第22話 事情を知る




「つまり、あなた達はそれぞれチームを作っていて、そこに俺を加えるつもりだったってことですか?」


 言葉でノックアウトした後、回復するのを待って話を聞いた。どう考えても俺は巻き込まれた形だったので、聞いている途中で何度か手が出そうになった。しかし必死に理性を働かせて、最後まで我慢した。

 まさかチームに引き込もうとしていたなんて。そこまで気に入られていたとは。予想外だ。


「俺、喧嘩とかそういうの無理ですよ」


 どう見ても戦闘要員にはならなそうな俺を望むほど、何か切羽詰まった状況になっているかといえば、別にそういうわけでもないらしい。理由を尋ねると、開き直ったのかあっけらかんと答えた。


「俺のツレとしてだ。戦わせるわけがない」


 弱いとは思っていたらしい。戦わせないで傍にいさせる。恋人の立ち位置に据えようとしていたのだ。それも嫌だが、色々と順番を飛び越えすぎである。


「俺のことが、好きってことですか……?」


 否定してもらいたかったけど、その可能性がゼロに等しいのは自分でも分かった。


「露骨にアピールしていたつもりだったが、全く伝わっていなかったらしいな」


 伝わるか。アピールというのは、頑なにデートにこだわっていたことか。伝わると思うな。

 俺が鈍感なわけでは決してないと、蓮司を睨む。


「それで……えっと、リュウさん? は、どうしてここにいるんですか?」


 本当は知っていたが、あらためて自己紹介をした。こちらの名前は教えなかったけど。それでも名前を呼ばれるだけで満足しているのか、そこまで不満を言わなかった。


「……俺は、そいつに呼び出された……」


「どうして、リュウさんを呼び出したんですか?」


 わざわざ今日。なんのために。呆れていると、蓮司は言い訳を始めた。


「そいつのチームが、妙な動きをしていたのは本当なんだ。そういうことをしている時は、ろくな考えをしていないから何をするつもりなのか聞き出そうとした」


「今日にした理由は?」


「……自慢したかったから」


 馬鹿なんじゃないか。もしも俺がただの一般人だったら、トラウマものになっていただろう。考え無しか。一般人は巻き込まないようにと、口酸っぱく言っていたのは無駄だったのか。

 リュウのチームの件は確かにその通りだが、俺のいない所で勝手にやってほしかった。


「……レナが、いつもと違う……。それは……こちらも、把握している。……抗争を起こそうとか、そういうことではない……。……お気に入りが……出来たらしい」


「お気に入り? また新しいおもちゃでも見つけたのか?」


「……そういうのじゃない……たぶん、恋だ……」


「こ、恋っ!?」


 蓮司と一緒に、俺まで叫び出しそうになった。玲那が恋。全く結びつかない。

 人が苦しんだり、困ったりする姿が好きなサドなのに、恋なんてするのだろうか。にわかには信じられない。しかし、リュウは確信を持っている様子だった。


「……ああ……その人に、会うために……最低限のことしか、しなくなった……何かを、企んではいない……俺が、保障する……」


 恋という言葉に衝撃を受けすぎて、それ以外のことなど頭の中に入ってこない。蓮司も一緒に驚いていたはずだが、今はなんだか難しい表情をして考えている。どこか不満げでもあった。


「なあ、その相手は分かっているのか?」


「……まだ……後で教えると……」


「へえ。後で」


 そこで、どうして俺の顔を見る。俺がその人物を知っているとでも、勘違いしているのか。知らないと首を横に振れば、手を掴まれた。


「いいか。レナっていう奴は危険人物だ。話しかけられても無視しろ。しつこいようなら殴ってもいい。俺が許可する」


 許可をもらっても駄目だろう。突然殴ったら犯罪だ。


「そいつに関わるとろくなことがないし、面倒に巻き込まれるだけだ。俺の言うことを聞いて、絶対に関わらないでくれ」


 残念。すでに関わっている。なんなら家に来ている。

 それを言ったら、今すぐにでも引っ越せと言われそうなので、空気を読んで黙っておく。


 チームのナンバーツーが好き勝手に言われているのは、気にならないのだろうか。リュウを見ると、向こうもこちらを見ていた。


「そう、だな。……レナには、近づかないほうが……いいかも、しれない……」


「同じチームの方なんですよね? えっと、そんなことを言っていいんですか?」


 近づかない方がいいなんて、結構辛辣なことを言う。確かにその通りだが、同じチームのメンバーとしてムッとしないのだろうか。俺だったら、よく知らないくせにと怒るかもしれない。しかし、リュウは警告をした。


「……レナが危ないのは、本当のこと……迷惑をかけたら、申し訳ない……」


「そんなに」


 庇えないほど、玲那は酷いのか。確かに頭のネジが外れたところはあるけど、いい所もきっとあるはずだ。……たぶん。

 俺も自信がなくなって黙ると、何を勘違いしたのか今度はリュウが手を握ってきた。


「……大丈夫。俺が守る……だから、今恋人がいないなら……俺の恋人に、なってほしい……」


「はい?」


 どうしてそうなった。急展開な告白に、すぐには言葉が出なかった。





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