第43話
「アークさん、チタ王国とは戦争になるのですか?」
ダンジョン攻略の合間に、ケインが尋ねてくる。
「なるけどならない」
「?
どういう意味でしょう?」
「チタ側には縁談の返事をできるだけ延ばせと言ってあるが、最終的に向こうは断る。
そうなれば、ベルダはそれを理由に宣戦布告するだろう。
だから戦争にはなる。
だが、実質的には両国が戦うことはない。
ベルダがチタに兵を向けた時、俺が途中で邪魔するからだ」
「第3王子と父上は、2万を超える兵を準備させるつもりでいますが、あちらに与する貴族には、もうそこまでの資金力はありません。
騎士団と合わせても、せいぜい1万でしょう。
ですが、それでも1万です。
それを、アークさんお一人でどうにかするおつもりなのですか?」
「ああ。
真面目にやったら、恐らく10分掛からない」
「「!!!」」
ケインと、その傍で大人しく話を聴いていたサリーが軽くのけ反る。
「・・地形を変えるような大魔法は、あまり国内で使わないでいただけると助かります」
「・・アーク様、無敵ですね」
「心配するな。
アリア将軍とその配下は出陣しないとはいえ、彼女が懇意にしている他の団の騎士達は参加せざるを得ないだろう。
その彼らを、無闇に殺すつもりはない。
ケインが王になった時、国を支える者達だからな。
第3王子と2人の将軍、それから、場合によってはお前の父親は始末するが、他は選んで殺すよ」
「・・やはり父上もなんですね」
「生きていると、何かと邪魔だろ?
大人しく隠居するようなら考えるが・・」
「説得しても駄目なようなら、仕方ないですね」
「・・ケイン様」
俯いた彼を、サリーが優しく抱き締める。
「開戦まで、あと2か月くらいだろう。
それまでに、心の整理をしておけ」
「はい」
「今年の学院祭も、ぱっとしないわね」
一緒に回っているマリアがそう口にする。
「以前も来たことあるのか?」
「ええ、2度ほどね。
去年よりは増しだけど、あまり見るべき所がないわ」
「お堅い催しばかりだしな。
抜け出して他に行くか?」
「そうね。
ダンジョンにでも潜りましょうか。
あそこなら、気楽にお茶もエッチもできるし」
「・・・」
「研究職の先生方が幅を利かせているせいで、折角のお祭りなのに、全然そうは思えない。
もっと武術系や飲食系のイベントがあっても良いのに・・。
これじゃあ研究発表会と同じよね」
「理事長曰く、これまではあまり予算を割けなかったそうだ。
派手な催しは金が掛かるからな。
だが来年以降は少しずつ、そういったイベントが増えていくだろう」
「私がそれに貢献したのよね?」
「ああ。
大分稼がせて貰った。
そこからアリアさんに白金貨100枚を渡そうとしたのだが、『もう十分』と拒否されてしまった。
代わりにお前に渡しておくよ」
「え?
別に良いわよ。
あなたが賭けたお金だし」
「金さえあれば、大抵の事は乗り切れる。
使わなくても良いから、アイテムボックスにでも入れておけ」
「そう?
・・なら受け取っておくね。
ありがとう」
俺が差し出した革の小袋を、大事そうに終う彼女。
「ねえ、これから中級ダンジョンの最深部に行かない?」
「まだボスは復活していないと思うぞ?」
「そういう意味じゃなくて、ホテル代わりとしてよ」
「・・いつもの定宿では駄目なのか?」
「偶にはああいう場所でするのもスリルがあって良いじゃない」
「偶にねえ?」
「五月蠅いわね。
アークだって私としたいでしょ?」
「それはまあ・・」
「なら早く行きましょ。
今日は夕方からお母様と上級に潜るから、あと3時間くらいしかないわ」
人間も、魔族同様、戦闘を繰り返すと性欲が溜まるのだろうか。
「今日の献立は肉じゃがとお刺身、ワカメと茸のお味噌汁よ」
家に帰ると、アリサとアイリスが迎えてくれる。
アイリスを眷族に迎え入れてから、アリサは、夕食の準備を彼女とすることが増えた。
アイリスは相変わらず無口だが、その表情で様々な感情を伝えてくれる。
アリサとは非常に気が合うようで、料理以外にも、洗濯や掃除なども一緒にすることが多い。
【浄化】を使えば洗濯は必要ないのだが、アリサは自分の下着は手洗いする。
それと、何故かお風呂だけは自分で掃除するのだ。
【魔物図鑑】の眷族達にも衣服を身に付けている者は多いが、彼女達は着替えを必要としないようである。
全て【浄化】で済ませているのだろう。
アイリスも、時々異なった服装をしているが、それを洗って干している所を見た事がない。
お風呂は、偶に俺達と夕食を取った後、アリサと2人で入る時がある。
その時は、俺はアリサによって閉め出され、彼女達と一緒には入れない。
別にそれで構わないが。
「・・美味い。
最近になって、益々腕を上げたな」
肉じゃがを頬張った俺は、思わず唸る。
「この刺身も、鮮度だけでなく、切り方が良いからより味が引き立つ」
アリサのレパートリーは、アイリスと共に作るようになってから、どんどん増えている。
彼女から教わり、出汁の使い方を覚えたことが大きい。
俺はもう、町の屋台や食堂の料理に、満足できなくなってきていた。
「フフッ、沢山食べてね」
俺の向かい側で箸を動かす彼女が笑う。
アイリスは、その隣で味噌汁の汁だけ飲んでいた。
俺の上で腰を振っていたエミが、身体を弓なりにして果てる。
飛び散る汗が、シーツに所々染みを作る。
全身を弛緩させた彼女が、ゆっくりと、力尽きたように俺に覆い被さってくる。
「・・意地悪。
一緒にいきたかったのに・・」
「君の踊る姿を見ているだけで満足するからな」
「フフッ、調子の良いことばかり言って。
・・それで喜ぶ私も私だけど」
定宿の、大きな枕に載せた頭を僅かに傾けて、エミが微笑む。
数時間前まで共に上級ダンジョンに潜り、彼女のレベルを上げていた。
今のエミは、レベルが135ある。
毎月1回、こうして彼女と2人だけの時間を作るが、その時間が段々長くなっている。
同居するカレン達に、彼女が何と言い訳しているのかは知らない。
「年が明けたら、ベルダとチタは戦争になるだろう。
だが、あっという間に方が付く。
その後、ベルダでは新王が即位する。
その王は、俺と懇意にしている者だから、ミランとの関係はより良好になる。
そう理事長に伝えてくれ」
「・・分りました」
伏していた身体を少し浮かせ、彼女が俺を見る。
「・・・」
「大丈夫だ。
無闇やたらに殺したりはしないよ。
新しい国として生まれ変わるベルダにとって、邪魔になる者達だけだ」
愁いを帯びていた彼女の視線が、穏やかなものになる。
「今私が指導している生徒達の中にも、ベルダとの戦争で親を失った子がいます。
苦しい家計の中でその子が学院に通えるのは、今年から始められた奨学金制度のお陰です。
理事長は、あなたにとても感謝していますよ。
彼女の夢であった制度を通して、学生達が真摯に学び、励む姿に、日々優しい視線を向けておられます。
私もあなたが、アークさんが大好きです。
どんなに強くても、どれ程お金を持っていても、貧しき弱き人々に向ける眼差しが一向に変わらない。
・・愛しています」
ゆっくりと唇を重ねてくる。
「少し喉が渇いた」
照れ隠しに、濡れた瞳で自分を見つめるエミにそう告げ、起き上がろうとするが、彼女にやんわりと阻止される。
「私が飲ませてあげます」
上半身を起こした彼女は、サイドテーブルに置かれた水差しに手を伸ばし、コップに注いだ水を自身の口に含む。
その喉が動きを見せ、彼女が水を飲み下していく。
「ふう、美味しい」
口内を清浄にした彼女は、俺の方を振り向き、悪戯っぽく笑う。
そして再度水を含むと、静かに唇を合わせ、舌を通して流し込んでくる。
「こんな時くらい、身体を離せば良いのに。
俺の利かん坊が中で
「良いの。
あなたと1つになっているという、この感覚が好きなんだから」
彼女が僅かに腰を動かす、それが再戦の合図になった。
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