第40話 告白と抗争
俺は全てを、包み隠さず弟に話した。子供だからといって、ごまかしたくはなかったからだ。
ここら辺一帯が荒れていたこと。治安を良くするために、暴れ回っていたこと。いつの間にか、チームが出来ていたこと。弟との時間を作るために、チームをやめたこと。
太一、玲奈、蓮司、リュウ、ロウもそこに関係していたのも話した。
そして今、チームに何かがあったのではないかと心配しているのを伝える。だから、一度チームの無事を確認したい。もしかしたら、手を貸すことになるかもしれないと。
最後まで話し終えると、弟の反応を待つ。俺の話を邪魔しないために、最中は何も言ってこなかった。表情も変わらず、どう考えているのか分からなかった。
どんなことを言われるのかと恐怖を感じながら待っていれば、弟が息を吐く音が耳に入ってくる。それはどっちなんだ、さらに恐怖が募った。しかし、言い訳はしたくなかった。どんなことを言われても受け入れる覚悟だ。
「にぃは、そのひとたちをまもりたい。だいじなんだね」
「ああ」
なんだかんだ言って、みんな俺にとって大事な存在なのだ。傷ついて欲しくないと、そう願うほどに。
「そっか。それじゃあ、たすけなきゃね」
「いいの?」
「いいよ。にぃは、わるいひとをやっつけるんでしょ。ひーろーみたいに。かっこいいね。それならいいよ」
ヒーロー。俺はヒーローになれるのだろうか。好意的に受け止めてくれるのはいいことなのかもしれないが、俺がやっていたことはヒーローとは正反対な気がした。しかし弟が格好いいと言ってくれるのなら、許してくれるのならそれでいい。
「でも、やくそくして。ぜったいにけがをしないで。けがしたらだめ」
「分かった。約束するよ」
「ぜったいね。それなら、みんなをたすけてあげて。にぃはひーろーだから。だいじょうぶ」
弟は、俺の手を握って言った。その言葉だけで、もう無敵だった。
「はる、ありがとう」
きちんと話をして良かった。このまま隠し続けているよりも、今話すのが一番いいタイミングだったのだ。
「げんきのおまじない」
俺の手を引き寄せて、弟は元気のおまじないと言いながら、唇で手の甲に触れた。キザとも取れる行為に、俺の心臓が大きく鼓動する。
「げんきでた?」
「う、ん。凄く元気が出た。ありがとう」
驚いたが、嬉しいことに変わりはない。効果は抜群で、元気が湧き出てきた。
とにかくやるしかない。
俺の考えすぎであればいいが、大事なチームのメンバーを助けるために、俺は行動に移すことにした。
俺が直接尋ねても、きっと教えてはくれないだろう。関係の無い人間だからだ。だから間接的に知るしかない。普通だったら難しいかもしれないが、俺にはツテがあった。
「聞きたいことがある」
家を出て、俺は誰もいないように見える道に向かって話しかけた。傍から見ればおかしな行動だが、俺には勝算があった。
「三秒以内に出てくれば、俺がチームにいた頃のマスクを渡してもいい。三、二」
「お呼びですか?」
「い……やっぱり出てきたか」
まさか本当に出てくるとは。自分でしたことだが、さすがに驚いてしまった。三秒以内に現れるなんて、一体どこで見ていたのだろう。全く気配を感じなかった。
マスクというエサで釣り上がったのは、俺のストーカーである刑事だった。そんなに欲しいのか。俺には価値がないと思ったが、欲しい人には欲しいものらしい。まあ、これで呼び寄せられたのだから良かった。
約束通りマスクを渡すと、わざわざジップロックを取り出して中に入れ、そしてだ大事そうに懐にしまった。そこまですることかと、かなり引くが指摘はしなかった。今は相手の機嫌を損ねたくない。
「聞きたいことがあると言っていましたが、どういったご用件でしょうか?」
「最近、抗争が起こる噂や情報が入っていないか?」
回りくどいことはしないで、すぐに本題に入る。徒労に終わる可能性があるから、早く知りたかった。俺の質問は予想通りだったのか、予め用意されたかのようにすぐに答えが出てきた。
「私のところに入っているものですと、本日でしょうか」
「今日? その情報は確実なのか?」
「確実かは微妙なところですが、最近ここら辺一帯が荒れ始めていて、それを粛清する目的のようです。何故荒れ始めたのかというと」
「俺が、チームから抜けたからか?」
「残念ながらその通りです」
俺が抜けても、すぐに忘れ去られると思っていた。支障はないと、勝手に決めつけていた。しかし、俺のその判断のせいで、こんなことになっている。今は反省している場合ではない。
「どこでいつやるのか、情報は入っているのか。誰とやるのかも」
「そうですね……貴重なものをいただきましたから、私の独り言として聞いていただけるとありがたいです」
マスクの効果は絶大で、本来なら言えないはずの情報を教えてくれる。俺はその情報を頭に叩き込んだ。
「助かった」
「なんのことでしょう。私はただ独り言を言っていただけです」
「そうだな。それじゃあ、これも俺の独り言だと思ってくれ。感謝する」
お礼を遠回しに伝えると、思っていたよりも時間が無いので、とにかく向かうことにした。
「ご武運を」
走り出した俺の背中に声がかかる。それに対して、手をあげて応えた。
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