第21話

 「ニナさん達って、一体どんな訓練をしてるんですか?」


「モカさん、この1、2週間でまるで別人のようだよね」


「Sクラスの人達、カレンさん以外はまるで相手にならないじゃない」


「カレンさん、既に先生達よりずっと強いもんね」


「こんなことならもっと早くアプローチしておけば良かった。

俺、ニナさん狙ってたのに・・」


「俺も。

かわいいし、スタイルも凄く良いもんな」


「俺はモカさんだった。

いつも本ばかり読んでるから、暫く平気だと思ってたのに・・」


「あの2人とお友達になりたいけど、入り込む隙が無いのよね」


「あーあ、誰だよ、あんないい加減な噂流した奴?

あいつと仲良くなってれば、俺だって強くなれたのに・・」


「私もあのパーティーに入りたかった。

なのに、あの噂のせいで・・」



 私達が郊外ダンジョンに潜り始めて1か月が経過し、そのパーティーは、国内にある中級ダンジョンの8つを完全攻略した。


1回の攻略で個人が得られる報酬も毎回金貨2、3枚になり、平日に学園のダンジョンで稼ぐ分も含めると、親に内緒で貯め続けている資金は、既に金貨40枚以上になる。


寮で一人暮らしのカレンさんは、学費も自分で稼ぐ必要があったのだが、『もう10年くらいなら遊んで暮らせる』と笑っていた。


アークさんは相変わらず、全く利益を取らない。


『過去に荒稼ぎしたから、レアな装備や宝石なんかも腐るほど持ってるんだ』と言って、私達がプレゼントするボス戦の魔石以外は、何も受け取らない。


鍛えて貰って、報酬まで余計に頂いて、せめてあちらの方だけでもと挑んだ2回目の逢瀬でも、彼を楽しませるどころか、モカさんと2人で暫く動けないほどに疲れ果ててしまった。


あの時、彼を全身で抱き締める時が、今は1番幸せかもしれない。


カレンさんは、私達の仲を薄々は勘付いているはずだが、まだ自分の中で決心が付かないのか、その話題には触れてこない。


ただ、以前はあまり多くはなかった彼女なりのスキンシップは明らかに増している。


彼を抱き締めたり、頬にキスをするのが普通になってきている。


きっかけさえあれば、直ぐに一線を超えてくるだろう。



 「お前らも大分強くなったしな、少し相談がある」


上級ダンジョンの7階層を攻略している最中に、手頃な場所を見つけて休憩を入れながら、3人に話しかける。


この時点で、カレンはレベル85、ニナは76、モカは68あった。


モカの68でさえ、学院の在学生としては歴代最高レベルなのに、カレンに至っては、(俺とアリサを除けば)既にこの国で5本の指に入る実力者だ。


今いる7階層だって、これまで誰も進んだ事のない未知の階層なのだ。


出て来る魔物は総じてレベル80以上で、俺が回復と削り役を担当しなければ、ニナやモカではまだ無理があった。


「あなたが私達のパーティーから抜けたいというお話ならお断り」


カレンが素っ気なくそう口にする。


「絶対嫌です」


「放しません」


ニナとモカが俺を睨んでくる。


「そうは言ってない。

ただ週に2度くらい、別行動をしようと考えてる。

週末のダンジョンツアーはこのメンバーで今後も続けるが、平日の学院内のダンジョン探索は、週に2度、他にメンバーを組んで行おうと思う」


「何でいきなり?

私達に飽きた?」


カレンが何かを決断するかのように、不安げな表情を浮かべながらも、真剣な顔をして尋ねてくる。


「お前達と他の生徒達との差が開き過ぎたからな。

3年のSクラスの奴らでさえ、まだレベル40を超えた者は1人もいない。

こんな状況では先が思いやられる。

なので、以前理事長から受け取ったリストに名があった者に尋ねてみて、まだ希望する者がいれば、6名の臨時パーティーを作ろうかと考えてる。

たとえ週2回でも、中級の2、30階層でみっちり鍛えれば、それなりにはなるだろう」


「・・そういう理由なら仕方がないわね」


「上級の5階層辺りなら、もうお前達3人だけでも大丈夫だろう。

週末に休みがない分、そこを休息に充てても良い」


「新しく作るパーティーでも、女子しか入れないんでしょ?」


「当然だ。

俺は男に用はない。

それに、俺が鍛えた女子達が、自分達で作るパーティーに男子を加えるのなら、間接的には俺が面倒見てやったのと同じ事になる」


「・・週2だけだからね?

それ以上は駄目よ?」


「分ってるよ」



 結果的には、声をかけた順にメンバーが決まっていき、1年2人、2年3人、3年1人の6人パーティーが新たに出来上がった。


彼女らのステータスや、俺の好みで選んだのは言うまでもない。


口止めはしたが、【転移】が知れ渡るのはある程度覚悟して、この6名の平均レベルより少し上、中級の17階層から始める。


前衛の3人を頻繁に回復してやりながら、高ダメージを受けそうな敵の攻撃は妨害して、俺の側にいる後衛にはがんがん魔法を使わせる。


MPが切れれば回復薬を与え、倒した魔物からは魔石や素材を回収する。


勿論、そこで得た利益は全て彼女達に還元した。


実に忙しいが、その甲斐あって1日で1階層ずつ攻略でき、1週で2階層進むことを可能にしていた。


彼女達は皆自宅から学院に通っていたので、夕食や入浴の時間に制限はなく、俺が転移で送れば、午後8時まで攻略に使えるせいもあっただろう。


1か月もすると中級の26階層まで進めて、6人全員のレベルが30を超え、1番高い3年生は36になる。


彼女らは、俺が指導できない日はこのメンバーでパーティーを組み、自主的に訓練し始めた。



 週末にカレン達と潜る郊外ダンジョンは、中級が残り2つになり、その内の1つを攻略すると告げた際、カレンが俺に耳打ちをしてきた。


『攻略の日はさ、1日中予定を空けておいてくれない?』


特に予定がなかったので了承し、そのダンジョンを完全制覇すると、ニナとモカを送った後で、とある酒場に来るように伝えられた。


「寮の門限は大丈夫なのか?」


「ええ。

今日は友人の家に泊まる許可を得てきたから」


指定された酒場に行くと、彼女が1人で静かにグラスを傾けている。


「カレンと2人だけで酒を飲むなんて初めてじゃないか?

一体どういう風の吹き回しだ?」


「私の中で一区切り付いたからね。

・・今日攻略したダンジョンは、以前はとある男爵領に属していて、数年前のスタンピードが原因で、その男爵家は取り潰しになった。

唯一の生き残りである娘は、僅かなお金を貰って王都に出て来て、以来ずっと1人で生きてきたの」


何かを懐かしむかのような、遠い眼差し。


だがそこには暗い影が無い。


「国内1と称される学院に入っても、周囲に居たのはぬるま湯に浸かる、牙を持たない者ばかり。

失望していた娘は、やがて1人の男子に出会う。

少しエッチだけど、その強さだけは飛び抜けていて、善人と呼ぶには微妙だけど、優しい心は確かに存在する。

幸運にも、そんな彼と行動を共にできた娘は、暫くすると恋に落ちた。

その時には既に他の娘とも仲良くしていたけれど、それは別にどうでも良かった。

元々1人で独占できる相手じゃないからね。

今日、心の解放を妨げていた最後の障害が消滅し、最早この気持ちが抑えきれなくなってるの」


カレンが熱い瞳で俺を見る。


「私、あなたが好きよ、アーク。

・・抱いて欲しいの」


「カレンなら俺は拒まないが、本当に良いのか?

責任を取るとは言えないぜ?」


「避妊薬は飲んだし、私はあなたが欲しい。

ニナとモカとは既に済んでるみたいだし、今夜は私の番。

朝まで一緒に居てね」


「了解」


・・今はあの宿、空きがあったよな。


軽く飲んだ後、定宿の別部屋にカレンを案内する。


「何か緊張するね」


服を脱ぎながら、彼女が照れ臭そうに笑う。


「・・私、何も知らないから、最初は全部あなたにお任せしても良い?」


手を取り合って浴室に向かう際、カレンが俺の身体をちらちら見ながらそう言ってくる。


「ああ」


何だか長い夜になりそうな予感がした。

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