第42話 抗争の終わりと





「お、おい。お前……何者だ」


 さすがに初っ端からやりすぎたか。周りに倒れた人を見て、頭をかく。ここまで弱いとは。もう少し手加減をするべきだったか。

 全員の視線が集まっていて、俺という異分子をどう判断したものか迷っている。俺がどこの誰で、誰の味方なのか。

 誰もが固まっているので、とりあえず立ち位置をはっきりさせておく。


「さっきも言ったけど、通りすがりのヒーロー。俺は、こっちの味方。お前、倒す。よろしく」


 味方でロウを指し、倒すというところで騒がしい相手の男を指した。これで明確に、どちらの味方なのかを示せただろう。それを示したことで、敵が判断できるようになった。俺に対して敵意を向けている人を倒せばいい。困惑しているのは味方だ。


「それじゃあ、やってくか」


 とりあえず、まずは武器を持っている人からやってくか。軽く準備体操をすると、目をつけた奴に向かって飛んだ。

 あとは昔を思い出して、暴れ回ればいいだけである。楽しいとは言わないが、久しぶりの感覚に血が騒ぐ。思わず笑ってしまえば、恐怖で引きつる人もいた。まるで化け物でもあったようだ。酷い態度である。

 俺が味方だと分かり、そして強いことも分かり安心したらしい。ロウ達も動き出した。俺の邪魔をしないように、俺がまだやっていない残りを倒しているのが見える。これで安心して続けられる。


 俺は倒しながら、どんどん相手のトップの元へ近づいていく。恐怖をにじませる表情は、自分達の勝利を確信していて、こうなるのを予想していなかったのだろう。見通しが甘い。俺がいないチームを馬鹿にしすぎだ。


 チームを潰すために、集められたメンバーを見る。人数を集めたと言っているが、ただ数を用意しただけという印象を受ける。もしかしたら、喧嘩なんて初めてした人もいるかもしれない。手加減をしているが、それでも気絶させるぐらいの力だから痛いものは痛い。内心で謝罪をしながら、拳をふるっていく。


 半分ぐらいを倒していっていた時、トップがきびすを返して逃げた。


「待て!」


 ここで逃がしたら、お仕置が出来なくなる。もう二度とこんなことはしないと、約束するまで帰せない。俺は下っ端を相手にせずに、そちらを追う。

 邪魔をしようとする人をちぎっては投げ、とにかく逃がさないように走った。そして、相手の服を掴む。逃がさないために力強く掴むと、こちらに引き寄せた。


「どこに行こうとしているんですか?」


「ひ、ひぃ!」


 そこまで驚くことだろうか。まさか、やられる覚悟もなしに抗争を始めたわけではないはずだ。もしそうなら、あまりに馬鹿らしい。覚悟もなしに、始めたのは愚かでしかない。


「どうしてそんなに驚いているんですか。これは遊びじゃないんですよ。負ける覚悟、してこなかったんですか?」


 相手に向けて笑う。それは、わざと怖がらせるための笑いだった。効果は抜群で、顔が青ざめている。今にも倒れてしまいそうだ。お山の大将タイプだったか。カリスマ性があると思ったが、撤回させてもらおう。


「お、お前、何者なんだよ」


 何とか逃げようともがきながら、今更な質問をしてくる。急に現れたせいで、聞いている余裕も無かったのか。命乞いをしそうな勢いの相手に対し、俺は大きく拳を振りかぶった。


「ま。それはもう、知る必要は無いだろ。お前は負けたんだから」


 教える義理はない。そういうわけで、とりあえず抗争を終わらせる一発をお見舞いした。見掛け倒しだったらしく、手加減をしたのに相手は倒れる。弱い。弱すぎだ。下っ端と変わりないぐらいに。

 弱すぎて、拍子抜けしてしまったぐらいである。俺は殴った手を開いて、倒れた男を見下ろす。そして完全に気絶しているのを確認すると、今度は周囲を見渡した。俺と視線が合うと、すぐにそらされてしまう。


「えーっと、通りすがりのヒーローは帰りますので。後は、好きにしてください」


 誰も大きな怪我をさせず、俺も怪我をすることなく抗争を終わらせられた。目的は達成したのだから、もうここにいる理由は無い。

 それなら、さっさと退散するに限ると、一方的に宣言して帰ることにした。

 しかし、すんなりと帰してもらえるはずもなく。


「ちょっと待て」


 呼び止められるのは予想していたので、すぐに止まる。タダで返してもらえないのは、予想済みだった。俺の正体を一番知りたいのは、味方をされた方だろう。無償の優しさほど、恐ろしいものはない。


 呼び止めたのは太一だった。俺を睨みつけている。敵認定をされているのかもしれない。もう、あの弟のような犬のような、そんな姿は見せてくれないのか。そう考えると、胸が痛くなった。

 残念だ。家に来ることもないだろう。弟も寂しがるだろうが、それも仕方のないことだ。


「何の用ですか?」


 口調が定まらなくて、とりあえず敬語を続ける。一瞬、向こうが傷ついた表情を浮かべた気がしたけど、きっと俺の見間違いだ。

 誰もが状況を窺っている中、太一は重々しく口を開く。


「あんた……あんたは、ハルさんなのか?」


 疑問形をとっていたが、確信している言い方だった。




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