第34話
「おめでとう。
これで先ず1つ、中級ダンジョンを完全攻略したな」
学院内にある2つの中級ダンジョン、その内の1つの最深部まで到達し、レベル67のキングオークを倒したマリアに、そう賛辞を贈る。
「ありがとう。
こんな短期間でここまで来れたのは、全てあなたのお陰よ」
一緒にパーティーを組み始めてから約2か月。
ケイン達にも時間を割かねばならないこともあり、彼女と放課後に潜れる時間は1日3時間と短くなったが、それでも平日は毎日潜っているだけあって、マリアのレベルは既に69になっている。
ボスの死体と、周囲に散らばる金貨や宝石を全て回収し、外に出ようとした時、袖を摑まれる。
「約束したよね」
共に潜るようになってから1か月が過ぎた頃、俺は彼女にある約束をさせられていた。
「中級ダンジョンをクリアしたから、今度のお休みに、私を抱いて」
「・・分った。
ちゃんと避妊薬を飲んでおけよ?」
「うん。
お母様から外泊許可を頂いておくから、朝まで一緒にいてね」
「でも本当に良いのか?
俺は責任取れないぜ?」
「構わないわ。
何度も言ったけど、家の事は考えなくて良いから」
3日後の休日に、ラウダの高級宿に彼女を連れて行く。
顔馴染みの受付嬢に、チップ込みで金貨2枚を支払い、いつもの部屋に案内される。
この部屋だけ、ベッドを新しく買い替え、それまでの倍の大きさにしたそうだ。
調度品なんかも目新しい物に置き換えられており、何か広くなったと感じていたら、隣の部屋と1つになっていた。
「ご常連のお客様の為にご用意した、特別室でございます」
それが誰を指しているのかは明白だったが、彼女はそれ以上言わずに去って行く。
「あなた、そんなによくここに来るの?
しかも、料金がまるで王族専用の宿並みだわ」
「ベルダに行く前、暫くここに住んでいたんだ」
「ああ、なるほどね。
だからあの女性とも親しかったのね」
疑問が解消されたマリアは、窓のカーテンを閉じて日差しを遮ると、ベッドの側で徐に服を脱ぎ始める。
清楚な下着に包まれた豊かな胸と、引き締まった臀部が露になる。
「最初だけ優しくしてくれれば、あとは何をされても良いわ。
エッチな事、沢山教えてね」
側にあるテーブルに下着を脱ぎ捨てながらそう告げた彼女と過ごす、無言に近い、温かな時間。
彼女が放つ無意識の
彼女が身を躍らせる度に飛び散る汗。
全身を使って歓びを表現する彼女に、俺は暫く夢中になった。
「アーク、あなた、お母様にも同じ事をしてるのね」
翌朝、朝日の中で髪を梳いていたマリアが、鏡越しに俺を見て、そんな事を言ってくる。
「・・どうして分ったんだ?」
その確信めいた口調から、ごまかすのは無理だと判断した俺は、素直にそれを認める。
「今の私があなたに向ける眼差しが、お母様のものと全く同じだから。
なるほどね。
お母様がご機嫌な理由がやっと分ったわ」
「怒っているか?」
「どうして?」
「お前の母親にまで手を出したから」
「ああ、そんな事ね。
別に気にしてないわ。
さすがに弟や妹を作られたら複雑だけど、お母様ならそこまでしないでしょ」
「意外と割り切った考え方ができるんだな」
「お父様が存命だったら許さなかったかもしれないけれど、今のお母様は自由だもの。
それに、お母様が色々苦労していたのは知っているし、お母様だってまだ若い”女”だもの。
誰かに抱かれたい夜だってあるでしょ。
変な下心を持って近付いてくるその辺の男とそうなるくらいなら、あなたの方がずっと安心できるわ」
「仲の良い
「フフフッ、これからはどうかしらね?
お母様とは、愛する男を取り合うライバルになる訳だし」
悪戯っぽく笑うその瞳に、一切の陰りがない事を確認した俺は、肩の荷が1つ下りたことを喜ぶのだった。
「子爵や男爵になると、財政事情は何処もこんなものか。
アリアさんも、純利益は年に金貨7、80枚くらいだと言ってたしな」
だからこそ、対抗戦でのような賭け事が持て
深夜に忍び込んだ子爵家の宝物庫で、自然にそんな愚痴が出る。
目の前にあるのは、箱に入った白金貨50枚と、金貨が詰め込まれた麻袋が8つのみ。
俺はそこから、白金貨全部と麻袋を6つ頂いた。
この1か月の間に、アリアさんから得た情報を基に、ケインを冷遇する兄弟達に与する貴族達から、その力の源となる軍資金を頂戴して回った。
警戒されないように、仲間内で情報が行き届かない初日と翌日に、4軒ずつ計8軒の侯爵家や伯爵家に忍び込み、そこから各家の現金資産の約9割を奪った。
それだけでも、白金貨2200枚と、数千枚の金貨が詰まった麻袋が96個になる。
その後は間を空けて、今度は子爵や男爵の下級貴族12名を狙って、日に3軒ずつ頂戴して回った。
これら12軒で得た合計は、白金貨450枚と、金貨の麻袋60個である。
最後の標的から奪い終え、家に帰って大体の現金資産を計算していたら、それを見ていたアリサから、『不動産を除けば、この国全体の総資産額の、3割以上はあるんじゃない?』と呆れられた。
まあ、今までに俺が手を出さなかった上位貴族は6名しか残ってないし、下級も残り20名くらいだから、国民全員が持つ現金と合わせても、俺がこの国で奪った額の倍にはならないだろう。
それだけに、王宮の勢力図にもかなりの変化が見られ始めている。
これまで大手を振って、我が物顔に振る舞っていた上位貴族がほぼ顔を見せなくなり、その代わりに日和見の貴族達が理由を探るようにうろちょろし出して、更には、ケインの味方である少数の貴族達への風当たりがぴたりと止んだ。
面白いのは、王宮の宝物庫から盗んだ時もそうであったが、被害者である彼らは、決してその事実を表に出さないことである。
いや、出せないのだろう。
彼らの態度が尊大であり、かつそれが
経済力は、国によってはそのまま武力としても通る。
持てる者の機嫌を損ねれば、持たざる者は
それだけではない。
商人が貴族に頭を下げるのは、相手が金と権力の両方を持っているからだ。
権力だけがあっても、そこの領地に金が無ければ、商人達はわざわざそこまで行って取引しようとは思わない。
行っても逆に金をせびられるだけだからだ。
何かの資源でもなければ、商業が衰退すれば、数年で領地が傾く。
さすがにそれは理解しているらしく、たとえ怒り心頭でも、彼らはじっと口を
「とりあえず貴族側はこれで良いとして、後は兄弟達と将軍2人か」
ケインには姉と妹も3人いるが、彼女らには継承権がなく、他国と友好関係を結ぶための道具でしかないようなので、今は放っておく。
考えを巡らそうとした時、風呂から出て来たアリサが、下着1枚で目の前を横切る。
今日はここまでだな。
一生懸命働いた後は、心と身体に有意義な事をして、気を休めなくては。
「かなりレベルが上がってきたな。
1階層から始めたのに、今では48階層を攻略してるんだから、まあ当たり前か」
ケインとサリーのステータスを覗きながら、感慨深げにそう口にする。
始めてから約3か月が経ち、ケインは大分逞しく、サリーはより美しくなった。
現在の彼らのレベルは55と53。
両名共に【浄化】と【ヒール】、【ウオーター】を習得し、サリーの魔法は実戦でも使える域にある。
レベルが50を超えた時、『お祝いだ』と言って与えた其々の武器(サリーはメイス)を、とても大事にしている。
今更、『それ、(魔界の)質屋で安く買った物なんだ』とは言えない。
この世界でなら国宝級の
「アークさんのご指導のお陰です」
頭を下げて礼を言うケインの隣で、サリーが嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「アークさんの助言通り、城で出される私の分の食事を、仲の良い同僚に毎回食べて貰ったり、休日に外出した際に買い求めたお菓子や日持ちする食べ物なんかをこっそり差し入れるだけで、他の(同僚の)
今ではほぼ全ての同僚が、内心ではケイン様の味方です」
「言っただろ?
食べ物の恨みは恐ろしいんだ」
「ええ、その通りでした」
「これからは世間話を通して、仲良くなったメイド達の家庭状況をそれとなく聞き出してくれ。
もし病や借金で苦しんでいる家があったら、俺に伝えてくれ。
助けるに値する家なら、俺の方で何とかするから」
ここでふと、サリーが以前口にしていた事を思い出す。
「サリーの実家は大丈夫なのか?」
「え?
・・両親は健在だと思いますが、こちらに奉公してからは、一切連絡を取ってませんので・・」
何だか知られたくはないみたいだな。
「もしかして、あまり仲が良くはないのか?」
「ええまあ、そうですね」
ケインの方を気にしながら、ぼそぼそと口にする。
「私が13で働きに出たのは、親に売られそうになったからです」
・・そうだよな。
最近はアリアさん達ばかり見てたから忘れていたが、親子だからって、皆が仲が良いとは限らないもんな。
俺だってそうだったし。
「気にするなサリー。
そんな親に代わって、僕が君の家族になる」
え!?
お前、ここでそれを言っちゃうの!?
「ケイン様・・」
ほら見ろ。
もう直ぐにでもベッドに行きたそうな顔してるぞ。
「・・今日のダンジョン攻略は、いつもより1時間早く終わらせる。
それまで我慢しろ」
そう言うのがやっとだった。
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