第16話 ドタバタデート?




 デートという言葉ではなく、お出かけという言葉に変えて受け入れた。蓮司は頑なにデートにしたがったが、そこだけは譲れなかった。

 お出かけをするのだって、どうなのかと思うのに、デートには絶対したくない。向こう以上に頑なな態度をとれば、最後には諦めてくれた。出かけることすらも中止されるよりは、名前など気にするべきではないと考えたらしい。賢明な判断だ。


 デート、ではなくお出かけ。一体どこに行くのかと尋ねたら、蓮司が全てセッティングをしてくれるようだ。俺は上手く計画できないので、そうしてもらえた方が助かる。

 俺は待っていればいいとのことで、連絡が来るまで普段の生活を過ごすだけでいい。

 蓮司には、日にちによっては予定が入っていることもあると、あらかじめ伝えた。空いている日は教えたが、弟に何かあればそちらを優先するしかない。弟が理由なのは言わなかったけど、なんとなく誰かが背後にいるのは分かったらしい。少しだけ機嫌が悪くなっていた。しかし、弟のことは絶対に内緒にしておくつもりだ。


 出かける予定はいつになるか決まっていないが、弟にはいつか出かけることになると話しておいた。


「にぃ。おでかけなの?」


「そう。でも、一緒には連れていけない。幼稚園でお留守番できるか?」


「おるすばん。がんばる」


「ごめんな。本当は連れて行けたら良かったんだけど、その人が二人がいいって言ったから」


「ぼく、だいじょうぶだよ。にぃがあそんでくれるなら!」


「うん。たくさん遊ぶから。約束する」


 次の日、たくさん遊ぶという約束を交わして、蓮司と二人で出かけるのを許してもらった。寂しそうだったけど、さすがに連れて行けない。心苦しいが仕方なかった。

 これで弟の件は解決した。あとは、いつどこに出かけるのかが決まるのを待つだけだ。


『この前送った予定の中だったら大丈夫そうです。出かけるのを楽しみにしています』


 なんだかんだ言っても、同年代と出かけるのは久しぶりのことだ。知らず知らずのうちにテンションが上がっていた。

 どこに出かけるとしても、まるで遠足のようなワクワク感がある。連絡が来るのを楽しみに待っていれば、ようやく蓮司からメッセージが送られてきた。


『今度の火曜日、出かけよう』


 たったそれだけのメッセージだったが、蓮司らしい。どこに行くのかは、当日まで内緒というわけだ。サプライズは得意ではない。予定が決まっていた方が計画を立てやすい。しかし今回は向こうが決めてくれるので、俺は連れて行かれるがままになればいい。それは楽だ。


『分かりました。何時にどこで集合しますか?』


『図書館の前、十時ぐらいはどうだ?』


『了解しました。何か必要なものとかあります? 服装とか』


 サプライズのお出かけで困るのは、その場に合わない服装や持ち物を持っていくことだ。誰も得をしないし、そうなるぐらいだったら行く場所を教えてもらった方がいい。

 ほぼ直接的に尋ねれば、少しの間の後返信が来る。


『動きやすい格好で、スマホと財布だけ持ってれば大丈夫』


 簡潔な答えだ。それに気に入った。財布もいらないなんてあったら、デートにする気かと怒っていたかもしれない。金も払わせないなんて馬鹿にしているのかと。そこの部分は大丈夫そうだ。

 動きやすい格好というと、外で遊ぶのだろうか。それともショッピングか。かしこまった格好とは言われなかったので、ドレスコードがあるような場所ではないみたいだ。緊張するので、その方がありがたかった。


『分かりました。他になにか連絡することがあったら教えてください』


『ああ』


 簡潔なのはいいが、ぶっきらぼうに受け取られやすい。慣れているから俺は分かるが、前に言っていた探し人に対しても、こんな態度だったのだろうか。繊細な人だったら、冷たくされていると誤解しそうだ。俺が気にすることでもないかもしれないが。


「そういえば……見つかったのか?」


 最近、蓮司からも太一からも探し人の話が出ていない。見つかったから言う必要が無いのなら構わないが、もしそうではないとしたら……代わりが見つかったとか。さすがにそれはないか。あんなに執着していたのだから、代わりが見つかるはずがない。

 きっと近づいているから、精神的に安定しているのだ。そうに違いない。

 もしその人に会うことがあれば、菓子折でも渡そうか。お礼とこれから頑張れの気持ちを込めて。


 火曜日か。まさか出かけることになるなんて思ってもみなかったけど、たまには息抜きをしよう。太一と玲那が来るのも別の日だし、弟の用事もない。遅い時間になるのは駄目だと伝えてあるから、ちゃんと調整してくれている。特に障害になりそうなことは何も無かった。何も考えずに楽しめそうだ。


「にぃ、とってもたのしそう!」


 スマホを見て顔が緩んでいたのか、弟が膝に抱きついてきた。そんなに言われるほど態度に出ていたなんて。俺は頬に手を当てながら、もう片方の手で弟の頭を撫でた。


「そうかもな。でも、一番ははるだから」


「ぼくも、にぃがいちばん!」


 どこかごまかすような言い方になってしまったが、弟は言葉通りに受け取ってくれて助かった。




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