第45話 明かす気持ちと




 ロウが俺を好きだと言った。

 聞き間違いや、願望じゃない。いや、もしかしたらそうだったのかもしれない。自信が無くなってきた。


 俺は赤くなった顔を隠すために、腕を上げて押しつける。顔を見られたくない。しかし、この行動で完全に周囲にバレバレだった。


「は、ハルさん……もしかして」


 一番近くにいる太一が、信じられないものを見る視線を向けてきた。

 バレた。告白に喜んでいるのがバレた。返事をする前から、完全に気づかれてしまった。なんて恥ずかしい状況なんだ。

 そのまま顔を隠していると、誰かが隣に来る気配を感じた。


「ハル」


 一番顔を合わせたくない相手だった。名前を呼ばれたけど、俺は首を横に振って拒否を示した。


「ハル、顔を見せてくれ」


 それでも首を横に振った。どんな表情をしていいのか分からない。消えてしまいたい気分だ。

 両想いなのに嬉しくないのかと聞かれれば、嬉しいに決まっている。しかし処理しきれない。一時は、諦めようとまでしていたのだ。突然向こうからも好きだと言われても、嬉しいよりも困る。


 顔を隠していれば、肩にそっと手が触れてきた。無理やり腕をどかされるのではないかと警戒したが、それはしてこなかった。

 俺が自分から顔を見せるのを待っている。そっちの方が、俺にとっては酷い行為だ。


「ハル。そのままでもいいから聞いてくれ」


 この距離で聞かない方が無理がある。俺は小さく頷いた。


「今言ったのは嘘じゃない。ハルが好きだ。一目惚れだった。初めて見た時から、ハルと一生を共に過ごすと決めたんだ」


 さすがに一生を共に過ごすなんて、最初に感じるものでは無い。しかし本当に言っている。普通だったら重い感情かもしれない。俺の中にあふれたのは、喜びだったが。

 たぶん、俺も最初からロウに惹かれていた。そうでなければ、傍にいることを許さなかった。別にチームを作るつもりはなかったのだから。


「ハルが好きだ。愛している」


 ああ、駄目だ。

 俺は観念するしかなかった。のろのろと顔をあげて、ロウと視線を合わせた。

 なんて顔をしているんだろう。とろけてしまいそうなぐらい、俺を好きで仕方ないといったばかりの顔。幸せでいっぱいの顔。

 そんな顔を見てしまったら、俺も応えるしかなかった。


「俺も……好き、愛している」


 言葉がこぼれた。そして涙もあふれる。

 ロウが腕を広げた。その腕の中に飛び込む。抱きしめられ、俺も抱きしめ返す。


「ロウが好き」


「俺もハルが好き」


 お互いに何度も好きだと言いながら、俺達の公開告白はしばらく続いた。みんなが文句を言えなかったほどなので、ものすごいバカップルぶりだったのだろう。記憶を消してもらいたいぐらいの、末代にまで残りそうな話になりそうだ。

 今は幸せだから、後のことを考えるのはよそう。ダメージを受けるだけである。




 とりあえず、俺はみんなと別れて幼稚園へと向かっていた。もっと話をしたいという雰囲気はあったが、弟を待たせるわけにもいかない。俺がどれだけ大事にしているのかを知ったので、引き止められはしなかった。

 しかし、ロウが一緒に行くときかなくて、現在隣にいる。離れがたかったから嬉しいが、どこか気まずさもあった。

 ロウも緊張しているらしく、何も話さずに黙々と歩いている。


 好きだと伝えた。向こうも好きだと言ってくれた。しかし、まだ恋人になるかどうかの話はしていない。言葉にしていなくても、そういうことでいいんだよな。

 俺はそっと、ロウの方を見る。相手もちょうどこちらを見ていたところらしく、視線がバッチリと合った。


「あー、えーっと」


 気まずい。これでは、前までの方が話しやすかった。助けを求めて視線をさ迷わせても、ここには俺達しかいない。せっかく両思いだと分かったのに、気まずい状態でいるつもりか。

 それでは、なんの意味もない。勇気を振り絞って、俺は手を差し出した。


「手でも、繋ぐか?」


 ロウはまじまじと見てくる。穴があきそうなぐらいだ。

 返事をしてくれないと困る。まあ、嫌そうにはしていないから大丈夫か。

 そう決めつけて、さらに勇気を出して手をとった。ここまでしたのだから、まさか俺が言いたいことは伝わっただろう。

 緊張で手汗をかいていないか。心配しながらも指と指を絡めて、いわゆる恋人繋ぎをした。


「……これから、よろしく」


「あ、ああ。よろしく」


 ぎこちない会話。しかし、急にロウが意を決したように真剣な表情になった。


「……キス、してもいいか?」


 心臓が大きく鼓動した。恋人なら、キスをしてもおかしくない。初めてでもない。

 そのはずなのに、ものすごくドキドキとしている。

 返事を待つロウは、俺が嫌だと言えば止める。絶対に無理強いはしない。


「い、いいよ」


 しかし、俺もしたかった。緊張でどうにかなりそうで目を閉じれば、喉を鳴らす音が聞こえてきた。

 そして、ゆっくりと近づいてくる気配。

 あと少しで触れる。

 そう覚悟した時、突然俺達の間に第三者が入ってきた。


「にぃにちかづかないで!」


「は、はる?」


 まさかの弟の登場に、俺は別の意味で驚いた。

 どうしてここに?

 幼稚園は近いが、それでも少し距離はあるのに。俺の疑問に答えはなく、弟はロウを睨みつけた。


「やっぱり、すきじゃない!」


 以前のように好きじゃない宣言をされたロウだったが、今回は固まりはしなかった。


「そうはいっても、俺とハルは恋人になったから、認めてもらえないと困るな」


 その言葉に、逆に弟が衝撃を受けて固まる。確認をするためか、こちらを見たので頷いた。


「に、にぃ」


「だから、これからもよろしくな。いつか義理の弟になるだろうし」


 わなわなと震えている弟に、ロウが握手を求めた。しかしその手を無視して、弟は俺の元に駆け寄った。


「にぃ、うそだよね?」


「嘘じゃないさ」


「いくおにいさんにはきいてない!」


 二人で言い争う姿に、俺は幸せを感じていた。この様子なら、すぐにでも仲良くなれそうだ。

 弟も大事だが、ロウのことも大事だ。俺は睨み合う二人に、満面の笑みを向けた。


「二人共、大好きだ!」


「ぼくのほうがいちばんだよね?」


「俺の方が一番だろう?」


 いや、まだ仲良くなるには時間がかかるか。それでも、未来はきっと明るい。俺は答えるように、二人一緒に抱きしめた。




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俺が大事なのは弟だけ 瀬川 @segawa08

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