第15話
「ご無沙汰ね。
休みの間は何してたの?」
学院が始まり、早速カレンに絡まれる。
「ギルドの依頼を受けたり、彼女と仲良くしたりしていた」
「・・エッチ。
私はちゃんとダンジョンに潜って、魔法の練習してたわよ?
今日からは一緒に入れるんでしょ?」
朝の教室でそんなことを話していると、同じクラスの奴にも絡まれる。
「おいカレン、お前本当にこいつと正式にパーティーを組んだのか?
俺達が誘った時は断ったのに、どうしてこいつなんだよ?
魔法は凄いのかもしれないが、所詮2人じゃ限度があるだろ?」
男子3人と女子2人の集団が、わざわざ俺の席までやって来て、そう文句をたれてくる。
「戦闘は人数じゃないわ。
圧倒的な実力があれば、並みの人間が何人いたところで相手にすらならないのよ」
おお、カレンさん煽りますな。
「Sクラスの俺達が並みだって言うのか!?」
「『井の中の蛙大海を知らず』って意味分る?
狭い学院内の、それも1年生限定でのSクラスに、一体どれだけの価値があるの?
あなた達、レベル幾つよ?」
「それは・・」
「じゃあその彼にはそれだけの力があるの?
彼のレベルは幾つなのよ?」
男子が言い
「知らないわ。
知る必要がないくらい、彼は強いから」
「何それ!
馬鹿にしてるの!?」
「・・お前らさ、俺に喧嘩売ってるの分ってる?」
いい加減むかついてきたので、口を挿む。
「呼びもしないのに人の席までやって来て、勝手に会話に割り込んだ挙句、人をそこらの凡人扱いしやがって。
俺のレベルが知りたい?
良いぜ、言葉ではなく実戦で教えてやるよ?
今日の実技の授業でな。
勿論、雑魚5人でかかってきて良いぜ?
所詮は俺1人だからさ?」
駄犬の如く吠える女にそう言ってやる。
「な・・」
「あんたが攻撃魔法を使わないなら良いわよ?」
黙ってしまった女に代わり、もう1人の女が口を挿んでくる。
「それはお互いに使わないという意味なのか?」
「いいえ、あんただけ。
そこまで自信があるなら、そのくらい平気でしょ?」
人を馬鹿にするように笑ってくる。
「・・お前らさ、ここの学費はもう全額払い込んだの?」
「はあ?
・・1括払いで払ってるわよ」
「他の奴らもか?」
見回すと、訳が分らないという顔をしながらも頷いてくる。
「なあカレン、ここの学費ってさ、途中で退学しても、その分を払い戻してくれるのか?」
「いいえ。
一切戻ってこないわ」
彼女には、俺が考えている事が分ったらしい。
それを確認し、俺は笑顔でさっきの女に返事をしてやる。
「その条件で良いぜ。
5人で不安なら、幾らでも助っ人を連れてこい。
但し、年間の学費を既に納めている奴だけな。
・・それから、当然結果については自己責任だ。
片腕が無くなろうが、両足を失おうが文句は受け付けない。
さすがに殺しはしないから安心しろ」
「・・本気で言ってるの?」
「当たり前だろ。
こちらに非がある中傷なら多少は我慢してやるが、単なる言いがかりには断固とした処置を取る。
煩いハエを追い払わないと、知人と満足に会話もできないからな」
「「「!!」」」
「先生もそれで良いですよね?」
扉の陰に隠れて聴いていた彼に、そう告げる。
「・・私としては、もう少し穏便に済ませて欲しいとしか言えないが」
観念したように、扉を開けて中に入って来る。
「大丈夫です。
雑魚相手に大した武器は使いません。
木の枝1本で十分です」
この発言が決め手となり、俺は午後の実技で初めて生徒と対戦することになった。
「何か場所がいつもと違うんですけど?」
大きな広場を囲むように観客席が連なり、まるで古代のコロシアムのようだ。
「この件を耳になさった理事長が、『ちょうど良い機会ですね』と仰られて、急遽全学年の授業が変更になり、この試合を観戦することになった」
「・・さすが理事長、中々のやり手ですね。
あれは1度目にしないと理解すら難しいですからね」
一緒に昼食を取っていたカレンが、当たり前のように俺に付いて来て、そう口にする。
「何でカレンがここに居るの?」
「私はアークの正式なパーティーメンバーだもの、当然でしょ?
セコンド代わりよ」
「多分、見ていてあまり気持ちの良いものではないぞ?」
「戦いを続ける限り、何れは目にする光景だもの。
お弁当も半分残してあるから大丈夫」
「頼もしいねえ。
もう少し早く会ってたら、惚れてたかもな」
「・・別に(今でも)良いけど?」
「さて、それでは食後の運動といきますか」
「試合を始める前に言っておく。
もうこれ以上戦えないと思ったら、迷わず土下座しろ。
そうしない限り、約束通り、殺しはしないが半身不随くらいにはするぞ?」
「それはこちらの台詞なんだけど。
あんた、本当にこの人数に勝てると思ってるの?
Sクラス、Aクラス、Bクラスで総勢20人いるのよ?」
「言っただろ。
雑魚が何人集まったところで何も変わらん。
ちゃんと木の枝で相手してやるよ」
「・・殺してやる」
「先生、ちゃんと事前に同意書を書いて貰ってありますよね?」
「ああ。
全員提出済みだ。
年間の学費を納めてあるのも確認してある」
「良かった。
学院に”経済的な”損失を出す訳にはいきませんからね」
わざわざそこを強調してやると、相手の視線が更にきつくなった。
「そろそろ始めましょう」
「ではお互いに、スタートラインまで移動しなさい」
肩を叩きながら『頑張って』と微笑むカレンを尻目に、俺はそこまでゆっくりと移動する。
その途中で、観客席にいる理事長と視線が合う。
分ってます。
しっかりと掃除してきますよ。
遊び半分にざわついていた観客席からは、開始早々に悲鳴が上がる。
全く動かない俺に対し、20人いる相手側から怒涛の如く魔法が飛んで来る。
だがそのどれもが、俺に当たった瞬間に霧散する。
「!!!」
「おい、嘘だろ!?」
「信じられない」
楽勝だと思ってニヤニヤしながら撃ってきた奴らから、余裕の笑みが消える。
「どんどん撃て!
何らかの防御魔法を使っているにしろ、その内MPが切れるはずだ!」
5分経ち、相手側のMPがそろそろ尽きかけてきた頃、俺はゆっくりと歩き出した。
「最初にハンデまでくれてやったんだ、楽しませてくれよ?」
先ずはBクラスの生徒から始末する。
「つくづく馬鹿な奴だ。
あの魔法を見て、
「五月蠅い!
あんたのせいで、とんだ散財だったのよ。
お陰で親から、暫くバイトするように言われたんだか・・らっ!」
喋りながら剣で攻撃してきた。
「お前は学院に要らないな」
攻撃を避けることなく、木の枝で彼女の両腕を切り落とす。
「ぎゃーっ!」
ぼとりと落ちた両腕を見つめ、血が噴き出す腕を押さえることもできず、ただ
「そのままだと死んじまうな。
・・仕方がない」
【ヒール】で出血だけは止めてやった。
他にも1名いたBクラスの生徒には、最早言葉さえかけることなく片腕を切り落とす。
次は4名いるAクラスの連中だ。
「俺はお前達に何かした覚えはないんだが?」
「お前をどうにかすれば、俺達もSクラスに入れるかもしれないんだ」
「パーティーに加えてくれるって、Sの人に言われたんだ」
「なるほど。
だが俺は、他人を蹴落とすよりも、自力で這い上がる方のが好みだな」
拙い剣で攻撃を繰り返す馬鹿どもの、片腕や片足を切り落とす。
その度にぎゃーぎゃー騒いで煩いが、傷が1か所なら暫く死にはしないだろう。
「お待たせ。
やっと君達の番だ。
せいぜい頑張ってくれたまえ」
Sクラス14名の生徒達を前に、にっこりと笑ってやる。
「・・一体何なのあんた?
どうして魔法が効かないの?
それに、さっきから剣すら避けてないのに・・」
魔法だけでなく、物理攻撃さえも効かない俺を、まるで化け物を見るような視線で見る女。
「さあ、何でなんだろうな?
レベルが違い過ぎるからじゃないか?」
そこで一転して、俺は真面目な表情を取り戻した。
「これから始まるのは、虐殺の一歩手前でしかない見世物だ。
良いか、忘れるなよ?
戦闘を終わらせることができる唯一の手段は、土下座だぞ?」
武器を構えるクラスメイトに、俺は遠慮なく木の枝を振るう。
俺を囲んで、必死に剣や槍で攻撃を繰り返す相手を1人ずつ、確実に再起不能に追い込んでいく。
手首から先を切り落とし、片腕を潰し、両足を切断する。
両足を切り落とすと土下座できないじゃんと途中で気付いたが、笑ってごまかす。
死なないように止血だけした後、崩れ落ちる相手の顔面を蹴り上げる。
それを順にこなしていき、最初に言いがかりをつけてきた女の番になる。
「ひっ!」
両腕から切り落とす。
「あががっ・・や、止めて」
片足を切断する。
「ぎゃっ、や、やめ・・」
「戦闘を終わらせる合図は何だと教えた?
・・と言っても既にできないな」
止血だけして蹴り飛ばす。
「やっとお前か。
少し飽きてきたぞ」
先程から執拗に俺に攻撃を繰り返している女に振り向く。
「この悪魔!
死ね、死ね、死ねーっ!」
剣を持つ手首を切り落とす。
盾を構える腕を切断する。
太股の付け根を切り落とし、崩れ落ちそうになる相手の腹を勢いよく蹴り上げる。
血を吹き出しながら宙を舞う女に【ヒール】を掛け続けながら、何度も蹴り上げる内、その女の口が微かに動いた。
「ん、何だ?」
蹴り上げるのを止め、床に激突した女の側に寄り、聞き耳を立てる。
「・・も、もう・・や・・」
「停止の合図は土下座だと、何度言えば分るんだ?」
頭を踏み潰そうとしたが、ちょうど視界に入ったカレンが首を横に振ったので、そこで止める。
次の相手に移ろうとすると、残りの5名が、武器を捨て、床に粗相をしながら土下座していた。
「・・本当なら手足の2、3本は切り落としてやりたいが、約束は約束だからな。
これで終わりにしてやるよ」
怒りと虚しさで満ちた心を、どうにか落ち着かせる。
土下座したまま動かない奴らに、俺は静かに言葉を紡いだ。
「お前達は恥じ入るべきだ。
その程度の実力で、Sクラスに入れたことを。
そんな力しか持たないくせに、努力を怠ったことを。
国民の税金が投入されてるこの学院で、呑気に
・・俺は、ただ弱いだけの奴を非難しはしない。
人には適正というものがあり、幾ら努力しても、ある程度までしか伸びない奴らも大勢いる。
だがお前達は違うだろう?
仮にもこの国1番と言われる学院に入れたんだ。
訓練のしようによっては、もっともっと上を目指せる。
戦闘能力だけが人の価値ではないが、少なくともお前達は、それを望んでこの学院の門を叩いたんじゃないのか?
・・人の粗探しをする時間があったら、その分己を鍛えろ。
他人を妬む暇があるなら、その時間を訓練に回せ。
ここに入りたくても入れなかった者達のためにも、お前達には、その義務があるはずだ」
静まり返った会場に、重傷を負った者達の呻き声と、その場を去る、俺の足音だけが響く。
「待ってください」
それまで黙って試合を眺めていた理事長が、席から立ち上がって俺を呼び止める。
「・・あなたなら、彼らを治せるはずです。
未来ある彼らに、どうかもう1度だけやり直しの機会を与えてはいただけませんか?
お願い致します」
その場で、彼女が深々と頭を下げてくる。
「・・友人でもある理事長にそこまでされたら、聴かない訳にはいきませんね。
良いでしょう」
俺は
「理事長に感謝するんだな」
切断されて近くに転がっていた手首や腕、両足が、みな奇麗にくっ付いて、傷跡すら残らない。
失われた血液さえも回復し、痛みから解放された者達が、信じられないという表情をしながら、己の手足を何度も見比べている。
今度こそ出口へと向かう俺の後を、カレンだけが、笑みを浮かべて付いて来た。
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