第41話 立ち向かう




 抗争は、情報によるとかなり大規模なものらしい。俺とロウが率いていたグループとリュウ達が率いるグループに対し、俺がいなくなったことで好き勝手にし始めたグループが結託して潰そうとしているのだ。

 今までは小さな喧嘩だったのだが、今日前面高そうが行われる。勝った方が、全てを掌握する。


 単純な力の差ならば、ロウやリュウ達の方が強い。しかし相手はそれを自覚していて、卑怯な手を使っている。数を集め、武器を集め、何がなんでも勝とうしているのだ。大丈夫だと信じているが、それでも絶対は無い。


 俺はとにかく、抗争の場所だと思われるところに向かって走った。始まる時間に間に合うか微妙だった。このペースだと間に合わないかもしれない。

 そして話によると、警察は傍観を決め込んでいる。大きな抗争で、共倒れになればいいと考えているらしい。だから最悪の事態が起こっても、すぐに対応してもらえない。


 誰も傷つけたくない。誰にも傷ついてほしくない。俺が行ってどうなるか、意味が無いのかと思ったけど、それでも行きたかった。



 がむしゃらに走り、その廃工場に辿り着いた時、すでに抗争が始まっていた。怒号が聞こえてくる。どちらが優勢なのかは判断出来なかった。始まったばかりだから、まだ勝ち負けが決まる段階でもないか。

 俺は見張りをしている下っ端に近づき、まずは一般人を装って話しかけてみた。


「あの……なにか撮影でもしているんですか?」


「あ? なんだてめぇ。話しかけんじゃねえよ」


 当たり前だが追い返された。しかし、諦めるわけにもいかない。


「撮影じゃないのなら、もしかして喧嘩ですか。それなら警察に連絡しなきゃ」


「何してんだ、てめえ。止めろ! おい待て!」


 俺はスマホを手にし、警察に連絡をするふりをして逃げた。連絡をされたら困るのは向こうだ。俺の思惑通り、何も考えずに追いかけてくる。

 そこからちょっと走って、俺は見張りの人達を片付けた。怪我は最小限におさめ、誰かに連絡できないように手足を拘束しておく。動けないのを確認すると、俺は廃工場に戻った。

 まだ怒号は聞こえてくる。喧嘩がそう簡単に終わるわけはない。みんなが怪我をしていなければいいけど。


 俺は入口のところに立ち、扉に手をかけた。この扉を開ければ、俺の日常は壊れる。後戻りは出来なくなる。その覚悟が、本当にあるのか。


 考えるまでもなかった。

 わざと勢いよく扉を開ける。大きな音を立てて、中にいた人達が動きを止めて見てくる。何人かは俺に気がついた。そしてどうして俺がここにいるのかと、驚き固まっている。

 しかし、他の人は俺のことを知らない。突然現れた俺に、部外者という敵意を向けてくる。


「誰だお前!」


 その中でも知らない人が、俺に話しかけてきた。どうやら、敵対しているチームの大将らしい。全く知らない。俺がやめてから力をつけたのか。それならば、カリスマ性があるのかもしれない。しかしやっていることを考えたら、良くないカリスマ性だ。


「えーっと、通りすがりの人間です?」


 入ってきてからのことを考えていなかったせいで、疑問形になってしまった。


「はあ? 何言ってんだ!?」


 それは怒るに決まっている。こっちの方が不審者だ。しかし怯むことでもない。


「何を言っていると言われましても。ああ、そうだ。間違えました。通りすがりの人間ではなく……」


 俺はそこで決めゼリフを放つ。


「通りすがりのヒーローです」


 弟がそう言ったのだから、俺はヒーローである。


「はあ!?」


 まあ、それも素直に受け入れられるはずもなく。むしろ不審者感が増した。俺を知っている人達も、どう扱ったらいいのか困っている気配を出していた。急に現れてヒーローと言い出したら、驚きを通り越して怖くもなる。こうなったら、その怖さも利用しよう。


「ヒーローは悪を倒す。というわけで、大人しく帰るか成敗されろ」


 さすがにポージングは無理だったが、言いたいことは言えた。そのおかげで、相手を怒らせるのにも成功した。


「さっきからなんなんだ! 調子に乗るのもいい加減にしろ! 二度と馬鹿な真似をしないように、大人しくさせておけ!」


「はいっ!!」


 命令を受けた下っ端数人が、こちらに向かって走ってくる。俺がピンチだと、顔を青ざめさせて助けようとしている人もいるが、場所が遠すぎて間に合わない。

 俺が一般人だったら、殴られて大怪我をするところだ。いくら下っ端とはいえ、一般人に比べたら少しは強い。対して見た目だけで言えば、俺はいかにもひ弱そうだ。絶対に、一発殴れば気絶すると思われている。そういうところも卑怯で、俺にとっては地雷だった。

 勘違いしているとはいえ、一般人に手を出そうとするなんて許せない。

 何か信念があるのなら、俺だって見逃したのかもしれないのに。残念だ。


 まるでスローモーションのようにゆっくりと、振りかぶった拳が近づく。やはり弱い。弟との約束は守れるだろう。

 俺はギリギリまで相手を引き付けて、そして寸前のところでかわした。


「は」


 それが相手の最後の言葉になった。俺は向かってきていた男数人を、一発で地にしずめる。

 場に走った衝撃に、俺は応えるように笑った。


「さーて、お仕置の時間ですよ」





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