第12話

 「あなたは明日から、午後の授業には顔すら出さなくて結構です。

学院内で好きな事をしていて構いません。

それから、あなたを明日からSクラスへと編入させます。

あなたの実力を隠しておくのはもう無理です」


事後報告に訪れた理事長室で、額に手を当てた彼女にそう告げられる。


「済みません。

さすがに馬鹿にされっぱなしなのは我慢できない質なので」


「秋季休暇が近くて助かりました。

休みの間に大急ぎで校舎を修理させねば・・」


「関係する生徒達からしっかりと費用を徴収してくださいね」


「勿論です。

それでなくても今は遣り繰りが大変なのですから」


「そんなに大変なのですか?」


「ええ。

急に国からの補助金が半減しましてね。

今後5年間、貴族からの寄付金がないと、新たな備品すら購入が難しい状況です」


「因みに、学院の年間予算ってどれくらいなんですか?」


「大体白金貨40枚くらいです。

生徒1人当たりの学費が年に金貨5枚ですから、それで半分以上は回収できますが、あとの白金貨13枚分の内、10枚を国に頼っていて、残りを貴族からの寄付金や、ここの受験料で賄っています。

ですから、あなたの寄付金は非常に助かりました」


「・・俺が立て替えると約束した2人分の修繕費を支払います。

幾らですか?」


「業者から見積もりを取ってみないと正確には分りませんが、過去の修繕費や備品の購入費から考えるに、総額で金貨50枚くらいでしょうか。

ですからそれを人数で割ると、1人当たり金貨7枚、2人分で14枚ですね」


「何だかんだ言っても、俺は結構、ここの生活が気に入っています。

クラスでは孤立し、授業では仲間外れにされ、昼飯はダンジョン内で食べてますけど、これまで俺が求めても得られなかった時間が、ここにはある。

楽しそうに笑う生徒達や、友人と仲良く過ごしている彼らを目にすれば、たとえその輪の中には加われなくても、心が和む。

そういった雰囲気の中に身を置くだけでも、安らぎを感じる。

俺は長いこと、人と関わることがほとんどなかった。

親は言うに及ばず、兄弟姉妹や使用人達からもほぼ無視されて、”彼女”にすら会えなかったら、きっと心が壊れていた。

・・初めて通うが、学校とは良いものだ。

その過ごし方さえ間違わなければ、お金以外の、人生で必要なものの大半をそこで得られる。

何かあっても級友に支えられ、失敗しても教師がフォローしてくれ、悩んでいれば友人が側で見守っててくれる。

だから俺は、まだこの学院で過ごしていたい。

たとえその全てが俺とは無関係でも、そんな可能性に溢れた場所で、夢を見ていたい。

国に減らされた補助金分は、全て俺が負担します。

ですから、頑張ってこの学院を存続させていってくださいね」


目前に置かれたテーブルに、アイテムボックスから金塊を50本取り出し、載せる。


「こちらでの価値は分りませんが、これ1本で純金1キロ分です。

俺のいた国(世界)では、1本が金貨1000枚分に相当しました。

学院のために使ってください」


「・・・良いんですか?」


「はい。

俺と理事長は、友達じゃないですか」


申し訳なさそうな顔をしている彼女に、そう言って笑いかける。


「・・そうでしたね。

ええその通りです。

親友マブダチですものね」


翌日、俺はSクラスへと編入された。



 「既に紹介の必要すらないと思うが、彼が今話題のアークだ。

その実力は、Sクラスの君達をして、全く及びもしない位置にあるだろう。

これからは彼を目標に、更なる鍛錬に勤しんで欲しい。

・・君の席は、窓側の1番後ろだ」


先生、あまり彼らを煽らないでくださいよ。


理事長から何を言われたのか知りませんが、見て下さいよ、彼らの目。


まるでこれから襲い掛かろうとしている、獣のようですよ?


席までの短い道のりで、数人から敵意を浴びる。


俺、ここではまだ何もしていないからね?



 「ちょっと良いかしら?」


休み時間に室外へ出たところで、早速声をかけられる。


「駄目です」


「・・・。

私に喧嘩を売っているの?」


「いいえ。

校舎裏に連れて行かれるのは御免だと言っているだけです」


「そんなことしないわよ!

・・少し聴きたいことがあるだけ。

中級ダンジョンの15階層って、どのくらいの魔物が出るの?」


「まだ行ったことがないんですか?」


「ないから聴いてるんじゃない」


「でもここ、Sクラスですよね?

1人では無理でも、パーティーを組めば行けるでしょ?」


「・・私、まだ組んだことないから」


「へえ、何か意外ですね」


「どうして?」


「人気が出そうな容姿をしてるのに・・」


この、初めて見るな。


以前探した時にはいなかった。


そう言えばアリサが、パーティーを組むなら、実力以外に人格も大事だと言ってたっけ。


「もしかして、性格悪いんですか?」


「~ッ、んっ!」


いきなり平手が飛んでくる。


それを難なく交わし、距離を取る。


「物騒ですね」


「あなた失礼過ぎるわよ。

一体どんな育ち方をしてきたの?」


「これでも育ちはかなり良いはずなんですが、何分、他者から愛されないことが長かったので・・。

もう直ぐ予鈴ですから、続きは昼にしませんか?」


「分ったわ。

特別に一緒に食べてあげる」


いや、それは誘ってないんですけど。



 「ちょっと、何でこんな場所に来るの?

昼食を取りに来たんじゃないの?」


「そうですよ。

お昼を食べに来たんです」


「ここで!?」


「ちゃんと許可は取ってあります。

俺は自由にダンジョンを出入りできるので」


上級ダンジョンへと入り、その入り口近くでテーブルと椅子を広げる。


「ここなら誰も来ません。

安心して話せますよ?」


「・・仕方ないわね。

ここで我慢してあげる」


椅子の1つに腰を下ろし、持参した弁当を広げる彼女。


「そう言えば、まだ名前すら聴いていませんでした」


______________________________________


氏名:カレン・ロアペルー

性別:女性

年齢:16

レベル:32


HP:1580

MP:2280

攻撃力:330

物理防御力:330

魔力:380

魔法防御力:350

素早さ:340

運:420


魔法:【ヒール】 【キュア】 【ファイア】 【ウオーター】 【ウインド】 【サンダー】 【浄化】


特殊能力:【アイテムボックス】 【状態異常耐性】


固有能力:【真実の瞳】


______________________________________


「人の顔ばかり見ていないで、早く聴いたら?」


何か得意げにそう言ってくる。


「いえ、もう分りましたので」


「!!

エッチ。

断りなく覗くのは、ルール違反なんだからね」


「じゃあ俺のも見て良いですよ」


「意地悪ね。

知ってて言っているでしょう?」


奇麗な眉が、微妙に形を変える。


改めて彼女の姿をよく見る。


プラチナ色の髪を自然に流した、色白の肌。


エメラルドのような瞳は大きく、まだ幾分の幼さを感じさせる。


アリサほどではないが、胸も大きく、腰が括れ、足が長い。


もし登校初日にこのに会えたなら、先ず間違いなく真っ先に誘っただろう。


「カレンさんは俺の噂を知らないんですか?」


「噂?

私のことは、カレンで良いわよ」


「まあ知っていれば、好んで俺に近寄らないか」


「どんな噂なの?」


「女好きで、女なら誰でも良くて、見境なくて、ストーカーの常習犯みたいな・・。

今日ここに連れて来たのだって、この後美味しく頂くためかもしれないですよ?

グへへ」


「でもそれ、かなり尾ひれが付いているんじゃないの?」


「ええまあ、大分」


「私を覗いたのなら分るでしょ?

私は高い確率で、その人の本心が理解できるの。

そうでなければ、こんな場所に1人で付いて来ないわ。

あなたは口ではひねくれた事ばかり言うけれど、心は意外と奇麗だもの」


「意外と・・」


「そう。

意外と」


「褒めてくれたみたいだから、カレンの質問に答えよう。

今の君の能力なら、15階層なら問題ない。

因みに中級の何階層まで進んだんだ?」


「13階層。

上級に来たのは今日が初めて」


「随分と慎重なんだな」


「1人で戦ってたから、どうしてもね」


「何でパーティーを組まないの?」


「組みたいと思う人がいなかったのよ」


アリサと同じ様な事を言ってるな。


「それってレベル的なもので?」


「それもあるわ。

私、これでも1年Sクラスのトップだから。

でもそれだけじゃない。

パーティーを組むと、やれ役割がどうだの、戦い方がどうだのと、色々と煩いでしょ?

私、自由に戦えないのは好きじゃないの」


まあねえ。


オールラウンダーなのに、回復に徹しろだの、前に出るなだの言われれば、そりゃあうざいわな。


「じゃあさ、1度俺と組んでみないか?

俺は後ろから付いて行くから、カレンは好きに戦ってくれて良い」


「・・私からお願いしようと思ってたのに、先に言われちゃった。

勿論良いわよ。

あなたの力を私に見せてね」


嬉しそうに微笑まれる。


『類は友を呼ぶ』ってことかな。


アリサといい、カレンといい、ボッチはボッチを呼ぶのかね。

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