第29話
俺は今、ゼルダの町に居た。
あの後、結局夕食までご馳走になり、お風呂すら勧められたがそれはお断りして家に帰り、アリサとダンジョンに潜った後、深夜になってから【飛行】を使ってこの町にやって来た。
ここの領主である侯爵の屋敷は一目で分り、【認識不能】を用いながら宝物庫を探し当てる。
大きな町を治める侯爵だけあって、そこには金が唸っており、白金貨400枚と、金貨がぎっしり詰まった麻袋を12個頂いた。
他にも宝剣や装飾品まで全て頂戴して、残したのは、大して効果のない装備品だけ。
今回は犯行声明を出すこともなく、さっさと退出した。
要らない宝剣の類は、後で攻略した上級ダンジョンの最深部にでも放り投げておくつもりだ。
これで恐らく、あの馬鹿は数年間、贅沢すらできないだろう。
親も同類らしいから、暫く社交界で肩身の狭い思いをすれば良い。
これからまた、色々と忙しくなる。
家に帰った後はアリサといちゃつきもせず、その温もりだけを感じて眠りに就いた。
「ねえアーク、これからも学院ではずっと一緒に昼食を取ってくれない?」
お昼休みになると直ぐ、教室まで俺を迎えに来たマリアは、
昨日、アリアさんと3人で秘密の話をしていた時、マリアはほとんど口を挿まなかった。
母親が、彼女との結婚がどうとかいう話までしていたのに、俯いて顔を赤くしていただけだった。
夕食時は、当たり前のように俺の隣に座ってたし、俺が勧められた入浴を断ったのも、何だか彼女が一緒に入ってきそうな気がしたからだ。
これまで、彼女の中では母親の強さは絶対で、彼女自身もその強さに憧れていたような
だから、アリアさんを負かした俺に、似たような感情を抱いてもおかしくない。
俺としても、彼女は凄くかわいいから、好意を向けられることに文句などあるはずもない。
固より学院で共に過ごす存在を欲していたのだから、寧ろちょうど良かった。
「同じクラスに同性の友人ができるかもしれないだろ。
偶には別に取った方が良いんじゃないか?」
「その時は、その
「俺と一緒だと、相手が嫌がるかもしれないだろ」
「私はそんな娘と友達になんかならないわ」
「それよりさ、実技の授業はどうだった?
誰か目星い奴は居た?」
「全然駄目ね。
魔法の授業はまだこれからだけど、物理では私があそこで1番かな」
「じゃあ当初の予定通り、ダンジョンには2人だけで入ろう。
いつから始める?」
「勿論今日からよ。
楽しみで仕方無いわ」
「アリアさんとは潜らないのか?」
「お母様は仕事で忙しいことが多いから。
父が亡くなってからは、領地の経営もやらざるを得なくて、本当に大変だったの。
だからその負担がなくなって、寧ろ良かったのかも」
「この学院のダンジョンは、やはり初級、中級、上級の3つか?」
「いいえ。
初級はなくて、中級が2つと上級が2つよ」
「へえ。
なら学生は、皆それなりのレベルがあるんだな?」
「残念ながら、そうでもないのよね。
ここ最近は、学問を究めて研究職に就こうとする人も多いみたい。
軍に入っても、そんなに給料が良くないみたいなの」
「ああ、国王がケチなんだっけ」
俺が沢山頂いたしな。
「フフッ、大きな声で言ったら駄目」
「マリアは卒業後は何をしたいんだ?」
「これまでは、軍に入ってお母様の下で働こうと考えていたけれど、お母様に対する国の仕打ちを見て、軍には興味がなくなったわ。
あの戦争で罰せられた人物は、お母様唯一人。
幾ら総司令官だったとしても、あの程度の事で貴族から領地まで取り上げるなんて、酷過ぎる。
実際に戦って負けた訳でもないのに・・。
他にも参戦していた将軍はいたのに、お母様だけが責めを受けた。
・・だから、私は国に関する仕事には就かない。
爵位しか柵がないんだし、社交界に興味なんてないから、自由に生きていくわ。
誰かさんと一緒なら、冒険者なんて良いかもね」
俺の顔を見ながら微笑む。
「とりあえず、平日はダンジョンに入って、君のレベルを上げていこう。
そうすれば、良い小遣い稼ぎにもなるし、一石二鳥だ」
「休日は一緒に過ごせないの?」
「月に1、2度なら構わないが、俺にも色々と用事があるんだ」
「・・女絡みなのね。
恋人1人だけではないんでしょう?」
「いや、恋人は1人だよ?
・・ただ、友人が複数いるんだ」
「正妻と側室という訳ね。
その歳で良いご身分だこと。
・・月に1、2度でも構わないから、私にも付き合ってね」
風に吹かれた彼女のポニーテールが、俺の頬をペシペシと叩いていた。
「先ずは中級の15階層辺りからにしよう。
マリアのレベルならそれくらいだな」
放課後、教職員室で彼女とのパーティーを正式に申請した後、ダンジョンに入る許可を得て、同意書を提出し、学院内にあるダンジョンまでやって来る。
「そこまで行くのにも結構時間が掛かるわね。
閉門まであと3時間ちょっとしかないから、もしかしたら辿り着けないかも」
「マリアは門限があるのか?」
「今までは18時だったけど、お母様が、あなたと一緒なら気にしなくても良いって」
「因みにさ、これまでに野宿とかの経験はあるの?」
「ないわ。
ダンジョンに入っても、夕方には出ていたから」
「・・あのさ、ちょっと裏技を使うから、アリアさん以外には内緒にしてくれないか?」
「良いけど、どんな物なの?」
「【転移】」
「!!!
・・あなたさ、自分で国を興せるんじゃない?」
「そんな事しても面倒なだけじゃないか。
俺はかわいい娘が側にいれば、それだけで良いよ」
「私はちゃんとその内の1人に入ってる?」
「勿論。
そうじゃなきゃパーティーを組んだりしない」
「フフッ、さっさと攻略しましょ」
初日にも拘らず、異様にご機嫌だったマリアのせいで、この日は18階層まで進んでしまった。
「・・君は確かアークと言ったな。
今日の放課後、私の所に顔を出してくれ。
少し試したい事がある」
実技の授業が終わった後、担当の女性教師からそう言われた。
仕方無く、マリアを待たせて会いに行くと、訓練場に連れて行かれて、模擬戦をさせられる。
「私は本気で戦うが、君なら多分大丈夫だろう。
私に勝てば、実技の授業は免除してやる。
意味ないからな」
「それは助かります。
どうせなら、ダンジョンに入る際の申請書も不要にしてくれませんか?
毎日入るつもりなので面倒なんです」
「ほう、毎日か。
今時の学生にしては感心な奴だ。
分った。
それも私がどうにかしよう」
「ありがとうございます。
人を待たせているので、申し訳ないですが直ぐに終わらせます。
胴を打ちますよ?」
「フッ、予告とは恐れ入る」
教師が構えを取った瞬間、俺は彼女には見えない速度で右の胴を払う。
「ぐはっ」
木剣なのに、膝を着いた彼女の脇腹が裂け、血が滴っている。
俺は直ぐに教師に【ヒール】を施し、血で汚れた衣服と床を【浄化】で奇麗にしてやる。
「大丈夫ですか?」
「・・私はこれでもレベル78なんだがね。
君は一体何者なんだい?」
立ち上がった彼女が、呆れたように尋ねてくる。
「詳しくは言えないんですが、学院生活の好きな、ダンジョンマニアですね。
今年はマリアと沢山潜って、彼女のレベル上げをするので、申請書の件はどうか宜しくお願いします」
「分った。
約束だから、月に1度、同意書を提出するだけで入り放題にしてやるよ。
実技の授業は、私が担当する限り、全く出なくても最高の成績を付けてやる」
「ありがとうございます。
・・あの、これ、服の代金です。
破れてしまったので弁償します」
金貨を2枚差し出す。
「安い服だから気にしなくて良いのに。
銀貨5枚で釣りがくるくらいだぞ」
「色々と便宜を図っていただくお礼も入ってます。
実力で成し得たものだから、賄賂にはなりませんよね?」
「はは、そうだな。
じゃあ遠慮なく。
今夜は美味い酒でも飲ませて貰うよ」
これで大分時間に余裕ができた。
午前の座学は教科書や本を読むつもりだし、午後は放課後まで何をしよう?
「今日ね、同じクラスの生徒達からパーティーに誘われたんだけど、断っちゃった。
貴族だけで作りたいみたいなことを言われたし、私は既にあなたと組んでるからね」
魔物を倒す合間に、マリアと色々な話をする。
俺は雑用兼回復係で戦闘には加わらないし、暇潰しにはちょうど良い。
「それからね、今日の午後辺りから、あの嫌な侯爵の息子に元気がないの。
お昼休みに呼び出されて、実家からの連絡を受けたようだけど、それ以降、真っ青な顔をしてるのよね。
何だか知らないけど、少し気分が晴れたわ」
まあ、それはそうだろうな。
「昨日の夜、家に帰ってからお母様に、『これからは、毎月のお小遣いは要りません』と申し出たら、目を丸くしていたわ。
ここにあなたと潜るだけでも、十分な額になるしね。
でも、本当にあなたの分は要らないの?
別な何かでお返ししようか?
私にできる事なら何でも良いわよ?」
「良い歳をした女性が、『何でも良い』なんて言っちゃ駄目だ。
特に相手が男なら、大体は性的な事を要求されるぞ」
「あなたにしか言わない言葉だし、私はそれでも良いわよ?」
「俺は婿には入らないし、子供を作るつもりもないから、貴族の跡取りとそういう関係にはなれないな」
「お母様は別にそれでも良いって。
領地がない以上、家の存続には拘らないそうよ」
「・・・。
ほら、魔物が2体いるぞ。
しっかり倒してこい」
「もう、ごまかして。
いつか物にしてやるんだから」
言ってる中身は品に欠けるのに、綺麗な娘が言うと、かわいく聞こえるのは何故だろうな。
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