第33話

 ラウダで催される、月に1度の定例会。


今回からは宿ではなく、カレン達4人が共同購入した邸宅で行われる。


金貨160枚で購入したというだけあって、王都なのに1000坪の敷地を持ち、まるで貴族の屋敷のようである。


その1階、本来ならリビングとして使われる広い部屋は、大きなベッドが2つも持ち込まれ、汗で蒸れた若い女性達の甘い体臭と、その彼女達が放つ性臭とが混じり合い、4人の女性達が倒れるように眠っていることもあって、異様な空気で満たされていた。


「・・今月も何とか乗り切った。

只でさえ大変なのに、エミまで加わったから、もうさながら戦争のようだ」


一体何度、1人を倒す度に違う相手が向かって来る、終わりの見えない闘いに身を投じたことだろう。


1人では不利だと悟った相手は、徒党を組んで襲って来ることもあるので、一瞬たりとも気が抜けない。


12時間が、あっという間に過ぎた気がする。


モカに頼み事をするつもりだったが、見返りに何を求められるか分らないので、諦めてさっさと帰ることにする。


天井の隅で小さくなって姿を消していたティターニアを呼び、上級ダンジョンのボスから得た魔石を与えて労うと、アリサが待つ家へと転移した。



 「ここがダンジョン。

・・僕はまだレベル3ですが、本当に大丈夫でしょうか?」


「俺抜きでは死ぬが、俺が一緒にいれば平気だ。

たとえ死んでも生き返らせてやる」


「え!?

そんなことできるんですか!?」


「できるさ。

死体さえ残っていればな。

ただ、寿命までは伸ばせないから、自然死の場合は生き返らせてもまた暫くすると死んでしまうがな」


「・・・」


「母親のことを考えているのか?

さすがに骨だけになった死体を蘇生させるのは無理だと思う。

厖大ぼうだいな魔力が必要になるからな。

試しても良いが、只ではないから、白金貨1万枚くらい掛かるぞ?」


「・・遠慮しておきます」


あまり依存されても困るので、かなり吹っ掛けてやると、渋々諦める。


「今は過去ではなく未来を見て励め。

辛い過去を思い出すのは、ここ1番という時だけで良い」


「はい」


「では始めるぞ。

俺は回復と補助しかしないから、頑張って倒せ。

中級の1階層からだから、1人でも何とかなる」


護身用の短剣しか持っていないケインに、上級ダンジョンで適当に拾って来た長剣を渡して潜らせる。


最初の1時間は、ぎりぎりまで削った敵を倒させるだけだったが、徐々に様になってくる。


4時間経った頃、一旦城に戻り、学院の事務員に金を握らせて揃えた教材で勉強させる。


俺はその間、マリアの補助をするために、学院のダンジョンに潜っていた。


夜の7時。


いつもより1時間早くマリアと別れ、また城に。


屋台や食料品店で買い占めた物の一部を、自室で食事を取るケインと、その給仕名目で共に居るサリーのために出してやる。


その際、ケインが自習で躓いた箇所を記したメモを受け取り、【賢者】で教科書の内容を理解した俺が、翌日に模範解答を渡してやる。


ケインがサリーが運んで来た自分用の料理よりも、町の屋台で出されている惣菜に興味を持ったため、サリーが彼用に作られた料理を食べ、頬を緩めていた。


夕食が終わり、サリーがその片付けから戻ると、今度は2人を連れてダンジョンに潜る。


サリーのレベルは2(田舎でスライムを数匹倒した程度)だったので、彼女を後衛に下げ、重点的に補助しながら、2時間程、中級ダンジョンの2階層を攻略する。


それが終わると、以前に建物だけを買った不動産屋で再度購入した小さな家を、ダンジョン近くの森の中に出し、ケインとサリーだけで風呂を使わせる。


この時間だと、メイドのサリーは城の浴場を使えない。


使用人達専用の施設は、使える時間帯が厳格に定められているからだ。


時間節約のため、2人一緒に入らせるから、『念のために』と告げてサリーに避妊薬を渡したら、顔を真っ赤にしていた。


『1時間で出て来いよ?』


そう彼らに告げると、その間俺は、学院の3年分の教材に目を通す。


さっぱりした彼らが外に出て来たら、【ヒール】で1日の疲れを取ってやり、城の自室に送り届ける。


彼らの部屋には、念のため、姿を消させた八咫烏とピクシーを配置しておいた。


何事もなかったという報告を受けると、彼らを回収して家に帰る。


珈琲で一息吐いた後、今度はアリサと上級ダンジョンの攻略を進め、明け方の4時頃、やっとベッドに潜り込む。


『随分と肩入れしてるのね』


ダンジョン攻略中にケイン達の事をアリサに話した際、そう呆れられたが、勿論口出しはしてこない。


それどころか、『夜の営みは、当面の間、彼らの休日のみでも良いわよ?』とさえ言ってくれる。


だがしかし、ここでそれを素直に受け入れては、俺の男(利かん坊)がすたる。


1回だけで済ますが、その内容を静かに、そして濃密にして、アリサを満足させる。


その腕の中で次第に眠りに就く俺を、彼女はずっと優しく抱き締めてくれていた。



 「第4王子を冷遇する兄弟達と、それにくみする大臣、将軍や貴族達のリストはこれね。

中立の日和見勢は、敢えてそこに書いてないわ。

それからこっちが王子の味方」


ケイン達を鍛え始めてから約3週間後、頼んでいた調査結果をアリアさんから受け取る。


思っていた以上に敵が多い。


兄弟は3人共、大臣は8人中5人、将軍はアリアさんを除いた3人の内の2人。


貴族の方は、幸いにも公爵家には敵がいなかったが、侯爵や伯爵に8人、子爵と男爵に12人の敵がいる。


対して味方は、伯爵家1つと、田舎を治める子爵や男爵3人のみ。


ケインやサリーから渡されたリストには、敵として書かれていなかった人物が3人いる。


大方、彼らの前では良い顔をして、それとなく探りを入れてでもいるのだろう。


「ありがとうございます。

助かります」


「お礼は別のもので頂戴。

ここには、それを貰うために来てるのよ?」


アリアさんが微笑む。


そうなのだ。


俺達は今、例の高級宿に居る。


それから3時間、俺はひたすらお礼に励んだ。



 「これ、今月分の利益な。

ケインも【アイテムボックス】が使えるが、必要ないだろうから、全部サリーに渡しておく」


この1か月、中級ダンジョンに潜って彼らが稼いだ銀貨160枚を、サリーに差し出す。


まだ14階層までしか進んでないから、それなりの数を倒しても、額としてはこんなものだ。


「本当に全部頂いてしまって良いのですか?」


俺からそう言われたサリーが、遠慮して王子の顔を見る。


「ああ、構わないよ。

こんな境遇でも、月に銀貨30枚の小遣いが支給される。

今まで使い道がなくて貯まる一方だったから、君が全て受け取ってくれ」


「・・・」


冷や飯食いの王子とはいえ、まさかそんな額しか貰っていなかったとは。


俺でさえ、月に金貨5枚を貰っていたのに。


仕方ない。


もっと稼げるようになったら、彼にも半分渡してやろう。


その内、サリーとのデート代も必要になってくるだろうしな。


この1か月、食事が大幅に改善されたことで、サリーの肌艶はかなり良くなっている。


髪や爪にも潤いが見られ、元からの容姿のせいもあって、大分色気が増してきた。


夜間のダンジョン攻略後、彼ら2人だけで入る風呂での出来事に、俺は全く干渉しない。


忙しいから1時間という制限は設けるが、後は知らんぷりして本を読んでいる。


サリーは既に18歳。


たとえケインと何をしていようが、やる事(訓練や学習)さえやっていれば、俺に文句などない。


今夜もこれから3人でダンジョンに潜る。


以前のカレン達や、今のマリア程ではないにせよ、この2人も、確実に成長していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る