第2話
「ここは何処だろ?
ざっと見たところ、ダンジョンの中のようだけど」
廃屋の薄い壁を抜けると、そこは異世界だった。
ステータスウインドウを開き、自分の能力を確認してみる。
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氏名:アーク(それ以降のものは、剥奪されて名乗れなかったので捨てた)
性別:男性
年齢:16
レベル:999996
HP:表示不能
MP:表示不能
攻撃力:表示不能
物理防御力:表示不能
魔力:表示不能
魔法防御力:表示不能
素早さ:表示不能
運:表示不能
魔法:【神治】 【神癒】 【炎の化身】 【水の精霊王】 【大地の女神】 【天空の風】 【裁きの雷】 【極寒の女王】 【妖艶な暗闇】 【希望の光】 【異空間操作】 【浄化】
特殊能力:【アイテムボックス】 【転移】 【飛行】 【潜水】 【物理無効】 【魔法無効】 【状態異常無効】 【未来視】 【賢者】 【鑑定】 【偽装】 【認識不能】 【魅了】
固有能力:【限界突破】 【吸能】 【不老不死】 【眷族化】 【魔物図鑑】
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うん、変化なし。
魔界のダンジョンを攻略し尽くして、その最深部に居た亜神や魔王、上級悪魔を従わせ、能力を分けて貰い、若しくは吸い尽くした。
始めの内は、低レベルの攻略にも大分時間が掛かっていたのだが、とあるダンジョンに居た”彼女”との出会いが、俺の人生を大きく変えた。
その彼女は今、【魔物図鑑】の中で眠りに就いている。
魔界では、もう誰も俺には敵わない、と言うか、足下にも及ばない。
たとえ魔界の全兵力と同時に戦っても、楽勝なんじゃないかな。
幼い頃から馬鹿にされてきた俺ならば、そこで復讐を考えるだろうって?
逆に聴こう。
何で?
そりゃあ俺も聖人君子じゃないからさ、気に入らない奴はこれまでにも何人か暗殺してきたけれど、気に障った奴、俺を見下してきた奴全てを殺して回ったら、魔界の人口が激減しちゃうだろ?
それじゃ直ぐに遊ぶ相手がいなくなっちゃうじゃないか。
俺のお小遣いの原資にもなっている、勤勉な納税者達も減ってしまうし。
偶にいるだろ?
能力が高いのに、無能な振りして内心で周囲を馬鹿にし、自己満足してる奴。
あれと同じよ。
あれって実は結構面白いんだよね。
弱いと思ってた俺が、実は自分なんか比較にならないほど強いと分った瞬間に見せる表情がさ。
それを考えるだけで楽しくて、笑いがこみ上げてきて、
『何やってんだろ、俺』って。
最初の頃はよく部屋でやらかして、両隣に住むメイドさん達から壁ドンされてた。
真夜中だったしな。
それにさ、暴力を振るわれたり、絶対に許せないことをされない限り、人って大体の事を許せるんだよね。
勿論、心にゆとりがあることが大前提だけど、頻繁に会う訳でもなければ、何か言われたところで、美味い物でも食べて寝てしまえば、次の朝にはどうでも良くなっている。
それで駄目なら、その時こそとことんやり合えば良い。
両足を折って、両手の指を砕いて、男だったら股間の物を蹴り潰してから、魔物の巣にでも放り込めば済む。
それですっきり解決。
力さえあれば何でもできる。
逆に金も力もなければ何もできない。
魔界は至ってシンプルでした。
・・でもさ、女性に限れば、人間の方が綺麗な人は多いと思うんだよ。
母も綺麗だったけど、彼女が人間界で1番という訳ではないだろうし、魔界の美人さんには、大抵余計な物が付いているんだよね。
角とかモフモフとか翼とか尻尾とか。
あれってさ、見ている分には良いのかもしれないけれど、実際に抱くとなったら邪魔でしかないよ?
キスをするのにも、角度を間違えれば頭をぶつけるし、翼の生えた人との体位は限られるし、大体俺には獣姦の趣味はないんだよね。
そんな訳で、俺は異世界で青春することに致しました。
とりあえず、さっさとここを出よう。
母の事だから、きっと強い魔物にでも襲われて、仲間を見捨てて逃げた先が運良くここだった可能性がある。
そういう人が魔界で苦しむのは仕方がないにしても、間違って迷い込む人が二度と出ないように、この場所を封印する。
魔界へ続く壁の前に、分厚い岩を押し込めて、周囲を結界で閉じ込めた。
あ、そう言えば、出口となる壁は俺が破壊したんだった。
苦笑しながら転移で外に出る。
ん、誰か戦ってる?
「くそっ、こんな所にまでハイオークの群れが・・。
防御を固めろ。
隙を見せるな!」
「ギャッ」
「痛え!
俺の腕がぁーっ」
あーあ、あれじゃ持たないぞ。
でも自己責任。
おっさんを助ける意味がない。
・・仕方ないな。
空想するか。
『お父ちゃん、お腹空いたよー』
『ごめんな。
今日の依頼料が入ったら、お腹一杯食べさせてやるからな。
だから良い子で待ってるんだぞ?』
『うん、分った』
『ゴホッ、あんた、あまり無理しないでおくれよ。
お金なら、あたしが何とかするからさ。
ゴホッ、ゴホッ』
『馬鹿野郎。
病気のお前が何言ってやがんだ。
ちゃんと身体を休めなきゃ駄目だぞ?
金は稼げても、お前の代わりにはならないんだからな』
うう、良い話だ。
あ、やばい、全滅しちゃう。
「開け我が【魔物図鑑】よ。
狩りの時間だ。
ゆけ、ゴブリン!」
手元に突然現れた魔導書が光り、風にあおられるように、そのページが捲られていく。
それが止まると、該当ページに載っている魔物が現実の姿となって、ハイオーク達の前に立ちはだかった。
「な、何だ、新手か?」
仲間をやられながら、必死に剣を振るっていた男が、突然現れた1体のゴブリンに目を丸くする。
「グフォ?」
戦う手を止め、訝しげにゴブリンを眺めたハイオーク達が、直後にブチ切れる。
チョイチョイ。
ゴブリンにしてはやけに美男子で、マッチョな奴が、自分に向かって右手の人差し指を動かしている。
まるでかかってこいとでも言っているかのように。
「グオーッ!」
ゴブリンの頭を狙って振り払われた斧が、彼の人差し指によって止められる。
「!!」
そこから、棍棒ではなく、アダマンダイト製のバットを持った彼による、虐殺が開始される。
10体近くいたハイオークが、あっという間に倒された。
「うん、いつもながら良い仕事をしたな。
ほれ、ご褒美だ」
長い付き合いの彼に、アイテムボックスから出した分厚い骨付き肉を投げてやると、それをキャッチした彼は嬉しそうに親指を立てて消えていった。
もしその場に高度な鑑定眼を持つ者がいたら、彼のレベルに目を見開いたであろう。
1062。
それが、先程のゴブリンが持つレベルであった。
「【神治】」
負傷していた者達の傷が奇麗に癒え、既に事切れていた者が息を吹き返す。
「異世界デビューの日だから大サービスな」
呆然として声も出ず、誰かを探してきょろきょろする男達を尻目に、俺はその場から姿を消した。
「あのー、何かお仕事ございませんか?」
知らない町に移動した俺は、お金を稼ぐべく、ギルドらしき建物に入って、受付に座っていた女性の中で1番綺麗な人にそう尋ねる。
屋台で珍しい果物が売られていたので、買おうと思って魔界の金貨を見せたが、案の定、売り子に首を横に振られ、宝物庫から頂いてきた金塊を見せたら、のけぞって『お釣りがないです』と拒否された。
通じるか心配していた言葉は、【賢者】のお陰で問題なかった。
未知の情報や問題に直面した時、この能力はそれに対する的確な答えを与えてくれる。
どうやらそれが言葉であっても、大した違いではないのだろう。
俺は勇者(魔界にも居たんですよ、こういう人。頼みもしないのにパーティー組んで、魔物退治して国にお金をせびるんです)ではないから、他人の家に入って、勝手にお金や物を頂く訳にはいかない。
悪人以外から力づくで取るなんて、俺の美学に反するし。
それじゃごろつきやチンピラと変わらないしな。
時間は無限にあるので、1年や2年働いたところで、何の問題も無い。
「・・冒険者の方ですか?」
んん、何だか彼女の顔が赤い。
俺まだ【魅了】を使ってないけど?
「いえ、違います。
まだ登録すらしていません」
「申し訳ありませんが、ご登録頂かないと、お仕事をご紹介できないのです。
ご登録をお願いしても宜しいでしょうか?」
「そうしたい所なのですが、何分この国のお金を持っていないので・・」
「まあ、・・旅のお方ですか?
それでしたら、身分証と引き換えに、仮のカードを発行致しますのでご呈示をお願い致します」
「済みません、それも何処かで失くしてしまって・・」
「ではどのようにして町の門を通過なさったのです?」
「運良く誰も居ませんでした」
「・・・」
「・・・」
お互いに黙って見つめ合う。
「・・仕方ありませんね。
私が登録料を立て替えておきます。
だからまた必ず会いに来て、きちんと返してくださいね?」
更に顔を赤くした受付嬢が、助け船を出してくれる。
「ありがとう。
利息を付けて、直ぐに返すから」
俺の後ろに並んだ奴が、あからさまに舌打ちしてくる。
おいおい、それって喧嘩売ってるのと同じだぜ?
後を振り向き、そいつに強い殺気を放つと、彼は股間を押さえて何処かに駆け込んで行った。
「お待たせ致しました。
これがあなた様のギルドカードになります。
身分証の代わりにもなりますので、今度は失くさないでくださいね」
「気をつけます。
・・それで、何でも良いので、直ぐにできる依頼とかありますか?
できれば討伐系のものを受けたいのですけど」
再度俺をじっと見た受付嬢が、何故か小声で話し始める。
「・・あなた、お強いですか?」
「まあ、それなりには」
俺も付き合って小声で答える。
「この依頼は最新のもので、まだ掲示板に貼り出してさえいないのですが、この町から直ぐの洞窟に、最近になって盗賊の類が住み着いたらしいのです。
人数などは不明ですが、腕に自信があるのなら如何です?」
「報酬はどのくらいですか?」
「金貨3枚です」
「受けます」
「では急いで依頼書をお作り致しますので、暫くお待ちください」
書類を作成し始めた彼女を見ながら、時間を潰す。
「・・奇麗な髪ですね」
文字を書いていたペンが止まり、
「・・あなたの黒髪とその黒い瞳も、凄く素敵ですよ?」
口許に笑みを浮かべ、また作業に戻る彼女。
再度後から聞こえてきた舌打ちに反応して振り向き、殺気を放つと、先程とは別の男が股間を押さえながら何処かに消えて行く。
まあ、行列を短くするのには役に立ってるな。
出来上がった依頼書を受け取り、俺はそのまま現地へと向かった。
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