第35話

 「伯爵だけあって、それなりには持ってるな。

置き場所はこの辺りで良いか」


宝物庫の空いているスペースに、ここの領地内にある中級ダンジョン2つと、上級2つの完全攻略で得たお宝を置いてやる。


各ボスの死体と、最深部までの情報をギルドに売った分は、共に攻略したアリサに渡したが、道中に落ちていた金になりそうな装備品や硬貨、ボス部屋に無造作に転がっていた金塊や宝石類は、全てこの場に置いてやる。


ここの領主は、伯爵ではただ1人、ケインに味方していた人物だ。


頑張って彼を支えて貰うためにも、その領地内にあるダンジョンの魔物を1度完全に狩り尽くし、スタンピードの可能性を潰すと共に、そこで得た魔石とボスの死体以外の利益を、全部還元してやった。


残り3名の味方にも、同じようにしてある。


2人いた男爵の宝物庫は少し寂しかったので、金貨が詰まった麻袋を2つずつ足しておいたほどだ。


俺達2人が彼らの領内で迷宮に潜っている間、【魔物図鑑】から出したバルキリーとサキュバスが、深夜の町や街道を空から巡回し、領民達に害をなす盗賊や魔物を殺して回る。


ロックイーターには付近の荒れ地を掘り起こさせ(岩石を消化した後に排出するその糞は、良い肥料になるのだ)、ゴーレムに雑木を処理させて、数時間で簡単だか広大な農地を造る。


その農地の真ん中に、所有者を示す、領主の名を記した立札を刺し、ダンジョンで得た魔石の幾つかを働いて貰った眷族達に分け与えると、夜が明ける前に姿を消す。


帰宅後、風呂でアリサと仲良くし、学院に行くまでの短い眠りに就く。


忙しいが、何だか楽しかった。



 「あっ・・んんっ、ああん」


学院での昼休み、早々に食事を終えたマリアに強請ねだられた俺は、彼女を攻略を終えた中級ダンジョンの最深部まで連れて行き、そこに家具屋で買ったベッドを出して、彼女を抱く。


ボスは1度倒すと相当の期間復活しないから、ていの良い逢引の場として使っている訳だ。


快楽を覚えたてのマリアは、休日は月に1度しか俺に会えないため、こうして平日の空き時間を利用して、俺を誘ってくる。


実技を免除された俺と違って、彼女には午後も授業があるからさっさと繋がるし、授業中に漏れたら不味いから、中にも出さずに彼女だけを満足させる。


その後に澄まして実技を披露するマリアを想像すると、何だか笑ってしまう。


一方でアリアさんは、平日の午後、3時間くらいの空き時間ができると、自室のドアに『就寝中につき面会謝絶』の札を掛けて俺を呼び、無意識に漏れ出る声を必死に抑えようとしながら、昼下がりの情事を楽しんでいる。


月に1度、休日での逢瀬では、俺の定宿で2人きりで過ごすので、彼女は一切の制約から解放される。


俺は1度に複数を相手にすることはあっても、母娘おやこ丼だけはしないので、必ず2人を別の日に抱くのだ。


「・・我慢させてごめんね。

凄く気持ち良かったよ」


余韻に付き合っていた俺の耳元で、マリアが抱き締めていた背を撫でてくる。


「随分慣れてきたよな」


「お母様とどっちが良い?」


「そういう質問は禁止」


「フフッ、冗談よ」


服を着ながら、話を続ける。


「もう1つの中級も、途中から始めたからじきに最深部まで到達するだろう。

そうしたら、2人だけで上級に入るか?」


「ええ。

そうしたい」


「メンバーを増やさなくて良いのか?

上級は魔物のレベルがぐんと上がるから、実質お前だけで戦うと、攻略にそれなりの時間が掛かるぞ?」


「2人だけで良いわ。

私達の時間を邪魔されたくない」


「・・魔物のレベルが90を超えてきたら、アリアさんが暇な時は、彼女も加えないか?」


「お母様を?」


「騎士団での訓練や、仕事で弱い雑魚を倒しても、もう彼女のレベルはほぼ上がらない。

だが上級ダンジョンなら、まだまだ上が見込める。

アリアさんにはこの国の主力でいて欲しい。

お前が軍に入らない以上、彼女のレベルも上げねば、次第に国が弱体化していく」


「・・そうね。

お母様の安全のためにも、その方が良いわね」


「外から【転移】で連れて来るから、部外者の彼女が使っていても、学院にはばれない。

上級だから、他に潜ってる奴なんていないしな」


「そう考えると、この国の最高学府なのに、何だか情けないわね」


「ハングリー精神に欠ける奴が多過ぎるのさ。

現状でも生きていく分には問題ないから、追い詰められないと何もしない奴が増える一方だ。

平和なのは良い事だが、普段から備えていないと、いざと言う時に自分の大切なものを守れない。

敵はこちらの事情なんて、いちいち考慮してはくれないからな」


「私ももっと強くならないと。

先生達から、今年の対校戦に出てくれと言われてるしね」


「・・・」


う~ん、どうしようかな。


カレン達3人は出ないが、それでも臨時メンバーだった5人がいる。


このまま鍛えると、恐らくあの5人よりは強くなるだろう。


・・団体戦は今年もミランが優勝するし、個人戦だけならマリアが優勝しても平気かな。


念のため、あちらの理事長には手紙で伝えて謝っておこう。



 「私がダンジョンに?」


「ええ。

アリアさんは、強いとは言っても所詮はレベル102。

対校戦で去年優勝したミランの1年生達にも簡単に負けます。

ですから、ここらでしっかりと鍛えておいた方が良いです」


「そんなに強い学生が、あなたの他にもいるの?」


「現時点でミランに4人いますね。

マリアだって、学年末にはあなたよりずっと強くなりますよ?」


「分ったわ。

私も可能な限り、あなたとダンジョンに潜る」


「その方が良いです」


「・・でもそうすると、あなたとこうして楽しむ時間が月1回になってしまうわね」


アリアさんの自室にある大きなベッドの中で、俺に腕枕をされた彼女が寂しそうに呟く。


「・・ダンジョンで鍛えている間は、アリアさんだけ、休日に会う回数を2回に増やします。

マリアには内緒にしてくださいね」


「ありがとう。

その言葉で俄然やる気が出てきたわ。

・・良い歳をして、若い男に溺れる私を浅ましく思わないでね」


「そんなこと考えもしませんよ。

幾つになっても、その愛の表現がどう変わっても、異性を求める欲求は誰でも持っていると思います。

俺だって、今のように満たされるまでは、女性の身体が欲しくて堪りませんでした」


「優しいのね。

私、あなたのそういう所も大好きなの。

・・もう1回、相手をしてくれる?」


答える代わりに、俺は彼女に覆い被さった。



 「こんにちは。

私はケイン王子の使者でアークと申します」


予定のない昼間を利用し、サリーから受け取ったリストに記載された、メイド達の実家を回る。


「ご家族のご病気を耳にしたケイン様は、酷くそのお心を痛められ、私に治療をお命じになりました」


あたかもケインの部下であるかのように、彼を称えながら無償の治療行為を施していく。


「差し出がましいようですが、城で精一杯働いてくださる娘さんに感謝しているケイン様から、これを預かっております。

僅かですが、今のケイン様にできる精一杯の額でございます。

どうぞお収めください」


恐縮する家族に、金貨1枚を渡してから去る。



 「こんにちは。

私はケイン王子の使者であるアーク。

何かお困りの事はございませんか?

城で一生懸命働いてくださる娘さんに常々感謝しているケイン様は、せめてそのご家族に、ご自分ができる精一杯のお礼をすべく、私をお遣わしになりました。

どんな些細な事でも構いませんよ?

秘密は必ず守りますので、私に相談してみませんか?」


ある者は泣きながら、僅かな借金が半年で数倍に膨れ上がった事を話し出し、またある者は、娘の1人を見初めた商人が、その娘を差し出さなければ、肥料を売らないと言い出したと嘆く。


お金が無くて、息子や娘を学校に入れてやれない。


水不足で、新しい井戸が欲しい。


そういった要望に、俺は可能な限り応えていく。


法外な金利を取る金貸しからは、相談者が借りた金の証文をこっそり取り返し、本人の前で燃やした上で、金貸しの金庫から有り金全部を頂戴し、その中から、彼らがこれまでに支払った額の5倍の金額を渡してやる。


嫌がらせをする商人には、同じくその金庫から有り金全部を頂き、序でにその肥料とやらも全て頂戴して、相談者の家の側に建ててやった倉庫に、盗んだ肥料を全部入れてやる。


金が無くて子供を学校に入れられない家には、そこの学校の教材を全て用意して渡し、若しくは将来ケインの為に働くことを条件に、入学金と卒業までの資金を援助してやった。


井戸を欲した者の村には、新たに井戸を掘ってやる。


こんな事を繰り返す内、その家族から感謝の手紙を受け取ったメイド達は、益々ケインに忠誠を誓うようになる。


こちらが敢えて何も言わなくても、他の王子達の悪行や動向を、サリーに流してくれる。


まだ表立って行動を起こさないようにしてはいるが、城内でのケインの地位は、少しずつだが確実に上がっていた。

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