第44話 事情説明
とりあえず、みんな俺のことを責めては来なかった。
「でも、なんでいなくなったんだ」
しかし、説明を求められた。当たり前だ。俺だって、向こうの立場だったら聞きたくなる。
「えーっと……言わなきゃ駄目か?」
言ったら、呆れられるのは確実である。俺にとっては大事なことでも、みんなにとってはそうではない。
何とかごまかせないかと思ったが、視線が怖かった。
「言ってくれ」
一番怖いのは太一だった。泣き止んだが、まだ完全復活とまではいかない。俺の姿が見えなくなったら、取り乱すだろう危うさがあった。だから今もたまり場に帰ったのだが、俺に引っ付いて離れない。
可愛いし心配をかけた分、構ってあげたいのは確かだ。それでも言ったら、抱きしめている腕でしめあげられそうな気がする。
しかし言わなくても、許してもらえなさそうだった。
「俺達には言えないの?」
いつの間にか、リュウのチームと組んでいたらしい。一緒にたまり場に来た玲奈が、俺の膝に手を触れて聞いてくる。甘えているように見せかけて、これは話すまで逃がしはしないという警告だろう。何も言わないが、他の人もそうだ。
「あーっと、そうだなあ」
これは長引かせれば長引かせるほど、どんどん面倒くさいことになりそうだ。面倒なことになりそうな人は、もう弟の存在を知っているから、少しは大目に見てくれるか。
それに、人によってはくだらない理由かもしれないが、俺にとっては最も重要である。それが分からない奴は、頭がおかしい。
いっそ開き直って、俺は白状することにした。
「はるが、弟が……俺がいなくて寂しいって言ったから」
俺が言ったことを理解しようとしているのか、しばらく誰も何も言わなかった。もしかしたら、俺が言ったことが信じられなくて聞き間違いだと思っているのかもしれない。
最初に回復したのは、ロウだった。元々知っていたから、衝撃を受けるわけないのでフォローに回ってくれようとした。
「ハルは、チームよりも弟が大事だったんだ」
全くフォローになっていなかった。むしろ、トドメをさしたのではないか。味方になったと思ったのは俺の気のせいで、実はまだ怒っているのか。そのぐらいの、助けにならない言葉だった。
「はるが寂しいって言ったから、チームを抜けたんですか?」
顔を上げた太一が静かに聞いてくる。無表情だから、何を考えているのか読み取れない。
「そうだ。そもそも、まずチームを作ったのは、はるが理由だ」
もういっそ全部話してしまえ。俺はチーム結成の流れも説明した。
まさか弟のために、治安を良くするのを目的でチームが出来たとは考えてもいなかったようで、驚いた様子で話を聞いている。完全にブラコンなのは理解しただろう。
「みんなが大事じゃなかったわけじゃない。ここにいる時間も楽しかった。それでも、俺の中での優先順位は弟が上なんだ。悪い」
はっきりと宣言しておかなくては、後々禍根を残す。さて、どんな反応をされるのか。
「はるが原因なら……仕方ないですね」
「確かに。あの様子を見てたら納得出来る」
「そうだね。弟大好きすぎだもん」
「……見てみたい」
思っていたよりも、好意的に受け止めてくれた。弟と会わせていて、俺が溺愛している姿を見ていたのが良かったらしい。
弟の存在を邪険に思われず、俺は安堵した。ここで、みんなと別れるのは打撃がある。
「ずっと気になっていることがあるんですけど、どうしてロウさんがなんか色々と知っている感じなんですか」
ちょいちょいロウが口を挟むから、太一は違和感があったようだ。抑え気味ではあるが、棘を含ませて質問をした。ロウがキレたら、勝てないと知っているはずなのに敵意を向けているのは、それだけ訳知り顔のロウが気に入らないのか。
ロウは敵意に対して気にした様子もなく、涼しい顔をしている。どこか余裕があった。
「俺は全部知っていたからな。ハルが抜けた理由も、弟のことも、ハルが隠れていたのも」
挑発的な言い方に、太一以外からも敵意を向けられた。そんな言い方をしたら良くないのに、どうしてトラブルを起こそうとするのだ。穏便にしてほしい。
「ああ、そうだ。レンとも一度会っている」
「は?」
「図書館で。覚えてないか?」
「図書館……あっ。あの時の変なオタクか!」
図書館のことを思い出した蓮司は、ロウを指して叫んだ。同一人物だと考えていなかったらしい。それぐらい、変装の仕方が上手くできていた。
「どうして、ロウさんが知っていたんですか」
「俺がバラしたわけじゃない。バレたんだ」
太一が俺に非難の視線を向けてきたので、弁明をしておく。特別扱いをしたわけではないと信じたが、そこでロウが爆弾を落とす。
「俺だけが気づいたんだ。俺はハルが好きだから、必死に探して見つけた。そして気づいた。それだけのことだ。……ああ、そうだ。恋愛として好きだから」
その爆弾は俺にも効いた。その言葉を飲み込むのに時間がかかり、そして理解した途端、制御出来ないぐらいに顔に熱が集まった。
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