第39話 自覚した気持ちと決断
弟に、自分の気持ちを気付かされた。まさか、幼稚園に通っている弟に気付かされるとは。あまりに滑稽だ。しかも、初めて会った時から気づかれていた。きっと、だからこそずっと敵意を向けていたのだ。子供はそういうところが敏感だと言うが、実際に経験するとは。
気持ちを自覚したが、俺はこの気持ちを誰にも伝えるつもりはない。絶対に隠しきる。
何故かと言われれば、ただ単に俺が臆病だからだった。確かにロウは、俺に執着を向けてきている。しかしそれが恋愛的な意味を持つのか、全く自信がなかった。違うと言われた時、辛さで死にそうになる。それが嫌だった。
自分のことを守りたいのだ。なんて、なんてずるい人間なのだろう。それでも俺は、傷つくよりも自分を守りたい。絶対にこの気持ちは隠す。それだけだ。
弟は、どこか俺の様子を窺っている気配があった。俺がロウを家に呼ぶのではないか、告白するのではないかと考えているらしい。
しないと言っても信じないだろうから、特に何も言わずに放置している。そうすれば、自然と止めるだろう。
ロウとの連絡は、今も取り合っている。急に止めたら不審に思われるからだ。
それに電話だったらボロが出ていたかもしれないが、メッセージなら送る前に確認ができた。きちんと今まで通りの内容か、少しでもおかしなところはないか。何回も確認してから、ようやく送信する。
時間は遅くなっているけど、弟のことで忙しいと言えばロウも納得せざるを得なかった。それを狙った言い訳だった。今のところは、俺に変化があったのはバレていないはずだ。
太一や玲奈、蓮司にリュウ。四人とも最近は会っていない。俺が避けているわけではなく、それぞれ忙しいようだ。会う時間がとれないぐらいで、たぶん何か抗争でも始める計画をしているのではないかと予想している。
どのぐらいの規模で、どこが参戦するのか、気になることはたくさんあった。しかし尋ねるわけにもいかない。俺は、そういったことを捨てていったのだから。今さら、どの面をさげて聞こうというのか。
そういうわけで、どこかモヤモヤしながらも弟との時間を増やし、仕事をこれまでで一番早く終わらせた。担当が感動で泣き出すぐらいだった。締切をきちんと守っているつもりだが、他が大変なのかもしれない。
仕事に集中している間は、そちらに意識を持っていけるが、それが無くなるとみんなのことを考えてしまう。
俺は、こんなところで何をしているのだろう。そう思う。しかし、気になってしまうのだ。俺が何もしていないせいで、誰かが怪我をしたらどうしよう。そして誰かが怪我をしたとしても、それが俺に伝わる可能性が今のところはかなり低い。知らないまま、俺は普通の生活を送る。全てを捨てて逃げたせいで。
ロウのことでも悩んでいるのに、そちらも俺にとっては重要なことだった。チームを抜けてからの方が、悩み事が多くなった。どうしてだ。弟のことに集中するために、抜けたはずなのに。昔よりも弟を考える時間が減っていた。これは、由々しき事態である。
弟が幼稚園に行っている間、俺は悩みに悩んだ。それはもう、知恵熱が出るのではないかというぐらいに。
考えに考えて、そして決めた。
「ただいまぁ!」
「ただいま。それとおかえり」
「にぃもおかえり!」
いつも通り、幼稚園に迎えに行った弟と家に帰ると、先に風呂に入る。ご飯も食べて、寝る準備をして、後は時間まで好きなことをするだけというところまでいくと、俺は弟を呼んだ。すぐに俺のところに来た弟は、まるでこれからすることが分かっているみたいだった。
「はるに話さなきゃいけないことがあるんだ。少し、話をしてもいいかな」
「いいよ」
話の内容も分かっているように、真剣な表情になる。重い話になる可能性があるので、その方が話しやすい。時々、弟が本当に幼稚園生なのかと疑いたくなるぐらい、年齢にそぐわない賢さを見せる。
俺が育てたと自慢したいが、元々弟が賢い子なのだ。将来が本当に楽しみである。
しかし、今は弟の凄さに感心している場合ではない。寝る時間になる前に、話を終わらせなくては。もしかしたら、弟とはもう話せなくなるかもしれないが。
自然と正座の体勢になって、俺は話を始める。
「パパ達がお仕事で遠くに行く前、俺が家にいないことが多かったのは覚えている?」
「ん。ちょっとだけ、さみしかったからおぼえてるよ」
「寂しい思いをさせてごめんな」
「ううん。なにかあったんでしょ?」
「そう、話したいのはそのことなんだ」
ここで話を止めたかった。これから話をする内容で、弟は俺のことを嫌悪するかもしれない。そして、ずっと考えて決めたことを言ったら、俺を憎むかもしれない。
それでも話すと決めた。
「……その頃、俺はあることをしていたんだ」
「あること? どんなこと?」
どう説明するべきか。俺は前もって考えておいた言葉を口にする。
「たくさんの人と集まって……喧嘩をしていたんだ」
とうとう、俺の秘密を話す時がきた。
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