第20話

 「何かさ、あんた達、妙に仲良くない?」


モカが【月蝕】を使えるようになったことで、俺達は上級ダンジョンの3階層に進んだ。


この階層に学生が足を踏み入れたのは、実に数十年振りだ。


それさえも、入り口付近で直ぐ引き返したらしい。


出て来る魔物のレベルは総じて60以上。


現在の3年Sクラスパーティーのトップが、まだ中級の35階層にすら到達していないことを考えると、これは異様な速度と言える。


【転移】や【飛行】が使えない分、移動で時間が掛かるのもあるだろうが、ダンジョン内で1日や2日寝泊まりすれば楽に到達できるだけに、まだまだ彼らは甘いと言わざるを得ない。


最近の学生は、ダンジョン内で寝泊まりするのを嫌がるそうだ。


その気持ちが分らない訳ではないが、卒業して冒険者や騎士になった時、一体どうするつもりなんだろう?


『野宿の仕方が分りません』なんて、他で通用すると思ってるのだろうか?


俺とだけならともかく、ニナとモカの2人は、明らかにこれまで以上に親密になっている。


俺が彼女らの相手をした際、発情した2人は、俺を介して互いに色々やっていたからかもしれない。


勿論ダンジョン内ではそういう素振りを見せないが、戦闘中に互いにアイコンタクトを取って連携するなど、随分と息が合っていた。


「同じクラスですからね。

私は元々、モカさんとお友達になりたかったんです」


「ニナさんは、私のことを凄くよく理解してくれるから・・」


「・・何かきっかけでもあったの?」


「別にないですよ?」


「ありません」


「嘘を吐いているのは分るんだけど、それが何かまでは分らない。

・・まあ良いわ。

ちゃんと戦ってくれるなら問題ないし」


「3人に相談があるから、あいつらを倒したらちょっと休もう」


話題を変える意味も含めて、俺は少し先にいる2体の魔物を見ながら、皆にそう告げる。


「了解」


「分りました」


カレンとニナが魔法を放ち、モカが【月蝕】を用いて敵の隙を窺う。


レベル61の魔物を2分もしないで倒すと、4人で隅の壁に寄った。


「3人の中で、週末に必ず用事の有る人は居るか?」


「私はどちらか1日はギルドで日帰りの依頼を受けてるけど、どうしてもやらなきゃいけない訳じゃない。

アークのお陰で卒業までの資金にはかなり余裕ができたから、暇と言えば暇よ?」


「私も両親からアークさんを優先するように言われてます」


「私も大丈夫です」


「ならさ、今後は週末を丸々使って、この国のダンジョンを色々と探索して回らないか?

できるだけ多くのダンジョンに潜って、魔物を狩りまくる。

それで得た魔石や素材は、全部3人で分けて良いからさ」


「それはこちらからお願いしたいくらいだわ。

【転移】と【飛行】があれば、国内の何処でも行けるものね」


「ただ、【飛行】をこの人数で使うと、皆にしっかりとしがみ付いて貰う必要がある。

カレンはそれで平気か?」


「(アークなら)問題ないわ」


「じゃあ今週末から毎週、ダンジョンツアーな。

朝早く出て、夕方遅くに帰って来るからそのつもりでいてくれ」


「分った。

可能なら、事前に何処のダンジョンに潜るか教えてくれる?

ギルドで依頼を見て、その場所に関する物があれば、それを受けてくるから。

そうすれば一石二鳥でしょ?」


「了解。

俺の方でもダンジョンの詳しい情報を仕入れとく」


「アークさん、魔物です」


ニナが向こうからやって来る3体の敵に気付いて知らせてくる。


「休憩終了。

またがんがんレベル上げするぞ」


「了解」


「「はい」」



 「先ずはここからだ。

ダンジョンレベルは中級だが、未だ最深部までは攻略されていない。

37階層までは確認済みらしいが、それから先は不明だ。

大して人気がないダンジョンみたいだから、魔物の数が多い可能性もある。

途中で2度休憩を挟むが、それ以外は多分ぶっ通しで戦うからそのつもりで」


パーティーメンバーによる、初めての郊外ダンジョン攻略。


ギルドの受付で尋ねてみたら、案の定、この国で現在確認されている全てのダンジョンの位置を記した地図が存在した。


ただ、使い様によっては軍事機密にもなり得るため、Aランク以上の冒険者にしか販売されず、購入者の名は控えられ、理由の如何を問わず1度しか買えない上、値段も金貨1枚と高額だった。


既にAランクだった俺は、勿論それを購入し、王都から近い順に攻略していくことにして、序でに今日行く場所に関する依頼も受けてきた。


道中は、帰りは【転移】で帰れるが、行った事のない場所は【飛行】で行くしかない上、俺はかなり飛ばすので、装備を脱いだ女性3人に必死にしがみ付かれ、中々役得だった。


「フフッ、楽しみね。

お宝があると良いけど」


装備を付け終えたカレンが、わくわくしながらそう話す。


「・・今更で悪いんだが、皆に言っておく事がある」


「何よ?」


「俺の秘密に関する事だ。

半日で深いダンジョンを攻略する以上、効率を図らないと途中までしか行けない。

なので奥の手を使うが、これは他の者には絶対に秘密にしてくれ」


「・・【転移】だけでも非常識なのに、まだそんなものがあるの?」


「【転移】どころではないんだ。

使い方次第では、国さえ滅ぼせるからな」


それを聴いた瞬間、カレンは目を見開き、ニナは両手で口元を押さえ、モカは何故か嬉しそうに微笑んだ。


「約束して欲しい。

もし誰かに話したら、俺は二度と3人の前に姿を見せない」


「「「!!!」」」


「それくらい、他人にこれが俺の仕業だと分るのは困るんだ」


「・・分った。

絶対に口外しないから」


「私もです」


「私も」


3人のここまで真剣な表情は見た事がない。


俺はそれに満足して、彼らを呼び出す。


「開け我が【魔物図鑑】よ。

我が目、我が手足となり、探索を手助けせよ。

スライム。

八咫烏。

ピクシー。

リリム」


俺の手元に突如現れた漆黒の書物が光り輝き、風に吹かれたようにそのページが捲れる。


ページが固定される度、そこから1体の魔物が出現し、ダンジョンの中へと入って行く。


その様を、女性3人は呆然と眺めていた。


「・・説明を求めるのが野暮だというのは理解できるわ」


暫くして、カレンがやっとそれだけを口にした。


「助かる」


「・・アークさん、色々と凄過ぎです」


ニナはショックからまだ完全には立ち直っていない。


「・・最高の主人だわ。

身体が火照ってきちゃう」


モカは何かを呟いている。


「そろそろ中に入ろうぜ。

眷族達のお陰で、もう10階層までは掃除が済んだ。

3人は35階層辺りから戦えば良いさ。

心配しなくても、魔石や素材、お宝は、彼らが回収してくれてるから」


「・・運が良かったわ。

私は本当に幸運だった」


それだけを言うと、カレンが中に入って行く。


その後にニナが続き、モカはそれを確認すると、俺に熱烈なキスをしてから更に後に続いた。


「意外と順応性が高い奴らだ。

もっと驚くかと思ったのだが。

・・これなら長く付き合えそうだな」


口許だけで喜びを表すと、俺も彼女達の後に続いた。



 「お疲れさん。

家まで遠い奴は(転移で)送るから、ゆっくり休んでくれ。

明日はまた別の場所に潜るからな」


攻略を終え、ギルドに帰って来た俺達は、今日分の魔石や素材を換金し、依頼の報酬を受け取って外に出る。


これまで情報が不完全であったダンジョンの、その最深部までの情報まで売れたので、俺が受け取りを辞退したこともあり、彼女達3人の利益は、今日だけで1人当たり金貨3枚ほどになった。


44階層にいたボスは、レベル58のリザードソルジャーで、3人の前に呆気なく沈んだ。


不人気だけあって、そこに居た魔物達は数が多いだけで、大した素材も得られなかったのだが、ボスとその取り巻きだけは中々の魔石を残した。


皆が今回のお礼にと、その魔石をプレゼントしてくれたので、俺はそれをピクシーとリリム、八咫烏に与えて、彼女らを労った。


スライムは、魔石と素材部分を俺に吐き出しても、魔物達の死骸そのものを吸収できるので、それだけで十分なのだ。


「アークが来てから、毎日が楽しいの。

明日も宜しくね」


側に寄って来たカレンがそう言うと、俺の頬にキスをして走り去って行く。


ニナを家の側まで送ると、黙って俺の首に両腕を回し、深く唇を重ねてくる。


最後に【飛行】で送り届けたモカは、2人に架かった唾液の橋を嘗め取ると、『来月のアレ、楽しみに待ってますね』と言い残し、静かに家の中に入って行った。


夜のとばりが下りていく中、俺はアリサへの土産を買って、宿へと戻る。


今日はこれから、彼女をしっかりと満足させないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る