミミは男を睨みながら何度か魔法で首を絞めてやろうとしていたが、ことごとく効いていないようだった。
「…兄ちゃん…?」
無人だと思っていた部屋のベッドには小さな男の子が眠っていたようだ。この騒動で目が覚めたらしく、布団の中でモゾモゾと動き、ベッドから降りようとしているように見えた。パウロの方を見て泣きそうな顔をしている。
「アル!!」
パウロは悲鳴に近い喜びの声をあげてベッドに駆け寄り、アルを抱きしめた。
「兄ちゃん…」
アルはパウロの胸のあたりに顔を擦りつけて泣きじゃくっていた。
「…助けてくれたの?」
ミミは男に聞いた。
「誰を?その坊主のことか?」
実はお前らのことも助けてたんだぜ?と男は笑って言った。
「リズは?」
リラが男に聞いた。
「ねえ、リズは?女の子!私たちと同じくらいの…」
「おいおい、落ち着け落ち着け!」
リラが詰め寄りながら訊くので男は慌てながら言った。
「ちゃんと無事だ!今ごろ隣の部屋あたりで女の子たちのお人形になってるよ」
リラはそれを聞くなりバタバタとドアに駆け寄り、部屋を出た。
隣の部屋をバタンと開ける音がして、ガチャンと閉まった音がした。
そして反対隣の部屋のドアがバタンと開いて、また閉まる音がした。
次におそらくその隣の部屋のドアがバタンと開いたあと、「わあ〜ん!!!」というリラの泣き声が聞こえて、ドスンという音が聞こえた。
「ああ、隣の隣の部屋だったか、すまんすまん。」
男は笑いながら言った。
「…何で助けてくれたの?」
ミミはまだ疑いの目をしながら聞いた。
「お前だってそこの…パウロ?を助けただろ。それと同じだよ。」
ミミは目を丸くした。なぜパウロの名前を知ってるのだろう…と思ったが、アルがあらかじめ伝えていたのだろうと思い直した。
メトが頭の上でモゾモゾと動いたので、ミミはメトを頭からおろし、改めて肩に乗せた。
メトがミミの耳元で小さな声で言った。
「あいつ、天使だ!」
「え…?」
天使は先日の襲撃の際、アメジストを見たのが初めてだったが、目の前の男はアメジストとは全く違って見えた。
「そうなの…?」
ミミが訊き返すとメトはもう一度ジーッと男を見て、
「違ったかも!」
と言った。
「そうだよ、ちげーよ、連中と一緒にすんな。」
男が言った。ミミは、男にメトの言葉がわかるとは思っていなかったのでギョッとした。
「…そのイタチ、まさか喋ってんのか?」
男は驚いたように言った。
「!?」
ミミが驚いたので、男は「ああ、なるほど」と言った。
「あんた、あんまり力の使い方、勉強してないな?」
男は悪口を言っている素振りはなく言った。
「…キノジィからは教わってるよ。」
「なんだ師匠がいたのか、それは失礼。」
男は驚いた様子で謝った。
「じゃあまだ“初心者”だったか。それじゃあ仕方ないな。」
男は納得顔で言った。
「……あとあんた、ハーフ?クォーター?」
男はミミをジーっと見ながら言った。
「…何でわかるの?」
「弱いから。魔力って言うのか?パワーが弱い。今の時代“純血”ってのはほとんど存在してないと思うんだが、それにしてもあんたは弱すぎる。何ができんだ?」
「テレポートはできるよ。」
「何人?」
「自分入れたら3人。」
ミミは何となく「一緒に移動する対象に触れていないと出来ない」ということは避けて言った。
「3人…?」
男は顎を触りながら眉を顰めた。
「…どうやったら3人も移動できるんだ…?」
男は独り言のように言った。
「…あ、ちなみに、“触れてないとできない”は問題じゃないぞ?」
ミミは顎を引いた。男はその様子を見てフッと笑った。
「まあいい。できればじっくり教えてやりたいところだが…」
男は立ち上がりながら言った。
「すまん、俺も仕事があってな。今日やらなきゃいけないことがあるんだ。あとはここにいる姉さん方に頼りな。それから…」
男はミミを見ながら言った。
「あんたと、さっきの金髪の子、それからリズちゃんは、今夜はここに泊まって、明日のなるべく朝早くにこの街から出ていきな。」
男は「そういう決まりだ」というかのように言った。
ミミは泊めてくれることに礼を言った後、訊いた。
「朝早く?何で?」
「危ないからだ。」
「…何で?」
「ああ?…ったく、めんどうだな…おら!」
男はミミに人差し指をピンと向けた後、デコピンをするように親指で人差し指を弾いた。
すると途端にミミの頭の中に「この国の事情」が情報として入ってきた。
新しい王様に変わること。
新しい王様は差別的で、「魔女狩り」をスポーツとして楽しんでいること。
そして、
12月25日の戴冠式では、魔女たちを集めて生贄にするセレモニーがあること。
生贄は「見た目重視」で、「魔法が使えるか」という視点はもはや崩壊しており、「整った顔をした女」であればゴロツキに襲われ、生贄として王宮に売られてしまうこと。
子どもであろうと、関係なく。
「この間、魔族の村が襲われた。だから魔族側も相当殺気立ってる。今や誰も安全ではないが、特にあんたらはヤバい。うってつけだからな。だから、この街を離れるんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます