第44話

 「うわ、沢山付いてる。

これなんか、凄く大きくない?」


カレン達との定例会。


今回はその催しに、芋掘りを選択した。


以前苗を植えた農地は、アウラウネの管理のお陰で多くの芋を実らせ、農作業が初めての彼女達は喜んで苗を引き抜き、地中から出て来る芋を嬉しそうに眺めている。


俺を除いた4人での作業は、300本の苗と雖も僅か3時間弱で終わらせた。


小さくて食べるのに向かない芋は種芋用に取って置くことにし、ある程度の大きさの物だけを皆で分ける。


食用に回す分だけでも1400個弱の芋が収穫できたので、そこから土地の提供者であるケインに200、今回作業してくれたカレン達に1人100ずつ分け与えることにして、残りを俺が貰う。


土作業で手足が汚れた彼女達を風呂に入れている間に、高温に熱した小石の中に芋を入れ、焼き芋を作る。


身奇麗になって風呂から出て来て、冷たいお茶と共に焼き芋を頬張った彼女達は、その初めての味覚に表情を緩めていた。


今回は、海に招待した時と違って無駄な抵抗はしない。


彼女達が焼き芋を堪能したら、大人しく奉仕するつもりでいる。


エミがミランの理事長から預かって来た手紙によると、定例会の翌日の医務室での睡眠については、一切の口を挿まないとのことだから。


案の定、彼女達4人は、翌日の朝日が昇るまで代わるわる俺に戦いを挑んできて、何度撃沈されても懲りずに向かって来るのであった。


「もうお腹一杯」


意識を失う前のカレンが漏らしたその言葉に、『それはもう、食事の時に1度聞いたぞ』と突っ込みを入れたい俺だった。



 「え、・・もしかして温泉?」


いつものようにアリサと共に上級ダンジョンに潜り、その最下層に迫っていた時、ダンジョン内にも拘らず、温泉が溜まっている場所があった。


規模が小さい上にお湯が濁っていたから実際に入りはしないが、手ですくった時の臭いと感触は、間違いなく温泉のものであった。


実際、魔界のダンジョンの中にも、温泉が涌いていた場所は幾つもあった。


魔物の中でも人型のものは、水浴びや入浴を好む傾向にある。


そしてそういう類の魔物は、えてして性格が穏やかなことが多い。


外見が汚い魔物ほど、気性が荒く、獰猛なのだ。


魔界のダンジョンで数え切れないほどに戦闘を繰り返してきた俺は、そういった偏見の下、魔物と戦っていた。


【魔物図鑑】の中に居るサキュバスは、最深部の温泉で、全裸で湯に浸かっていた所を攻略してきた俺に邪魔されたのだが、向こうから攻撃してはこず、戸惑う俺を湯に誘ってきた。


罠かとも考えたが、その誘いに乗った俺と湯の中で仲良くなった彼女は、戦うことなく俺の眷族になった。


ウンディーネも似たような経緯で配下になったし、他にもあと6、7人程、仲良くなって戦わずに済んだ者達がいる。


勿論、”彼女”もその1人だ。


戦って【吸能】を用いないと、その相手が持つ特殊能力は得られないので、サキュバスが眷族にいても、貧民街で娼婦の女性から分けて貰うまで、俺は【魅了】が使えなかったのである。


魔物である彼女達に【吸能】を使うと、その能力を彼女達から奪ってしまうため、俺は【魔物図鑑】に入れる者達には【吸能】を用いないことにしている。


「上級ダンジョンの中には、このように温泉が涌く場所を含むものがある。

極希にしか見つからないが、もし最深部にそれがあれば、そこのボスは間違いなくレアモンスターだ」


「じゃあまたアイリスみたいながいる訳ね?」


「最深部に温泉があればな」


「フフッ、楽しみね。

早く攻略しましょ」


結論から言うと、最深部に温泉はなく、そこのボスは巨大なわにの魔物だった。


アリサはふて腐れたが、その魔物の皮がかなりの高値で売れると教えると、途端に機嫌を直した。


既にこの世界では2番目の金持ちだろうに、彼女はそこだけはカレンに似ている。


温泉に浸かりたいというアリサの希望を叶えるべく、暇な時、俺はこの世界でそれを探してみることにした。



 「100の大台が見えてきたな。

もう国内有数の実力者だろう」


上級ダンジョンで鍛えているケインとサリーが、其々レベル98と96になった。


「我が国の王で、未だ嘗てレベル100に到達した者は1人もおりません。

建国王でさえ、レベル82だったと歴史書に記されています。

僕がその最初の人物になるのだと思うと、武者震いが止まりません」


「ケイン様なら武力と知性を備えた最高の王になれます。

私がお側におりますから、どうかこの国を豊かで平和な国にしてください」


「サリー・・」


「いちゃつくのは、自分達の部屋に帰ってからだからな?

せめて攻略後の風呂の時間まで待てよ?」


今にも彼女を抱き締めそうなケインに、念のために忠告する。


「大丈夫です。

そこはきちんと弁えておりますから」


「・・お風呂でも、そんなにしてませんよ?」


サリーが顔を赤くして言い訳をする。


「因みに、現国王のレベルを知っているか?」


「いえ、非公表ですから」


「12だ」


「は?」


「え?」


「12なんだよ、あいつのレベル。

ちゃんと魔法学院を卒業したのに、その程度でしかないんだ」


「それはさすがに・・」


「きっとパーティーメンバーに恵まれたのでしょうね」


「そんなレベルだから、奴はチタとの戦争でも、玉座に座っているだけだろう。

出陣すれば戦場で始末できるが、そうでない以上、お前に動いて貰わねばならない。

暗殺するのは簡単だが、それではお前の評判に傷が付く。

自分を支持する貴族達と、内々に話をつけておけ。

時が来たら、謁見の間で堂々と退位を迫るんだ」


「分りました」


「もしそれでも奴が玉座にしがみついたら、その時は・・」


「僕が手に掛けます」


下を向いたケインが、拳を握りながら声に出す。


「・・俺が自殺に見せかけて処分してやるよ」


「アーク様、ありがとうございます」


サリーがケインを軽く抱き締めながら、俺に礼を言ってくる。


「それはそうと、お前達がレベル100になるお祝いとして、以前約束した芋を分けてやるよ。

大分収穫できたから、ケインに200本やる。

サリーに蒸して貰うなり、焼いて貰うなりして2人で食べるがい」


少し暗くなった雰囲気を変えるため、敢えて食べ物の話題を振る。


「フフッ、楽しみです」


「飢饉に強い食材だとお聴きしましたが、我が国でも栽培して宜しいでしょうか?」


「ああ、構わんよ。

荒れた土地で、ろくに肥料も与えない方が良く育つから、寒村なんかで栽培するのに非常に適している。

お前が国王になったら、苗と一緒に、育て方を記したメモを渡してやる」


「ありがとうございます!」


「・・口減らしのために売られる子供が、少しでも減ると良いですね」


「サリー・・。

僕達が頑張れば、いつかはきっと、それを無くせるよ」


「え?」


「僕の妻になる人は、君しかいないから。

だから、君がこの国の王妃になるんだ」


「!!!」


「今まで考えたことなかったのかい?

僕が君以外を選ぶはずがないじゃないか」


「でも、私は貧しい平民の出身ですし!」


「そんな事は関係ないよ。

健国王だって、元は農民の出なんだよ?

地位や権力は、後から幾らでも付いてくる。

本当に価値あるものは、その人の人間性なのさ」


「・・ケイン様」


抱き合う2人に、『いちゃつくのは・・』なんて野暮なことはもう言わない。


ケインに協力して正解だった。


今の俺は、彼らの姿を目にして、心からそう思うのだから。


仕方ない。


お前達が落ち着くまで、ダンジョン攻略は暫く待ってやるよ。


【魔物図鑑】を開くかどうかを考えながら、結界を張ったその外で蠢く魔物達に視線を向ける俺であった。

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