第3話:聞いてない

「私たちよりかしこい、ってこと?」

「身体は小さかったけど、たぶん」

 "ちくわ"が発した呼び声を聞き、お互いの所在を確認しながら、ベーカー家から西に6kmほどの地点で合流した彼女は、彼の目撃談を聞いて混乱している。

 彼女のことは、"ストロー"と呼ぼう。"ちくわ"と同じく、"ストロー"も既にこの星に到着して最初の食事を済ませていたが、その捕食対象が言葉を発することもなければ、武器を扱うこともなく、摂取する上での支障は何もなかったと聞いて、少し羨ましがった。"ちくわ"が間違えてかじってしまったものとは別の生き物なのだろう。

「でも説明会ではそんなこと一言も……」

 そう、移住者募集説明会で配られたパンフレットには、このあたりは一面の砂漠ではあるものの、少し西へ行けば緑もあり、更に進めば巨大な海洋が湛えられていて、そのどちらも食糧となり得るタンパク質には困らないであろうと誇示されていたが、知的生命体の存在などは一切触れられていない。

 しかしながら、到着早々から、"ストロー"も違和感は持っていた。彼女は長旅を経て降り立った輝かしいフロンティアを無邪気に走り回っていたが、その間にいくつもの人工的としか思えない建物を目にしていたと言う。

 とはいえ、彼らよりも前にこの惑星へとやってきた調査員が、手を抜いていたというわけではない。むしろ事細かに、地質や気候、生態系などを調べ上げ、生物の可食性についてはかなり入念に精査していたし、特に彼らの移住を阻む要因となり得る支配的な種の存在は、徹底的に確認されていた。

 彼らの故郷では、既に食用生物はかなりの数が死滅していた。人間のものさしから見れば相当寿命の長い彼らは、およそ一世代で一つの星の食糧資源を食い尽くす。そのため、生まれた星で生涯を終えることは叶わず、適齢期になれば別の星を選んで移り住まなくてはならない。

 選り好みが激しい"ちくわ"と"ストロー"は、べらぼうに倍率の高かった今回の魅力的な移住プロジェクトに見事当選し、いろんなご馳走をたらふく食べてやろうと期待に胸を膨らませてやってきたのだが、いきなり出鼻をくじかれた。

 とにかく、ボスの指示に従おう。砂に潜って移動すれば、方向感覚はちょっと狂うが、奴らには見つからない。たまにこっそり顔を出し、ボスに呼びかけて居場所を確認しながら、できるだけ無害な動物を食べて逃げて隠れて、なんとか奴らに殺される前に、ボスと合流しよう。砂に隠れたらいい、というのもボスのアイディアだ。ボスなら、なんとかしてくれるはずだ。

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